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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
城塞都市の罠 編

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第一七九話、トラハダスの目的

 

 トラハダスとは何だ、というけいの問いに、金髪碧眼の少年は目を逸らした。


「邪神教団。邪神トラハダスを信仰するエセ教団、かな」


 答えてやった、という不遜な態度だ。こちらは少年の襟元をつかみ、凄んでいるのだが、まるで怖がっていないようだ。……女の姿をしているから舐められているのだろうか?


「エセ教団ね」


 慧が言えば、キャハル少年は口もとをニヤつかせるのである。


「本当に神様と思って信仰しているのは、下っ端の馬鹿たちだけだよ」

「ほう、お前は違うというのか?」

「違う」


 キャハルは淡々と答えた。


「教団の上のほうには、表沙汰になったら首が跳ぶような行為に身を染めている者もいる。金や女にしか興味がない俗物とか、生体実験と称して生き物を改造したりする狂人――」

「クルアスみたいな?」

「そう、クルアスみたいな」


 そこでキャハルは、じっと慧を見つめた。


「ただ、そういうのは幹部でも半分くらい。残り半分は――」


 意味ありげに声を落とす。


「この世界を壊そうって企んでいる」

「世界を、壊す……!」


 思いがけない言葉だった。驚く慧に、キャハルは冷めた視線を向ける。


「いや、邪神なんて信仰する組織なんだ。世の中への不満や復讐心を利用して、破滅的な方向へ持って行こうとするのは、そう不自然な話じゃないよね?」

「いや不自然だろ。普通に考えて」

「だから、普通じゃないんだって」


 キャハルは言った。慧は首を横に振る。


「邪神教団としては、確かに正解かもしれねぇけど、世界を壊そうなんて……」

「イかれてる?」

「そうだ」


 視線鋭く、キャハルを睨む。


「とにかく、それがお前たちトラハダスの目的というわけか?」

「思想の主流はね。残る半分は世界の破滅に意味を見い出せず、私利私欲に走っているよ」

「お前はどっちだ!?」


 ボク? ――キャハルは眼を丸くした。


「そうだな……ボクは『観察者』だから。組織主流派に協力的ではあるけれど、世界の破滅は別段興味はないなぁ」


 どこか他人事のような言い方だった。


「今回のことを考えれば、どちらかと言えば私利私欲を優先したかも」

「どういう意味だ?」

「えー、君には関係ない話さ。個人的な理由だよ」

「……一発殴ろうか?」


 右の拳を固める慧。キャハルは首を横に振った。


「野蛮だよ。ボクは協力的に君にお話しているじゃないか」

「だったら答えろ」

「うーん……。セラフィナに恋焦がれたから、ここにきた」

「ふざけるな!」

「本気だよ!」


 キャハルが怒鳴った。


「さっき、君がセラフィナだと思って語ったことは全部本当のことさ。他に意味はないよ」

「本当に、そんな理由か?」

「そんな理由って……ボクにとってはとても大事な理由だったんだけど」


 口を尖らすキャハル少年。年齢相応に拗ねているようだった。慧太は荒々しく息をついた。


「トラハダスがセラを狙ったのは?」

「ボクの個人的な理由。だから、トラハダスが狙った、という表現は間違い」

「つまり、お前以外の連中は、セラに関心がない?」

「今のところは」


 キャハルは答えた。


「ただ、アルゲナム、白銀の勇者の末裔だから、どこかで衝突する可能性はある。……クルアスが君たちを罠にかけたようなみたいなことは、今後あるかもしれない」

「クルアス」


 そういえば、トラハダスということはこの少年は、クルアスの仲間である。


「お前も、オレたちを罠にかけたんだろうが!」

「それは早とちりだよ。現に、ボクはセラフィナを町の連中の尋問から助け出したんだよ? 彼女、尋問官に殴られていたんだから」

「なんだと!?」


 これにはカッとなる慧だった。


「ボクはセラフィナにしか興味がないから、他の者がどうなろうとどうでもよかった。だから今回の件で恨むなら、クルアスだけにしてくれよ」

「お前、本当にクルアスの仲間か?」


 キャハルの言い分に慧は眉をひそめるのだった。


「仲良しこよしか、という問いなら、あいにく『違う』と答えておく。あいつは魔物(クリーチャー)研究が本業で、ボクは組織内の裏切り者を狩る観察者なのだから」


 一枚岩ではない、どころではない。各々が自分勝手に動いている印象を受ける。慧は、トラハダスという教団組織がよくわからなくなった。


「さあ、お姉さん。そろそろいいかな? ボクはお姉さんに問いに正直に答えたよ。ボクをどうする? 殺すの?」


 トラハダスは敵――その認識は間違っていないとは思う。だが目の前の少年(ガキ)は、話を聞く限りではまとも……ではない。セラに対しての異常な愛情を抱いている。狂気を感じさせる、異様な感情。 

 が、それを持って殺すというのはどうなのか、と迷いを覚える。教育してやるのは望むところだが、そんな暇はない。

 かといって放置するのは危険だ。何より、こちらの怒りや敵意に対して、まったく怯むところがない。死を恐れていない印象すら与える。


 ――本当にコイツ、ガキなのか?


 一発殴ってみればわかるかもだが、それでは単に苛めているみたいで格好がつかない。


「セラのことを諦めろ――と言ったら、聞くか?」

「聞かない」


 キャハルは即答した。


「彼女は自分の国を取り戻すために一生懸命頑張ってる。……それを応援してやろうという気持ちは?」

「お姉さん、それ本気で言ってる?」

「うん、オレも言っててないわーって思った」


 つまり、甘いのだ――慧は、少年を放した。


「何でだろうな。たぶん、オレはお前を殺すべきだと思うんだ」

「それはね、きっとお姉さんが優しいからだと思うよ」


 キャハル少年は笑みを浮かべた。天使の微笑み。……ますます殴り難い。


「お前は何でトラハダスなんかに入っているんだ?」

「言ったでしょ、ボクは『観察者』だって」


 キャハル少年は客車の戸を開ける。


「『見る』ことが仕事なんだよ」

「……行くのか?」

「だってここにはセラフィナいないし」


 キャハルは外に出た。慧はその後ろにつく。


「じゃあ、これからセラを探すのか?」

「そうしたいけど、お姉さんはそれを許してくれないでしょ」


 ニコリと笑顔でそんなことを言うのだ。慧は苦笑した。


「わかってるじゃねーか」

「その言葉遣いは乱暴だよ、お姉さん」

「ほっとけ」


 女の格好をしているが、本体は男なのだ。……それを知ったら、この少年はどんな顔をするだろうか? この余裕ぶった態度も崩れ、みっともなく喚き散らすだろうか。


 ――ま、言うつもりはないけどな。


 キャハル少年は御者台へ。そこには初老の御者がいて、こちらの様子を眺めていた。


「ここまでご苦労さん、帰っていいよ」


 お金を渡し、馬車を引き返させる。どうやらヌンフトの町で雇った者だったようだ。離れ行く馬車を眺めながら、キャハルは言った。

「ボクも実はそう暇ではないんだ。だから、しばらくセラフィナには会えないなぁ」


 だからここで手に入れたかったんだけど――と少年は笑うのである。やはり一発痛い目見させるべきか――慧は拳を振るうか迷った。


「それまで、君たちに彼女を預けておくよ。……彼女に傷をつけないでくれよ、お姉さん」

「言われなくてもそのつもりだ」


 慧は苦々しい気持ちになる。……これがガキでなくて、武器や魔法で攻撃してきたら返り討ちにしたものを。半端な悪党で、まだ幼い外見となると、命まで奪うのを躊躇ってしまうのだ。……つくづく甘い自分に歯噛みする。


「だがな、覚えておけよ。あくまで執行猶予だ。お前がやっぱり捨て置けない外道なら、すぐにあの世に送ってやるからな」

「怖い怖い。まあ、覚えておいてあげるよ、お姉さん」


 生意気な笑みと共に、キャハルは背を向けて歩き出した。完全にこっちに小馬鹿にしている。


「……言ったからな。トラハダスの評判どおりの悪党だったら、どこにいようと瞬時に――」


 ――殺す。


 すでに『種』はつけた。何もせずに見逃したりはするほどお人よしではないのだ。

 慧もきびすを返した。仲間たちのもとへ――本体である慧太に、ここでの結果を報告するために。

次回、『私刑』

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