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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
激闘! ベルゼ連隊 編

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第一〇五話、守るモノ、守らなければならないモノ


 慧太けいたの放った分身体である鷹は、上空からそれを見ていた。


 逃げた魔人騎兵が、後続する本隊に合流するのを。

 そして王都方向に、さらなる大部隊が街道に沿って移動してくるのを。


 鷹は慧太にその旨を伝えに戻った後、再度の偵察に飛び立った。大規模な後続部隊、そのおおよその数を確かめるためだ。

 待つ間、慧太は仲間たちに最初の偵察の結果を伝えた。

 ユウラは眉間にしわを寄せる。


「千以上ですか」

「前にいる大隊も入れりゃあ、二千は越えてるかもな」


 慧太が言えば、セラは息を呑んだ。


「そんなに……? 王都からの避難民を襲うにしては、数が多すぎでは」

「王都が陥落したか――」


 その言葉に、リンゲ隊長や親衛隊兵らが顔をこわばらせた。先日まで彼らが守っていた王都エアリアだ。陥落などという言葉は、冗談でも聞きたくないだろう。


「いや、こんな早く陥ちるわけないか」


 慧太はこの考えを否定した。


「理由はどうあれ、敵は街道に沿ってこっちに向かってる」


 狙いは避難民か、あるいは単に次の拠点を目指しているのか。このまま街道上にいれば、間違いなく接触する。

 リンゲ隊長が一歩進み出た。


「衝突は避けられない、そういうことであろう。……だが勝ち目があるとは思えない」

「……」

「セラフィナ殿下、あなたと傭兵たちはすぐにでも離脱を。殿軍は我ら親衛隊が引き受けます!」


 リンゲ隊長の申し出は、明らかに討ち死覚悟のそれだった。生還の望みは皆無。先導する敵魔人部隊が四百人ほど。これを阻止するのは――


「リンゲ隊長、ここにいる兵の数は?」


 セラが問うた。リンゲ隊長は背筋を伸ばした。


「はっ、騎馬十騎、歩兵五十一名であります」


 それがアーミラ姫殿下を守る部隊の全てということだ。王都の籠城で戦える者は残ったはずだから、この程度の数でも多いと見るべきかもしれない。……ただ、避難民を守るという観点からすれば、少なすぎる数だった。


「……敵を足止めするとして」


 セラは顎に手を当て、考える。


「避難民が安全圏に逃げられるには、どれくらい時間を稼ぐ必要がありそうですか?」

「……急がせたとしても、メルベンまでは二日はかかりましょう」

「二日――」


 前衛四百、その後方にさらに倍以上の敵が控えている現状。ここで二日も時間を稼ぐのは、まともに考えれば至難の業、というより無理だ。

 何せここは一本道の街道。砦も防衛用の陣地すらないのだ。


「姫殿下は、我らの馬をお使いください」


 リンゲ隊長は申し出た。


「騎馬なら、徒歩よりも早く移動できます」


 いや、そっちの馬よりアルフォンソを返してくれないか――慧太は思った。だがそれを口に出す前に、銀髪のお姫様が咎めるように言った。


「それは避難民を見捨てて、自分たちだけ逃げろという意味ですか」


 うわぁ――慧太は俯き、上目遣いで、セラとリンゲ隊長を見やった。……こうなるとセラは頑固だ。


「先ほども言いましたが、無防備な民間人が犠牲になるようなことは見過ごせません。民が安全圏まで逃れるまで、ここに留まります」

「姫君……」


 リンゲ隊長は感激したような顔になったが、それは刹那だった。セラの心意気は素晴らしいが、それが現実的ではないことを理解しているからだ。

 理想に走るセラに、冷や水を浴びせるように、ユウラは口を開いた。


「具体的に、どうやって魔人軍を足止めするんです?」


 淡々とした口調だった。理想主義は結構。納得できる作戦を聞かせてくれ、と言わんばかりの目を向けている。


「作戦は……」


 セラはしばし視線を街道、魔人軍がやってくる西へと向けた。

 まだ敵の姿はない。分身体の把握した魔人軍の位置から、一時間ほど余裕があった。……逆にいえば、もう一時間しかない。


「敵は街道に沿ってやってきます」


 白銀の戦乙女は言った。


「何故なら障害物がないから、ここを通るのが一番速いからです。ただこのあたりは左右を森に囲まれているため、敵の陣形は自然と細長くなります」

「……それで?」 


 ユウラは腕を組んだ。セラは青髪の青年魔術師を見る。


「つまり、一度に相手にする数はそれほど多くないということです。左右に広がれないなら、敵は前に進むしかなく、接近する間に攻撃魔法などで相手の兵力を削ることも可能です」

「おお」


 親衛隊兵らがどよめいた。リンゲ隊長は頷く。


「確かに一度に相手にできる数が制限されるなら、頑張り如何によっては数倍の敵をも足止めできるやもしれませんな」

「そういうことです」


 セラは頷き返した。

 リッケンシルトの兵たちの顔に希望が浮かんだが、ユウラは冷めた目のまま黙っていた。アスモディアもまた無言。リアナは……彼女はいつもどおり、自らの意見を出したりはしない。


 それらを見やり、慧太は髪をかいた。――言わなきゃ駄目だろう。


「あー、水を差すようで悪いけど、陣地もない街道で魔人騎兵を正面から迎え撃つつもりか?」


 突撃する騎兵に対し、歩兵というのは相性が悪い。対騎兵用の長槍を装備した兵がきっちりと陣形を組むなら話は別だが、さもなければ一度の突進で跳ね飛ばされるのが関の山だ。言うなれば、突っ込んでくる乗用車を迎え撃つようなものである。


 少数のリッケンシルト親衛隊に長槍装備の兵はいないようだ。そもそも彼らは王室警護が専門であり、護衛や室内での戦闘向けの部隊だ。野戦で、騎兵や大部隊を相手にするような装備はない。


「百歩譲って、騎兵を止められたとしても、敵には歩兵もいるんだ。左右の森の中に入って、こっちの側面に回ることだってできる。……数の暴力で押し負ける想像しかできないな」


 慧太の言葉に、リッケンシルト親衛隊兵の顔が沈む。せっかくのやる気を削ぐ結果になったが、少しの士気高揚程度で、この難局を乗り切られるとは到底思えなかった。


「ねえ、ケイタ」


 セラは静かに、慧太のもとに歩み寄った。盛り上げた雰囲気を台無しにされて怒ったか――慧太は彼女の叱責のひとつも覚悟する。

 だがセラは、慧太の前で止まると、その青い瞳を真っ直ぐ向けてきた。


「あなたなら、どうしますか?」

「……?」


 何を言っているのかわからなかった。


「負けられない、逃げられない戦いがあった時……それでも、逃げるのですか?」


 命あってのモノダネだ――ハイマト傭兵団のドラウト親爺の言葉がよぎった。傭兵というのは、ヤバイと思ったら逃げるものだ、とも。


「いま、私にとって、ここがそれです。私の背後には、大勢の人間がいる――」


 セラは両手を広げた。


「その人たちを、見殺しには、できません」

「……宮殿で話したこと、覚えてるよな?」


 慧太は露骨だった。


「ライガネンに行く。セラがしなくてはならないことだ。そのためなら――」

「明日救える命のために……ええ、あなたは言った。認めたくないけれど、間違ってはいない」


 でも――セラは諧謔かいぎゃくに満ちた笑みを浮かべた。


「ここで足止めしなければ、馬で逃げようとも、私たちだって結局は敵に捕捉されます」


 結局、追いつかれる――その言葉に胸の中に何かがストンと落ちた。そうだ、簡単な話だ。残る残らないに限らず、敵の足からは逃れられないという現実。

 すでに街道は、魔人軍から逃げようと半ば混乱している避難民がいる。馬に乗ろうとも、それらを避けていくのは難しい。


 なんてこった。慧太は心の中で唸らざるを得なかった。……選択肢など、初めから存在していなかったという事実に。

 それに真っ先に気づき、行動に移ろうとしたのが、セラだった。彼女は、理想に走っているように見えて、現実的にモノを見ていたのだ。


「なるほど、どっちみち捉まっちまうなら、戦うしかない、か――」

「それにですね、ケイタ」


 セラは続けた。


「避難民を盾に逃げたなんて、白銀の勇者の一族の名に、泥を塗るようなものです。そんな者にいったい誰が信用など寄せるでしょうか」

「ごもっとも。ああ、そうだ、セラが正しい」


 慧太はガリガリと自身の黒髪をかいた。同じ戦うなら、犠牲になる者は少ないほうがいい。


「そう言うことなら、話は別だよな。……なあ、ユウラ?」

「……そうですね」


 ユウラは、めいっぱいの苦笑を浮かべた。


「あんたの知恵を貸せよ。セラはそれを望んでいる」

「仕方ありませんね」


 青髪の魔術師は皮肉たっぷりに言えば、慧太も引きつった笑いを浮かべた。


「仕方ねえよな……まったく」

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