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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
狼人の襲撃 編

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第一〇〇話、オオカミ砦と銀狐


 狼人傭兵団のアジト、その奥にある部屋になだれ込んできた闖入者。

 その数、八人。だがこの部屋にいないだけで、まだ数名が砦の中にいるのを慧太けいたは、分身体を通して把握していた。

 慧太は手にダガーを、セラは銀魔剣を構えるが、形勢はあまりよろしくなかった。フード付き外套をまとう連中は、いずれも弓を構えている。

 迂闊に飛び込めば、結果は火を見るより明らかだ。

 慧太はともかく、セラが複数から矢を撃たれるという状況は願い下げである。いかに慧太でも防ぎ切れない。


 ――こいつらは敵か?


 狼人(ヴォール)ではない。彼らに比べれば、体型が細身だ。フードの奥の顔はよく見えないが、その形が獣人特有の耳を持つ種族であることはわかる。

 分身体を集めて、こいつらの背後から不意をつかせるか。狼獣人のリーダーを仕留めた方法と同じだ。敵であるなら――セラに攻撃しようものなら、誰だろうと容赦はしない。


「人間――」


 弓矢を構える一人が口を開いた。


「お前は何者だ? ヴォールどもの仲間か?」

「冗談。この場を見て、奴らの仲間に見えるか?」


 倒れ伏す十数体の狼人の死体。普通に考えれば、彼らと戦い、倒したと見るのが自然である。


「オオカミをお前らが倒したのか? たった二人で?」

「いや待て」


 仲間の一人が口を挟んだ。


「そちらの銀髪の娘は、姫様では?」


 姫? ――確かにセラはアルゲナムの姫であるが。


「耳がないぞ?」

「いや、化けてるのでは? 姫様なら人間に化けるくらい容易く――」


 化ける? その響きに、慧太はどうも違和感を覚える。セラも同様で、慧太と顔を見合わせる。


「姫様で在らせられるか?」


 男が問う。そう言われては、セラは剣を下ろしつつこう、答えるしかない。


「ええ、一応、姫ですけれど……」


 その時だった。


「そのほうら、武器を納めよ」


 涼やかな少女の声が響いた。フードの連中と共に、慧太もセラも視線がそちらへと向いた。

 奥の部屋から、静かな足音と共に入ってくる二人。

 一人は金髪碧眼の狐人であるリアナ。

 そしてもう一人は、白いローブをまとった、十代前半とおぼしき銀髪の少女だった。だが髪のあいだから覗く尖った耳は狐人のそれ。

 弓を構えてた者たちが一斉に武器を下ろした。


「姫様!」

「ご無事でしたか!」


「この通り、わらわは無事だ」


 少女は、歳に見合わぬ落ち着き払った声を発した。リアナを傍らに控えさせた彼女は、咎めるように細い銀色の眉をひそめた。


「それよりも、そこな人間の戦士は、わらわをオオカミどもの手から救い出してくれた御仁なるぞ。くれぐれも失礼のないように」

「は、姫様」


 フードの狐人らは、彼らが「姫様」と呼ぶ少女に一礼すると、慧太に対して身体の向きを変えて、頭を下げた。


「先ほどの無礼なる振る舞い、お許しいただきたい」

「……あぁ」


 敵でないなら、争う理由はこちらにはない。

 ふと、セラが慧太に身を寄せた。


「そちらの銀髪の方……ケイタのお知り合いですか?」

「ん、ああ。このアジトで狼人を制圧している時に、地下牢で見つけた」


 慧太は自身の黒髪をかいた。


 

 ・ ・ ・



 時間は少しさかのぼる。

 セラを取り戻すため、狼人のアジトである森の砦へと慧太とリアナは馬を走らせていた。……この馬は、慧太の分身体である。

 砦前の細い道を一気に駆ける慧太たちを、狼人たちは見逃さなかった。テリトリー圏内のよそ者に敏感な彼らは、すぐさま迎撃に出た。


「ケイタ!」

「ああ、とりあえず、オレが正面切って奴らの相手を引き受ける。リアナはオレの援護な」

「……わかった」


 リアナの駆る馬が速度を落とす。その一方で、慧太の乗る馬は加速する。

 砦ではクロスボウを構えた狼人の戦士たちの姿。


「はっ、言っておくが、今のオレは何の遠慮もしないからな……!」


 その言葉を呟いた時、砦から無数の矢が飛来した。だが慧太はよけなかった。

 肩に、胴に、矢が突き刺さる。それは馬も同様だ。頭に胴体に矢が当たるが、それだけだった。

 狼人らは驚いた。

 それはそうだ。矢を浴びて、平然と突っ込んでくる奴なんて『普通』はいない。


「……言ったろ。今日は遠慮しないってさ!」


 砦の門から狼人の戦士らが斧や鎚などの武器を手に突っ込んでくる。

 慧太の乗る馬が地面にずぶずぶと身を沈めていく。まるで硬い地面が水面にでもなったかのように。

 武器を振り上げた狼人らは目の前の現象に驚き、その足が鈍る。馬だけでなく慧太自身もまた地面に沈み――視界から消えてしまう。

 だが次の瞬間、狼人らの集団の中央で爆発するかのような勢いで漆黒の剣状のとげが伸び、彼らの身体を串刺しにした。

 飛び出した七人の狼人はたちまち全滅した。

 倒れる獣人らと引き換えに、黒い塊が慧太の姿に戻り、一気に砦を囲む城壁、その門へと侵入を果たした。

 そこには第二陣として、十名ほどの狼人の戦士が待機していた。それらを魔王が如く睥睨へいげいする慧太は悠然と進み出た。


「降伏したら命は助けてやらんでもない……って言っても聞かんよな?」


 狼人の戦士は歯をむき出し、威嚇の声を上げた。


「だろうな。お前らのリーダーが戻ってくる前に掃除しておかなきゃだよな……」


 慧太の影から、人型が盛り上がり、形を変えていく。

 分身体――単眼を輝かせる機械人形じみたフォルムへと変身する。それが三体、慧太の背後に控える。


「一人は右、一人は左。一人は上を掃除してこい」


 行け――分身体は慧太の指示に従い、三方向へと散った。

 正面の狼人に慧太が挑む中、城壁裏の庭に集まる狼人らを単眼の分身体が手に大鎚や刀を具現化させて振るう。


 鮮血が散った。


 打撃は狼人の胴を穿ち、骨を破く。斬撃は、その腕や頭を容赦なく両断していった。

 城壁上にいた狼人らはクロスボウを装填そうてんしながら慧太らを狙う。だが、一体の分身体が壁に張り付くと、あっという間にその頂上へと駆け登った。


『うおっ!?』


 狼人らが動揺する中、ギラリ、と目を赤く光らせる分身体。その腕がなぎ払われるように振れば、それは異様な長さに伸び、狼人の身体を貫き、両断した。


 それは一方的な虐殺だった。


 外の掃除を終えた慧太はリアナと共に砦内部へと向かった。拠点内に残っている狼人の戦士らは広間で、狭い通路で、小部屋から襲い掛かったが、無駄な抵抗だった。

 広間では慧太がその力で即席の防壁を砕き、影を用いた逆奇襲で仕留める。

 通路や小部屋からの不意打ちは、暗所や閉所での戦闘に長けたリアナが、その待ち伏せを悉く看破。出てきた途端にその一撃をいなすや否や、手にした短刀でその喉や急所を刺し、屍へと変えていった。一人あたり三秒と掛からぬ早業だ。


「……」


 リアナは淡々と、返り討ちにあった狼人の死体を見やる。慧太は首を傾げた。


「どうした?」

「……女や子供が混じってる」


 先ほど喉を裂いて仕留めた狼人の遺体を、慧太は見下ろす。確かに、砦の外で戦ったものより身体が小さかったように思える。


「隠れていればいいものを……」


 挑んでくるから悪い――慧太は同情しなかった。

 武器を持って挑んでくる以上、こちらを殺す気であり、黙ってやられるお人よしではない。

 やがて、地下へと到着する。そこは牢屋だった。鉄格子の嵌められた部屋が六つほど。外から中の様子が確認でき、そのうちの一部屋にひとりの囚人の姿があった。


 少女だった。


 銀色の髪の少女――白いローブをまとう彼女は、両手を壁に固定された鎖で繋がれていた。その頭部には狐耳があり、フェネックだとわかる。

 ちら、とリアナが慧太を見た。助けても、と言いたげなそれに、慧太は頷いた。

 金髪碧眼の狐少女は、壁にかけられた鍵置き場から牢の鍵を回収すると、さっそく開錠作業を始めた。

 銀髪のフェネックは、その様子を見ていたが、どこか不安げな表情を向けていた。


「そちたちは、何者だ?」


 少女の面影残す表情の彼女が問う。鍵を開け終えたリアナが牢の中に入ると一言「傭兵」と答えた。

 慧太は腰に手を当てて首を振った。


「ちょっとお姫様を助ける途中でね。お迎えする前に、狼の掃除をしているところだ」

「お姫様というのは――」


 銀髪の少女は、リアナに戒めを解かれながら言った。


「わらわを助けるよう頼まれたのか、傭兵よ?」


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