それって、どうなんだ…
明良は外に出した体を、ジリジリと後ろ歩きで引っ込めていた。玄関まで引っ込んでから、一旦引き下がる足を止める。
だが、後ろに下がる理由になっている人物の怪しげな歩みが止まることはなく――…。
「………秀。僕、用事あるから…」
「用事って何?」
「色々、とな…」
明良が視線を逸らしつつ、曖昧な答えを口にすると、秀治は物言いたげに両目を眇めた。
これは信じていない眼だ。絶対に信用していない眼だ。
まさしくその通りなのだがこうもあっさりと…普通にばれてしまうとは…――。
「………」
「な、何だよ…。その疑わしい眼は」
だけど、そのままではなんだが癪に障るので一言零しておく。
それでも幼馴染の嫌な視線攻撃は続く。
それが明良の一言も無効化にし、そして、完全に嘘だと気づかれていることを示していた。明良はその眼にいっそう焦りを覚えだす。
秀治に気づかれない程度に口をへの字に曲げながら、やはりこれも十三年来の付き合いの賜物だろうか――明良はそんなことを一瞬思ってしまった。
だが、明良もここでひくわけには行かなかった。
だって、何故なら、咄嗟に用事があると秀治に嘘をついた言い訳が出来ていないからだ。まぁ、正直なところ、本当の理由があるのでわざわざ言い訳を考える必要なんかないのかもしれないが。
でも、この不確かな危機感を、己でさえはっきりと判らずもやもやしているというのに、それをどう人に説明すると言うのだ。
それでもとりあえず、今の明良に出来る単純なことはとっさに思いつくものでひとつしかなかった。
信じてもらうために――信じてもらって帰ってもらうために逸らさした視線を元に戻しつつ、だが――…。
「……ないんだろ、本当は。俺に嘘ついて、なんなんだお前」
ちょうど目があった瞬間にそう言われ、ついでずいっと、顔を間近に持ってこられ明良の胸は焦りの中にありながらも思わず…ほぼ反射的にとくんと、ときめいた。
「………」
おい。おいおい…――なに、僕ときめいちゃってんだよ…。そんな呆れた突込みが自分自身に入った。