最終手段
もし、過ちに気づかれて、事が動き出したなら、僕はすぐさま君の前から姿を消そう。
だって、これ以上耐えられない。
だって、それ以上踏み込むべきじゃない。
この想いは誰かに知られて良いものではない。
誰に知られることもなく、僕の胸の奥底で眠っていれば良いんだ。
それが、君の側にいるための代償。
それが無理になったのなら、僕はもう君の側には居られない。
だって、苦しいじゃないか。
応えられない君がそこに居たら、苦しいじゃないか。
けれど、そんなことわからないよね。
僕が思い込んでいることが実際に起こるとは限らないもんね。
だから、ほんの少しだけ期待させていてください。
僕の本当が知られるそのときまで。
「…いっ、今の忘れて!今のナシ!!ホント忘れてくれ秀治!」
明良は情けない顔で頭を下げ、秀治を上目遣いで見やってから両手をお願いと合わせた。これで忘れてくれると思ってはいないが、これで忘れさせることが可能だとは微塵も思ってはいないが、羞恥心からやらずにはいられなかった。
秀治とは言えば、あっけからんと呆然絶句の体で明良を凝視したまま一向に動き出す気配を見せないままである。それで明良の当初の目的であった足止めは成功したわけだが。しかし、また窮地に立たされつつあった。――そう。自分の赤裸々な発言のせいで。今、本当に家に家族が居なくてよかったと、明良は心底思っていた。あんなこと聞かれでもしていたら、一生からかいの種にされる。そんなことははっきり言ってご免だった。
明良は今の状況を打破する案を必死に考えをめぐらせて、探している。だが、思いつく方法がひとつしかない。どちらかというと今の状況下で正直使いたくない最悪な方法だ。だが、今のこの妙に気まずい雰囲気から抜け出すためには一度、それを解いてしまえば良い。その雰囲気を作り出した元凶の二つの存在を一旦、別れさせてしまえば良いのだ。だが、それで秀治が何を思うのかが気がかりだ。たとえば思いつくこととして、変な誤解を招いたりはしないだろうか、とか。この想いが知られはしないだろうか、とか。そこら辺を深く考えはしないかが心配なのだ。まぁ、もう今回は本当にこの妙な空気の中に身を長く置いておきたくはないので、本意ではないが、最終手段を使わせてもらおう。もうこの際、後の事は未来の自分に任せるしかないだろう。頼んだぞ、未来の自分!
明良は意を決し、小さく息を吸い、面を上げた。
相変わらず秀治は明良を凝視したままで、一言も発しない。この男は一体どうにかしてしまったのだろうかと、頭の片隅で首をひねりつつも、明良がいざ口火を思い切って切りかけたそのとき…――。
「しゅ、秀治…あの、僕用があ…る…――」
『用事があるからごめん』その言葉は最後まで音にはされなかった。何故かというと、明良が音にする前にその幼馴染が声を発し、遮ったからだった。
「明良、俺は…お前の側に居て良いのか?」
ずいと、大股で秀治は明良に近寄ってきたが、明良は反射的に後ろに体を引いてしまう。だが、秀治はそのことには全く気づいていないのか、なぜか瞳をきらきらさせてにじりにじりといった風に距離を詰めてくる。
「ぁ…」
本能的に明良はヤバイと悟った。背を冷や汗が伝った。それでも、何がやばいのかはわからなかった。