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うっかりと…

 これはいけないことなんだ。


 決して犯してはいけないことなんだ。


 …そんなこと、解ってる。


 もうとっくの昔に思い知らされている。


 それなのに、まだ僕は諦めきれずにいる。


 果てのない想いは誰に打ち明けることも出来ず、いっそう僕を蝕んでいく。


 一体、いつになればこの苦しみは去ってくれるのでしょうか?


 それでも、捨てきれない想いはやはり僕を甘く禁域へといざなっていく。


 ああ、もう僕はどうすれば良いのだろう。














   

 明良はともすれば壊れてしまいそうなくらいバクバクしている心臓を、秀治に知られてはいまいかと気が気でなかった。もう一体何がどうしてどうなって今の状態に落ち着いてしまっているのかが解らないと、かなり混乱している思考回路で考えるが生憎混乱の極みに陥っている頭は使い物にはならず、ただ時間だけが静かに着実に流れていく。


 明良を抱きしめたまま何も言わなくなった秀治をちらと上目遣いで見やって目を逸らしてみたりを、もう幾度も繰り返し、それで自分達は一体何をしているんだと冷静になり始めた明良が口火を切った。


 「秀治、もう放してくれないか?」


 用件を一言声に出せば、秀治は己の沈黙を破り、それに応えてくれる。


 「…わかった」


 「ありがと」


 こうもすんなりと解放してくれるとは思ってもいなかったので少し拍子抜けしたが、まぁ、これでよかったのだと、例えどんな成り行きであれ、好きな人に抱きしめられているのは嬉しかったと、なんとも複雑な気持ちになったが。


 しかし、明良はその数秒後、困ることになる。――そう。明良は晴れてようやく自由になった体でなにをすればいいのか、判らなくなったのだ。


 さて、どうすれば良いのだろう。この気まずい空気をどう切り抜ければ良いのだろう。ああ、かつてこんなにも気まずい雰囲気になったことがあっただろうか。――…あったかもしれない。相変わらず秀治は黙ったままでその表情は難しいものになっていて、ますますどうすれば良いのか判らなくなってしまう。


 秀治は、解放したのにまだそこにいて首をかしげている明良を不思議に思って訊ねた。


 「どうして、まだここに居る?」


 そう言えば明良は目を瞬かせて、次の瞬間、男にしては細い腰に手を当てると呆れたように片目を眇めた。


 「お前こそ何言ってんだよ。ここは僕の家だぞ。僕がここにいて何も不思議ではないだろう。その線でいけば、秀治こそ僕にそう言われる方だ」


 「…………じゃあ、俺が出て行こう」


 「はぁ?…て、ちょッ!ちょっと待て。何で秀が出て行くの?!」


 しばしの沈黙を以って、いきなり突飛なことを言い出した秀治は洗面所を出ていく。廊下をどたどたと走っていても、怒る住人の声が飛んでこないのでどうやら家には誰もいないらしい。明良は玄関へ真っ直ぐに向かうその後姿を慌てて追い、腕をつかんで意味がわからないと叫んだ。すると、振り返った秀治は目を僅かに細めて不思議そうな声を出した。


 「だって、ここ明良の家だから。俺がいるほうが不思議だろ?だから、出て行こうと思って…。――お邪魔しました。」


 随分腑抜けた顔で淡々たる口調で理由を述べてくれた幼馴染に明良は『はぁ?!』と目を見開き、呆れすぎてぶつける言葉も声すらも出なかった。


 だが、遠ざかっていく背中にはっとした明良は何とかその足を止めようと無我夢中で叫んでいた。


 「秀治はここにいていいの!僕の傍にいればいいんだっ!!」


 「あき、ら…?」


 秀治が驚いた表情で、明良を凝視する。


 そして、その数秒後、冷静になった明良は顔から湯気が出そうなくらい、赤面したのだっ

た。ああ、なんて事を自分は口走ってしまったのだろう。

 

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