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その言葉は…。

 どうして、とかもう思いたくないよ…秀。


 君は僕をどんな風に見ているの?


 やたらと抱きついたりしてべたべたと身体的接触してくるけれど、それもやっぱり幼馴染だから…なのかな。






 「明良ぁ〜!」


 よく晴れた午後、頂上にあった太陽も徐々に傾きつつある昼下がり、かれこれもう十三年の付き合いになる幼馴染が何故か半泣き状態で屋上にやってきた。


 明良はその姿に驚き、あわてて駆け寄ると、


 「ど、どうしたの!?秀ちゃんっ」


 動揺をあらわに、声をかけた。


 ちなみに明良が驚いたのは突然現れた彼が涙目だったせいもあるが、今普通ならば授業を受けているはずなのに、どうして屋上に来たのかというのもあった。顔を心配そうに覗き込まれた秀治は、明良に縋るように抱きついた。


 「わっ!!?」


 突然のことに、明良は驚きの声を上げた。だが、秀治はかまうこともなくその腕に力を込め、明良を腕の檻に閉じ込めると不敵に笑んだ。


 スキンシップの多い秀治の腕の檻にさして抵抗することもなく、すっぽりと収まっていた明良はその笑みを見て、ハっとあることに気づく。


 そして、わなわなと肩を震わせた。


 「秀治っ!また、僕を騙しに来たのか?!」


 「…騙すとは言わないよ、これは。」


 秀治は満足げに言う。


 「お前は僕に心配させて、いっつもこうして笑う…!」


 秀治は時々ここで午後の授業をサボる明良を訪れては、泣いたりして明良で遊ぼうとする。明良もこれが初めてではないのでここに来たときはいつも警戒しているのだが、突然現れた幼馴染が泣いていたら警戒もあっさり解けて、毎回同じ手口にはまってしまうのだ。それが少し悔しく思うが、本当に何もなくて良かったという甘い感情がそれを上回ってしまうのだから仕方がない。明良は表では罠にかけられたことに憤ったような顔をして、その実抱きつかれて嬉しかったりするのでその温かい腕を拒むことが出来ず、仕方ないといった様子で甘受しておく。


 明良が黙って、その腕の檻に収まっていることに気を良くしたのか…秀治は更にぎゅっと抱きしめる腕に力を入れた。そのことで隙なく、無駄なく密着しあった体に秀治は何も思わないのだろうが、明良は違った。否がおうにも、相手のことを意識してしまい、かなりどきどきさせられる。しかも、その相手が十三年にもなる片思いの相手であるならば、尚更だった。


 「いやぁ〜、お前はいつ抱きしめても同じ男とは思えないなぁ」


 「…それは嫌味ですかね?」


 「本音さ、俺の。第一に俺がこんなことするのはお前だけだぞ。女になんか気軽にしないよ」


 「僕だけにするのは幼馴染だから、だろ」


 「まぁ、それもあるさねぇ…」


 意味ありげに呟く秀治に明良は目を瞬かせる。秀治は真っ直ぐに自分を見つめてくる明良の頭を胸元に引き寄せると、高い空を見上げて言った。


 「…俺は明良が一番大事だよ」


 その言葉に一瞬目を見開くが、明良はすぐに仄かに笑った。そして、それに応えるために言葉を紡ごうと口を開くが、声が震えていそうで怖くて何度かためらったが、やがて意を決して、のどに力をこめて声を絞り出すことに成功した。


 大事な幼馴染の背に回した腕に、その人と同じくらいに力を入れて抱きしめ返した。


 「僕も、秀治が一番大事だよ。だけどねェ…そんなことは彼女作ってからその子に言ってあげようね」


 少しの振動でも目尻に溜まった涙が零れてしまいそうで、必死に目を瞬かせないようにして、明良の出したその声は感情が丸出しでひどく苦しげだった。 


 




 ねぇ、君はどうしてそんなこと言うの?


 僕のことを、どう思ってそういうのだろう…。



 僕は秀治の心が、分からない。


 言ってくれなければ分からないけれど、訊かなければ君は答えてくれないだろう。


 僕にはまだその勇気がないから当分訊けそうにないな。


 でも、もしただの幼馴染に向けての言葉だったならば、それは間違ってるよ。


 秀治を好きだと思う僕には苦しいだけなんだ。

 



 

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