伝えるべき想い
君はどう答える?
どんな答えを僕にくれる?
君はどんな顔をする?
どんな表情を僕にくれる?
どんな答えも表情も…僕に対する反応なんていらないから、お願い…僕を見ないで。
怖いから僕を見ないで、何も言わないで。
――だけど、そこに居て。
見つめ返したら、視線を逸らして、僕を見ないでそばにいて。
答えなんて怖いから要らない。
代わりに幼馴染としての今ままでの居場所をください。
ずっとその席に縛り付けて置いてください。
何もできないように、一生そこで傍観していられるように…。
「…小さい頃にした、約束――?」
怪訝そうな顔で秀治は目を細めた。明良は秀治から視線を逸らし、腕で頬をとめどなく滑り落ちる涙をぐいっと拭った。ぼろぼろと流れる涙で充血した目が鈍い痛みを与えていた。涙でぐしゃぐしゃになった顔はみっともなくて見られたくなかった。けれど、もう逃げられないと思ったから、明良は腫れた瞼を押し上げながらも真っ直ぐと秀治を見返した。
諦めるには持って来いのチャンスだ。これでもう秀治のへ想いは断てるだろう。可能性が全くのゼロというわけではない。もしかしたら…――そんな思いだってあるけれど、明良が今成そうとしているのはただの幼馴染に戻ることだった。所詮、そんなものは淡い期待で終わるのだから、それなら初めからしなければいい。期待よりも諦めの気持ちのほうが大きかった。
「僕はずっと秀治を見てきた。小さいときからずっと秀治だけが好きだった。二人でした誓いだって覚えてる。ホントにできるとあの頃は本気で思ってたから嬉しくて…今でも鮮明に思い出せるけど…――」
――思い出すしかできない。
もう手にすることはできない。
夢に見る幸せの感覚がもう戻ってこなくて、それがたまらなく辛くて、痛くて、苦しくて、けれど、懐かしくて忘れたくなくて…素直に気持ちを伝えるという簡単な様で難しいことを難なくしていたあの頃の自分さえも羨ましくて。
――ああ…なんて浅ましいのだろう――。
少し前まではこの夢に浸って虚しい小さな幸せを感じられたのに。
それで満足できていたのに、今はもう満足なんて感じられない。
自分じゃ秀治と結婚できないと知った今にすれば、もうそれさえも苦しくて仕方ない。
結婚さえすれば、ずっと一緒に居られるというわけでもないことはちゃんと理解している。結婚が全てを結びつけるものではないことだって判ってる。たとえ結婚できなくても想いが通じ合っていたのなら別にそれでいいだろう。
結婚と言う書類上の結びつきが特別欲しいわけじゃない。ただ結婚できない事実が悲しいのは自分と秀治が同性だからだ。男である秀治に想いを寄せているくせに、同性では恋は成立しない。どこかでそう思っている冷たい自分がいる。結婚はそれをよく表していた。異性同士では恋は成立する=結婚できる。だから、結婚できない=同性同士では恋なんぞ成立するはずない。一方通行で終わるのだ。そんな固定観念が明良には強くある。
――欲張りになった。世間と関わるうちに、様々な人と接すうちに、社会を知っていくうちに我侭になった。
独占したいと、思うようになった。無理な願いを抱くようになった。
愚かな自分を知って、消えたくなった。
だから、これは本気の想いなんだと知った。
だすべき答えはわかっている。
伝えるべきなのだ。この想いを解放して、また幼馴染の席に着けばいい。『好き』とたった一言紡げばいい。簡単なことだ。臆病な自分にだってそれくらいする勇気は、あるだろう…?
風が凪いだ。明良は秀治の後ろから吹いてくる風を真っ向から受ける。――ああ……この風が今目の前に立ちはだかる壁だと言うのなら乗り越えて見せよう。大丈夫。軽い壁だよ、こんなの…。
なに…簡単なことさ。さぁ、覚悟を決めろ。息を吸って気持ちを整えろ。口を開いて、さぁ、その声で一言自身の思いを綴れ。何も怖くないさ。席はもう用意されている。あとは永遠にそこに座り続けるだけ。――出来るだろう?今まで幼馴染として秀治の側に立っていたんだから。座り続けるなんてお手の物さ。曖昧な位置で突っ立ったままより、よっぽど楽だろうさ。
――今まで散々逃げてきたんだ。自分自身からも秀治からも目を逸らし続けてきたんだ。もうそろそろ終わりにするべきだよな。
風が目にしみて痛かった。けれど、構わずに前を見据えた。もう目を逸らしてはいけない。逸らしてはいられない。終止符を打つときがきたのだ。
秀治を見上げた。自分より身長の高い幼馴染はこの状況を上手く理解できていない。それもそうだろう。急に泣かれて約束とか言われて…意味が判らなくて混乱していて当たり前だ。すぐに呑み込めているほうが異常だろう。そんな幼馴染をこれから更に驚かせ、混乱に陥れる自分を許して欲しい。これは自分とのけじめだから言わなくちゃいけない。君を困らせることになっても君には聞いてもらいたい。
ドクドクと、心悸が上がって激しい動悸がする。息苦しい。足が震えて、いますぐ身を翻したくなるけれど――ここまできて逃げるのはもう嫌だった。
「――秀治。好きだよ…僕はお前が好きだ」
答えは別に要らない。やっぱりそれは怖いから。けれど、これで自分とのけじめはつけられるだろう。
やっとここまで来たー!ようやく第十話です。
…話に詰まってきました。誰か助けて…――とは自分勝手すぎてとてもじゃないけど言えない…。
せめて『こうすればいい』…とか誰かアドバイスしてください…ッ!!わらにも縋る思い!(ちょっと違う)
……マイペースでのろいですが次こそなるべく早く更新したいと思います。