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妖狐



真が王都セイレーンを出発する時は、少しの光を届けるばかりだった太陽っぽい星も、今では爽やかな光で世界を照らしている。


そんな爽やかな雰囲気の中、真が妹について憂鬱になっている間のことだが、ユルド森林方面の警戒のために設置された騎士団小隊は、蜂の巣をつついたようようなてんやわんや感であった。





最初にその魔獣に気が付いたのは、森林との境にあたる入り口の警備にあたっていた、二人組の騎士であった。


二人組の騎士は、その魔獣の姿を確認すると同時に、緊急事態を報せる笛を吹いた。


そしてその二人組の騎士は、急な事態のために片方が警戒にあたるという当然の連携も出来ておらず、二人して笛を拭き終わった時点で、意識を刈り取られてしまう。


長らく驚異にさらされる事の無かった、ブライス王国騎士としては、笛を吹く事が出来ただけ重畳であろう。



緊急事態発生の笛の音を受けて、騎士団はすぐに装備を整えた。


壮年の小隊長は、一人の騎士に王都への緊急事態発生の伝達、そして数人の騎士に寝泊まりしていたベースキャンプでの待機を命じた。


伝達が一人なのは、ここから王都までは道が整備されており、また騎士を脅かすような魔物は出ないと判断したからである。


そして待機を命じた数人の騎士は、何れも騎士としては若く、将来は人の上に立つ存在となり得る素材を持つ者たちである。


実際、彼らはいてもたっても居られなくなり、応援に向かって叩きのめされた後、己の未熟を認め鍛錬に励んだ結果、騎士団を引っ張って行く存在となるのだが、それはまた別の話だろう。



小隊長は、役目を命じた者を除くすべての騎士二十四名を率い、笛の音が聞こえてきたユルド森林入り口へと向かった。


そこで目にしたのは、すでに昏倒している騎士二名と、何かを待っているかのような様子の魔獣、妖狐であった。





図鑑による知識によれば、その魔獣は銀色の毛を持ち、鋭い光を放つ青い瞳に射抜かれた者は、脚が竦み動けなくなってしまうという。


果たして、それは全くの事実であった。


魔獣、妖狐と対峙した瞬間に、二十四名の騎士小隊はその瞳に射すくめられ、動きを止めてしまう。


しかしながら、数人はすぐにその硬直から抜け出せたようで、各々の得物を構え声を発しながら掛かっていく。


思えばこれが悪かった。


妖狐はそれまで一瞬だけこちらを見たものの、その後は我関せずといった様子で、王都セイレーンへの道を見つめていただけなのだから。


それが、硬直から抜け出した騎士が敵意を見せた瞬間に一変した。


まるで大願成就を阻まれたかのように、その場から一歩も動かないまま妖狐は猛威を奮った。


妖狐の放った魔法により瞬く間に小隊の半数が無力化され、その事実に呆然としてる間にも次々と地に伏していく。


残った騎士達で妖狐に斬り掛かって行くが、それも妖狐の九本もある尻尾に防がれ、武器を吹き飛ばされ、無力化されていく。


残っているのが小隊長と二人の騎士だけとなった時、ふと妖狐がこちらに向けていた視線を再びセイレーンへの道に戻した。


小隊長はその様子に呆気にとられてしまったが、残りの二名はこれを好機と捉えたらしく、タイミングをずらし、別々の角度から斬り掛かって行く。


しかしながら、その特攻さえ妖狐は見もせずに騎士たちの首を二本の尻尾で打ち据え、昏倒させてしまう。


その妖狐は、既に一人だけ残っている小隊長の事など気にも留めていなかった。


たった一匹の魔獣に、精鋭とはいかないまでも良く訓練されてきた騎士小隊が、為す術もなく負けた。


その絶望的な事態に膝を屈してしまいそうになった時だった。


「うおおぉぉぉぉぉぁぁ!!!」

「お前は小隊長を護れ! 前は俺とこいつに任せろ!」

「了解! …小隊長!無事ですか!?」


小隊長の目の前には、ベースキャンプでの待機を命じた騎士達がいた。


「…!!何をしている! 貴様らは早くこの場から離脱しろ!これは命令だ!」


「嫌です!その命令には従えません!」


「この体たらくだ、敗走を論って命令違反などと言わせはせん! わかったら早く逃げろ!!」


「出来ません! たかが一匹の魔獣ごときに騎士団が屈するなど、あってはなりません!」


押し問答をしている内に、前衛の一人が昏倒する。


「この馬鹿共が! 貴様らが護るべきは私でなく、この国であろう!! 貴様らが逃げれば王都で対策を練る事も出来る! わかったらとっとと逃げんか!!」


前衛が一人いなくなった所に、最初に小隊長の無事を確認しに来た騎士が入ろうとしたが、魔法で吹き飛ばされた。


「早く逃げろ!! この情報、確かに王都まで届けよ!これが小隊長としての、最後の命令だ! とっとと行けぇぇぇ!!」


小隊長が前衛にいる若い騎士と場所を入れ替わり、妖狐へと斬り掛かっていく…




既にユルド森林入り口の手前まで来ている真だったが、非常に近付きづらい雰囲気である。


というのも、騎士たちと妖狐による白熱など無関係なワンサイドゲームが繰り広げられているからだ。


途中からは戦場モノの映画を見せられているような気分さえした。



妖狐はあれで大分手加減しているのだと思う。


騎士たちは勘違いしているようだが、誰一人として死んではいない。さらに、大した怪我をしている者さえいない。


しかも途中で何回か妖狐と目が合っている。


集中してあげなさいよ、なんて思いつつ二人の騎士との闘いを見ていると、

ついに待ちきれなくなったのか、「てててっ」と音がしそうな感じでこちらに向かって走ってくる。


しかも、同時に騎士の一人が王都に向かって逃げようとする。


なんとも間が悪いことだ。


などと思っている間に、その騎士は尻尾で再び森林入り口の方へと吹き飛ばされて行く。



というか、「てててっ」と真っ直ぐ俺に向かって来ているなぁ、これ。


「魔王様、私のオススメがこの妖狐です」


そんなランチか何かみたいに勧められても困るよ…

でも可愛いな…フサフサしてるし…


よし、ここは…!



「……おいでっ!!」


バッ!と両腕を広げ、中腰になり万全の受け入れ態勢を整える。


だって可愛いんだもん!

一生懸命こっちに向かって走って来る感じとか!

俺見つけた時に少し耳がピクッてした所とか!

知的な雰囲気だったのに今は喜色でいっぱいなのとか!


どストライクですよ!



高揚していると、既に目前までモフモフが迫っていた。


「よし、来ー…い…おぉ?おぉぉ!?待って!!」


思ったよりデカい!



両腕を広げ、バッチコーイな俺を見た妖狐は、勢いそのまま前脚を俺の肩に掛けるような形で飛び込んで来る。


その毛並みは予想通りモフモフである。


この感触が得られたのが、魔王の魔力の質によるという事ならば、悪くないものだ。魔王万歳である。


だがしかし、やはり思っていたより大きかったという事もあり、今は押し倒されてしまっていて、俺の全身がモフモフで覆われている。


もちろん感触的にはウェルカムなのだが、この重さは頂けないのだ。



…というか、普通に重い。


いや重い重い重い重い!!



圧死する!

モフモフに押し潰される!!



これはちょっと幸せ!!




誤字・脱字等のご指摘ございましたら、

よろしくお願いいたします。

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