日常と妹と
アレク王との謁見後は、訓練所と宿舎の往復の日々が続いた。
謁見の際に残された香取たち五人は、アレク王直属の近衛兵団のような扱いになったらしい。
騎士団長曰く、佐倉たちのステータスでも騎士団の一般兵とは能力に差があるらしいのだが、香取たち五人はさらに桁が違ったのだそうだ。
香取に至っては、職業が『勇者』になっていたとかなんとか。
いや本当、地下空間での偽装が上手くいってなかったらどうなっていたか…
プレートさんには感謝である。
「恐れ入ります」
プレートさんの板上に文字が浮かび上がる。
やかましいわ。
初めての眷属にして恐らく最弱の眷属たるプレートさんだが、今生の別ればりに送り出したのにも関わらず、すぐに騎士団から返却された。
訓練による成長を把握しやすくするためだろう。
非常に有難いのだが、テンションを上げて別れた分だけ恥ずかしかった。
そして訓練だが、騎士団が指導してくれたのは本当に最初だけで、この世界での鍛錬法や魔法の使い方、連携の取り方などを一通り教わった後は各個人での鍛錬や、班での訓練となった。
ちなみに班分けだが、俺は一人だった。ぼっちだった。
というのも、他の勇者は職業が剣士や魔法使いだったのに、俺は魔獣使いだったからだ。
剣の振り方や魔力の練り方などは教わったため、何の問題もなかった。泣いてない。
主に一人の時は、騎士団に少数とはいえ魔獣使いの方々がいるので、魔獣との共闘や命令の出し方などを教わったり、厩のような所に住む魔獣たちと戯れたりしている。
騎士団の魔獣は種類がそれぞれで、馬っぽいのやデカい兎っぽいの、狼っぽいなどがいる。
魔獣たちを厩から外に出し、騎士団宿舎近くの芝生の上で、狼っぽいの(シーフ・ウルフというらしい)が中々もふもふさせてくれないので、隙を窺っていた時のことだった。
「………チャーン!」
某国民的アニメの舌足らずな子みたいな声が聞こえた気がする。
さて、ここで俺があえて一切無視してきた事について説明しようと思う。
「……ぃちゃーん!」
そう、妹のことである。
年齢が一つ下で、俺と同じ高校の一年生。
背は150cmほどで、髪は清楚っぽい黒髪を肩ほどまで伸ばしている。顔立ちはその清楚な雰囲気に合い、お嬢様然といった感じだ。
性格も普段は穏やかで、怒ったところを見たことがない者がほとんどだろう。
本当に同じ両親の子か、と疑わしく思ってしまう程に整っている。瞳も青みがかっているし。きっと匝瑳家の突然変異種だ。
ここまでは、完璧な妹なのだ。
なのだが、
「お兄ちゃーーん!!!」
こと兄の真の事になると、目の色を変える。
妹、匝瑳 実織は小学生中学年ごろまで体が弱かった。
あまり学校にも行けておらず、行けても早退してしまう事が殆どだった。
同級生から見ると自分がつまらない勉強をしている間、自分の家に居られる実織が羨ましかったのだろうか。
無視から始まり、次第に実織に対する風当たりは強くなっていった。
普段は家から出ることも出来ず、たまの学校では苛めを受ける。
当時の実織にかかっていたストレスは、並大抵ではないだろう。
実織はよく家で泣いており、その度に根気強く実織のことを慰め、寝かしつけていた。
家にいる時にはよく話をしたし、お菓子を作ってあげたりもしていた。
もともと実織はよく懐いていたが、そのうち、実織がこちらに求めてくる距離感が兄妹のそれを超えているような気がして、いつしかこちらから距離をとるようになってしまった。
フェノーメノに召喚された日も、実織に発見される前に帰ろうとして、手早く荷物をまとめていた。
そして、実織は俺を捕縛するために教室付近まで迫っていたと思われる。
つまりそれは、妹の実織がフェノーメノへの召喚に巻き込まれている可能性もある訳で…
「お兄ちゃん!!!!」
次の瞬間、その清楚な雰囲気に似合わぬ速度で接近していた実織が、俺の腰に弾丸の如く突き刺さる。
実織が踏み込んだ地面は抉れていたし、加速の瞬間も見えていた。
妹が加速する瞬間とか見たくなかった…
ていうか痛い痛い痛い!
貫通する!!
妹が貫通する!!!
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