第一話 ラブレター
「未来! 大きくなったら俺のお嫁さんになってね! 俺は、未来の事が大好きだから!」
「うん! 私もお兄ちゃんが大〜好き! 私絶対大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになるね。それまでにはもっといい女の子になってるから」
朝日が差し込む頃、ピピピッ ピピピッと目覚まし時計の音が部屋中に鳴り響く。
まだ、重たいまぶたをこすりながら枕元の目覚まし時計に手を伸ばし止めた。
「ふにぁ〜。もう朝かぁ〜! せっかくいい夢見てたのになぁ〜。もったいないよぅ〜。お兄ちゃんの夢まだ見たかったなぁ」
原田未来は、十五歳の中学三年生。ショートカットの似合う普通の女の子。
ただ、一つ問題が……
それは、かなりのブラザーコンプレックスを持っているということだ。
未来は、ベットから降りて部屋のカーテンを開ける。眩しい朝日を浴びながら一つ大きく伸びをした。
そして、机の上に置いてある写真たての写真をみて
「お兄ちゃん! おはよー! 未来は今日も元気だよ! お兄ちゃんはどうかな?」
未来は、写真に一緒に写っている男、未来の兄に話かけた。
未来は二つ上の兄、原田翔太が大好きで仕方ないのだ。
未来がまだ小学校一年生だった頃、兄の翔太といつも一緒にいた。両親が共働きの為、学校から帰っても両親はおらず、いつも夕方両親が帰ってくるまでは翔太といつも一緒だった。
翔太も未来に優しく、いつも未来がしたい事を嫌がる事もなく一緒に遊んでいた。
そんな優しい翔太を未来はいつの間にか大好きになり、翔太が行くとこ全部一緒に着いて行くようになっていた。
翔太の事を考えてニヤニヤしていた未来を現実に戻す声が聞こえてきた。
「未来〜!! いつまで寝てるの!! 早くご飯食べなきゃ学校に遅れるわよ」
母親の声で我にかえった未来は「あっ!! もうこんな時間なの? 早くしなきゃ!! はぁ〜い、すぐに降りるよ」
未来は、急いで制服に着替えて朝ご飯を食べにリビングへ向かった。
リビングでは、すでに母親がご飯を用意して待っていた。
「いただきまぁ~す。あっ、ママそういえばお兄ちゃん今度いつ帰ってくるの?」
「そうねぇ~あの子は、いつも気まぐれに帰ってくるから分からないわねぇ~。気になるのなら未来が連絡してみたらいいじゃない」
「えぇ~いいよー。ママがしてみて」
未来は、翔太に連絡したいのはやまやまだが連絡するのが恥ずかしいとは母親に言えなかった。
恥ずかしいと言ったら母親が
「あんたバカじゃないの! 兄妹で恥ずかしがってどうするのよ」
と、言われるのがおちだと未来はわかっていたからだ。
「分かったわ。あの子いつも急に帰って来たりするから前もって連絡するように伝えたいし。連絡しとくわ」
「うん! ありがとママ。じゃ、私学校いってまぁ~す」
未来は母親が翔太に連絡するとあってウキウキ気分になりながら学校へと向かって行った。
ニヤニヤ顔のまま学校に着いた未来は、シューズに履き替えるため下駄箱を開けるとシューズの上に手紙が置いてあるのに気付いた。
紛れもなくラブレターだ。
未来は「またかぁ~」
と溜め息をつき見ないのも悪いので中を確認し手紙を読む。
「もぅ~、私断ったのにしつこいなぁ~。これで何回目だっけ……いい加減諦めてくれたらいいのになぁ~。私お兄ちゃん以外の男の人には興味ないのに」
未来は、再び溜め息をつき手紙を鞄の中に閉まって教室に向かった。
教室に着いて自分の席で溜め息をつきながらどうやってラブレターの返事を断ろうか考えていると
「未来~おっはよー!!」
と、後ろから大きな声がした。
未来のクラスメートの宮城奈央だ。
奈央は、スタイル抜群の体型で男子の注目を集めるのだが性格に少々難ありで何事に対してもいつもハイテンションな女の子。
未来は、奈央の朝からテンション高い挨拶にふりむく。
「奈央ちゃん。おはよー。奈央ちゃんはいいよね… 毎日テンション高くてさ… 悩みなんかなさそうだし……」
「未来~テンション低いわよー! てか、うちにも悩みぐらいあるわよ。化粧のノリが悪いとか、ちょっと太ってきたとかさ」
「はぁ~。そんな悩みでいいなぁ~。私も奈央ちゃんみたいにそんな悩みだったらめっちゃ楽だし、こんなに悩まなくても済んだだろうなぁ」
「相変わらず未来はテンションが低いわねー。何があったの。言ってごらん」
「実はね……また、下駄箱に入ってたの。で、どうやって断ろうかなって」
「あららぁ~、またなの~? ほんと懲りないわね! 何回もアピールすれば振り向いてくれるっておもってんじゃないの。どうすんの?」
「だから、それで悩んでるんだってばぁ~」
「そうよね~、女の子にとって恋の悩みは大変だしね。いっそオッケー出しちゃえば!」
「また、奈央ったらぁ~、ひとことだと思ってぇ~! 私は嫌なの!!」
「あはは。ごめんごめん。じゃ、ハッキリ言えばいいじゃないの! 興味ないって!!」
「そうだよね! ハッキリ言わなきゃダメだよね」
「そうよ! はい! 解決!! 未来健闘を祈ってるわ」
「もう~、奈央ったらぁ~」
未来は、ため息をついた。
そして、放課後を知らせるチャイムが未来の思いをよそに鳴り響いた。
「あ~あ、もう放課後になっちゃったよー。とりあえず行くしかないかな……気が重いよー……」
未来は、重い足どりでラブレターに書いてあった場所、屋上へと向かった。
屋上に出るドアの前で未来は深呼吸をしてドアを開けた。
ドアを開けると未来の知らない男子が待っていた。
未来に気づいた男子は未来に近づき
「あっ! 原田さん! 初めましてだよね。手紙読んでくれたんだ。ありがとう。初めて話すしクラスも違うから知らなくても当然だよね。手紙だしたけど来てくれないかもって思ってた。」
「えっ、まぁ、行かないと失礼かなって……思って」
未来は、言葉とは裏腹にあ~、無視するって手もあったなぁ~と思っていた。
「で、原田さん、手紙の答えが聞きたいんどけど! 僕は、原田さんのことずって見てた。で、可愛いし優しいし、僕はそんな原田さんにほれたんだ。もし、よかったら僕とお付き合いしてください。おねがいます!!」
「えぇ~と、そのことなんだけど私は今彼氏を作る気もないし……なんというか、わたしがズッキュン出来る男子がいないの。」
「だから、わたしはいつか私にズッキュンさせてくれる男子じゃないとむりなのよ。 気持ちだけは受け取っておくね。ありかがとう。でも、君とは付き合えない…… ごめんなさい。」
と、未来は、深々と男子に頭を下げた。
「私なんかよりもっと可愛いいい子いるとも思うし」
男子は未来のフった言葉を聞いて空を見上げ、
「そら、そうだよね。初めて会っ男子に告白されても困るやろうしね…… そっか、残念だな~。ちなみにさ、原田さんは好きな人か気になってる人とかいるのかな?」
「私……小さい頃から大好きな人がいるの! だから! その人と付き合えるまでは彼氏とかは絶対に作らないってきめてるんだ。」
「そっか、それじゃ告白してもダメだったね。 でも、これだけは、ぼくも、原田さんが好きなんだって言えてよかったし、原田さんと話もできただけでも充分だよ! ありがとう。好きな人ってこの学校の人?」
「違うよ。 そういうことだからこのラブレターの件ごめんなさい。あなたとは付き合えません。ごめんなさい。」
と、未来は、男子に頭をさげた。
「それじゃぁ~」
と、未来は行って屋上をあとにした。
「はぁ~、これでラブレターとか無くなればいいんだけどなぁ~。私は、お兄ちゃんしか好きになれないし。お兄ちゃんに会いたいよ~。」
翔太の事を考えながら家路に着く途中、未来の携帯が着信を知らせた。
携帯の画面を見た未来は自然と顔がゆるんだ。
電話の相手は、さっきまで未来が考えてた相手の翔太からだった。
「未来~! 元気してる~!」
久しぶりに翔太の声を聞いた未来は、心臓が張り裂けそうなくらい鼓動が早くなっていた。
「あっ、お兄ちゃん! 未来は元気いっぱいだよ! お兄ちゃんこそ元気なの? 心配だよ。」
「俺も元気だよ! 久しぶりに未来の声聞きたくなったし、顔文字見たくなったしね! 近い内に帰るから。また、どっか遊びに行こうな!」
「テヘヘっ、お兄ちゃん恥ずかしいよ~。未来もお兄ちゃんに会いたいって思ってたの。待ってるからね! うん、絶対だからね! 遊びに連れてってね! お兄ちゃん電話ありがとう。んじゃ、またねー。お兄ちゃん……」
「分かった! んじゃ、どした?」
「ううん、何でもないよ……」
「そっか、んじゃ~ね」
未来は、翔太が電話を切るまでずっと携帯を耳に当てたままいた。
電話が終わった後も
「はうぅ~、お兄ちゃんの声もっと聞いておきたかったなぁ~。」
と、翔太の事を考えながら家路に着いた。
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