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プリーズ・ラブ・ミー!

作者: えいたん


 宗佑はテレビの画面を見ながら、カレーを食べていた。

 夏野菜を使ったカレーが好物だったことは、彼女も覚えていたらしい。

 しかし、その肝心の彼女は、この場にいない。

 愛する恋人、蒼子は無機質なテレビに大きく映されていた。

 宗佑は蒼子を、見つめながら、黙々とカレーを食べ続ける。

 ただひたすら画面を見続けながら。

 瞳は鈍く光り、複雑な感情が虹彩に宿る。

 夏の蒸し暑い部屋に、カレーと宗佑とテレビの中の蒼子。

ただ不気味な光景が広がる。


さて、そろそろ話しを進めようではないか。

そのためには、説明が必要である。

 この状況を理解するためには、重大な要因が抜けていた。

 

今日は宗佑の誕生日だったのである。

 


 宗佑の恋人は、世界中を飛び回る忙しい研究者だ。

そんな彼女から、久しぶりのメールが送られた。

宗佑の心臓が、ドクンとはねる。


「宗佑へ

 誕生日おめでとう!

 今日の夜9時に必ずテレビをつけてね!

 忘れちゃだめよ。蒼子」

 

 期待を裏切られた、という気持ちが少し。

なんて淡白なメールだろうか。

 俺の心臓は、またのろのろと動き出す。

 肩にかけた鞄も、少し残念そうにずり落ちた。

 寂しいなんていう歳じゃないことも分かっているが、寂しい。

 あいつは本当に俺のことが好きなのか。

 

仕事から帰り、部屋に入ると違う空気があった。

 もしかして、とはやる気持ちが足をもつれさせる。

「蒼子!」

 自分でもびっくりするくらいの大きな声がでた。

 叫ぶ言葉は虚しいくらいに何ものも動かさない。

見慣れた家具さえ今は他人の顔を装っていた。

宗佑をいっそう寂しくさせる。

なんだよ。お前らまでそんな顔をしなくてもいいだろう。

泣き言の一つも言いたくなる。

 さらに、閉めきった部屋独特の蒸し暑さが、宗佑に襲いかかる。

 またか、またなのか。

 泣き言二つ。

 心からの重く長いため息がこぼれた。

 ただ一つ救われることは、机の上のカレー。

 それから、手書きのメッセージが一枚。


「宗佑おかえり!

  好物のカレー作っておいたよ!

  ちゃんとチンして食べてね!

  9時にテレビ!

  忘れないでね!」


 !の乱用。

 あいつは、句読点を知らないのか。

「チン」ってなんだ。

 電子レンジ、だろ。

そして、この文面。

 まるでお留守番の子供扱いじゃねーか。

 これが、恋人への態度だろうか。

 いや違う。

 と俺は思う。

 もっとあるだろ、他にやり方が。

 

 心中つっこみの嵐でも、蒼子には届かない。


 そして冒頭に戻る。

 俺は、テレビの中の蒼子を見ながらカレーを食べている。

 テレビには、記者会見の様子が映し出されていた。

 何かの研究発表のようだ。

 宗佑はただ、そこに映る蒼子だけを見ている。

 「佐多蒼子博士、新細胞の発見!世界を救う偉業を果たす!」

 テレビのテロップにはそう書かれていた。

 

 宗佑と蒼子は、互いに仕事の話をしない。

 そのため、宗佑は蒼子がどんな研究をしているのかも、この放送を見るまで全く知らなかった。

 どうやら、俺の恋人は世界を救うために色々と走り回っていたらしい。

 いつもへらへら顔で、よく分からん所でいきなり笑い出し、俺を無下に(それも無意識に)扱う、非情な恋人、いや変人。

 そんなやつに、世界は救われるのか。

 世界も地に落ちたもんだ。

 宗佑は鼻で笑う。


 しかし、どれだけ世界を馬鹿にしても、この感情は消えない。

 世界に『嫉妬』しているのか、この歳で。

大人になれ、自分。


 いや、しているとも。俺は嘘をつかないぞ。

 この感情を『嫉妬』と言わずになんと言う。

 『嫉妬』上等だ。

 この研究に、俺と蒼子の二人の時間がどれだけ潰されたことか。

 宗佑は悶々とした気持ちを静かに爆発させていた。

 蒼子もどうかしている。

 この番組を見せたかったのか。

 俺の誕生日に。

あいつがしたかったことは、これか。

 もう、よくわからない。

 そういえば、あいつは天才かもしれないが、変人であることも忘れてはいけない。

 天才で変人の頭の中なぞ想像しても、分からない。

 いや、想像するだけ馬鹿ばかしい。

 

 ふと宗佑は正気に戻る

 いや、一番の馬鹿は俺だ。

 恋とは、惚れたほうが馬鹿者に成り下がる。

 惚れた俺が馬鹿だった。 

 

 ああ、嫌だ。

 惨めな俺。

 こんなことを思いたくはない。

 けれど。

世界を救う前に、俺を救ってくれよ。

 世界なんてどうでもいい。


 俺を愛してくれ!


ばかばかしい話を書いてみたくて書きました。

いつか蒼子視点の方を書きたいです。

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