朱色と風と(千)
吹く風が 洗濯物を 躍らせて 遠き光を 隠すや見せる
いつもより早く目が覚めた私はそんなことを思った。窓から差し込む朝の光で読書をしていると、突然その光が消えて、数瞬のうちにまたやって来る。
ベッドから起き上がって外を見ると、マンションの目の前の公園にたっている木々は豪快に葉を揺らしていて、その強い風がベランダの洗濯物を躍らせていた。あたたかい日差しと、強い風。理由もなく心があたたかくなる。
いつもなら目が覚めたらすぐに出かける準備をじなくちゃいけないから、こんな体験をすることはなかった。今日はたまたま朝早く起きれたから、この当たり前なようでどこか心の弾むものを見ることが出来た。
そんなことに私は満足する。この見ても見なくても何も代わらなさそうなひとつのものが、私に何かを感じさせて、まるで何かを得た気になれる。ときどきだけど、こういう自然との巡り合いが、山や川まで行かなくても出会える小さなものが、毎日必死に得ようとしているいろいろなものよりも大事なんじゃないかって思う。何にも代えることの出来ない、こんな一瞬との出会いが、どんなものよりも価値のあるものなんじゃないかと思えてくる。
犬の鳴き声が聞こえる。もうこんな時間か。近所の犬は毎日朝七時半にワンワンと鳴きだす。電池要らずの目覚ましが鳴り響く時間に、私は毎日したくを始めることにしている。
今日は何を着て出かけようかしら。夏の服選びは、私にとっては冬のそれよりも難しい。重ね着が出来ない分、一枚で個性を出すことになるから。
白いクロゼットを開けて、ハンガーでつるされている服たちを見る。すぐに、朱色のグラデーションのワンピースを取り出す。今日はワンピースな気分だったから。次は帽子を選ぶ。七個ある中から、ひとつずつかぶってみて、結局夏には一番よく使う麦藁帽子にした。
最後に姿見で変じゃないかを確認してから、机の上に置いておいた白いトートバッグを肩にかける。振り返ってもう一度だけ風に揺れる洗濯物を見て、少しだけ笑って部屋のドアを開ける。今日は珍しく朝からいい気分だ。鼻歌交じりで階段を下りて行く。
まぶしくて 強い日差しは いつもより 私の心を 弾ませている
外に出ると、部屋に差し込んでいたよりもずっと強い日差しが降って来た。真正面の一軒家の庭から、柴犬がこちらを見て尻尾を振りながら吠えている。飼い主のオバサンはまだ家から出てこないらしい。風が庭の芝をササッとなでていて、強い風に犬はますます吠え出す。じゃあね、と軽く手を振って、歩いて十分のバス停へ向かい始める。雲ひとつない空がとてもすがすがしい。
一日の 始まりの朝 くもなくて 朗らかに歩む 一人の私
雲なき空を見て、苦もなく歩く。
今回から、少し空白の行を増やします。
読みやすければ、幸いです。




