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雲量(千)

 前話、「怒りのスイッチ」の続きです。

 この話から読んでも、おそらく違和感はないと思いますが。

 次の日、アイツ(村田という名前だった)は学校に来なかった。

 風邪で欠席。アイツのほかに三人のクラスメイトが休んだ。先生は「風邪がはやっているから気をつけろ」と、どこか当たり前なことを言っていた。


 休み。絶対に何か言ってやろうと思って学校へ来たのに、いざクラスに入ってみれば私を馬鹿にした村田はいなかった。私のこの怒りはどこへも放出することは出来なかった。


「あぁ! イライラする!」


 誰かに村田のメールアドレスか携帯番号を聞いて何か言ってやろうかと思ったけど、それは事情を知らない人からすれば不自然。どうして? なんて聞かれてわけを話してしまえば、私の趣味がさらされることになる。

 ……。こちらからコンタクトを取るのは難しい。というか第一、なんで私がアイツのために自分の時間を使わなくちゃいけないのか。そこからして変だ。まったく、何でこんなことに……

 


 授業はどこか上の空のうちに終わってしまった。ノートは一応とっていたらしいが、先生が何を言っていたのかほとんど思い出せない。窓側の席にいる私は、ちょっと首をひねればすぐに外の景色を見ることが出来る。雲量は三か四。ふわふわと浮かんでいる雲、ぜんぜん動きのない雲を、私は三十秒ぐらいぼおっと見ていた。もう苛立ちはそれほどなかった。代わりに、名前も知らないモヤモヤとしたものが、心の中に入ってきていた。



 結局私は、そのモヤモヤとしたものを玉にぶつけることにした。

 テニス。

 庭球という漢字でも表されるそれ。もうあと三、四ヶ月で引退してしまう部活動。


 自分で言うのもなんだけど、私は女子テニス部の一番手。ストレスを発散できるぐらいがむしゃらに楽しむことは出来る。

 思いっきりサーブを打ち、思いっきりダッシュして、思いっきり考えた。流れる汗が気持ちいい。心の中の、形のわからない何かがだんだん小さくなっていくのを感じながら、思いっきり楽しんだ。



「お疲れ様でした!」


 集中していたからか部活動はあっという間に終わった。後輩はグラウンドの整備を始める。いつもはここから少し皆でおしゃべりを始めるのだけど、今日はあんまりそういう気分じゃなかったので、すぐに帰ることにした。雲量はいつの間にか二ぐらいになっていた。


 零ではない、ほんの少しだけ残ったそれ。心の中のモヤモヤもまさしくそんな感じだった。

 ……。明日はぶっとばす。心の中でそうつぶやいてから、家の門を開けた。


 雲ひとつない空が、頭上には広がっていた。

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