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サンブンのニ(1・0)

 図書館は面白い。

 人の思想は、まるで人の顔のように、そえぞれぜんぜん違っている。少し似たような思想もあれば、まるっきり反対のことを言っている人たちもいる。


 そんな人たちが、それぞれ異なる思考を持った人たちが残した言葉は、面白い。

 それがあちこちの棚に並べられた図書館は、面白い。



 将来の夢は何ですか? と小学校を卒業するときに聞かれた。そんなことを、この年で自分のコレから歩む道を決められるなんて、あの先生はそんなことを思っていたのだろうか。


 あんなことを尋ねてくる先生にも驚いたけど、それに何の文句も言わずにそれぞれの夢を書いていく皆にも驚いた。まるで自分が間違っていて、自分だけがずれているのかと思った。


 先生は、筆をまったく動かさない私を見つけて、微笑みながらこちらへ向かってきた。私はその微笑みに、何を返せばいいのかわからなかった。


ともちゃんは何になりたいのかな?」先生はしゃがみこんで、椅子に座っている私に目を合わせてそう尋ねた。


「わからない……」私はそう答えた。今まで一回も、そんな答えを返したことは無かったのに。算数でも、お母さんの教えてくれる数学でも、お父さんの教えてくれる物理でも、こんなに「わからない」って思ったことなんて無かったのに……


「そう。わからないかぁ」先生はどうしてかわからないけど、とてもやさしく微笑んだ。今になっても、あの笑顔の意味はわからない。


「うん」私はわからないことがだんだん恥ずかしくなり、耳が真っ赤になって、どうしてか泣きそうになってきた。


「それじゃあね」先生はハンカチで私の目元を拭いてくれた。私はこの人のことを馬鹿な先生だとおもっていたのに、とても恥ずかしい……


 図書館に行ってみなさい。そこにはいろんな思想があるわ。いろんな哲学があるわ。


 そこには──いろんな夢があるわ。




 図書館に来るといつもこのことを思い出す。そして少しだけ恥ずかしくなり、それから懐かしい気分になる。

 あれはもう一年も前のことだけど、あれいらい先生はどこかへ引っ越してしまったからもうあえていないけど、それでも覚えている。


 私の今の夢は、万能人。枝じゃなくて、木になりたいと思っている。

 この夢は、お父さんには笑われ、お母さんには「いい夢ね」といわれた。

 私にも昔、そんなことを言っている友人がいたわ。そうお母さんにしては珍しく、どこか遠くを見るような目で言っていた。



 今日は妹と一緒に図書館に来た。妹は児童書のコーナーへ、私は数学のコーナーへ行く。


 十になるには、まずは一から。お母さんのその言葉を一度自分でつぶやいてから、私は面白そうな本を探す。



 図書館は、面白い。

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