ひとつの樹木。いくつもの根っこ(2・1)
ものを見るには、何を基準にすればいい?
「先生ってさ、よくもまぁ毎日あんな妙なことを思いつけるよね。あの脳みそはいったい何で出来ているんだろう?」
「はぁ? そんなのアタシたちと同じ成分に決まってるじゃない。中学生にもなって、そんなこともわからないの?」
「いや、これはそういう意味じゃなくて……」
「それ以外に、その言葉に、どんな意味があるっていうのよ?」
楓はヒロを馬鹿にするように言う。下校途中の二人の子供の、捜せば隣町にだってありそうな喧嘩の風景。
空は笑っているような晴れ模様だ。何に対してそんなに笑っているのか。
世界に笑っているのか。人間に笑っているのか。自然に笑っているのか。
「今日もさ、寄って行っていいかな?」
「何言ってるのよ、当たり前でしょ」
「あ、ありが」
「ランプの散歩に行かなきゃいけないんだから」
「えっと…… 誰が?」
「ヒロが」
苦笑いのヒロは歩きながら背伸びをした。
桜の花びらが目の前を散っていき、足元へと落ちる。二人はそれを踏みつけて、道を歩いていく。
「先生ってさ。なんかこう…… 先生っぽくないよね」
「田町先生のことね。まぁ、そう言いたくなる気持ちはわかるけど」
「もちろん、やらなきゃいけないことはちゃんとやってて、授業とかも面白くわかりやすくやってて…… そういう意味じゃ先生っぽいんだけど。うーん、どう言ったらいいのか」
「そうねぇ。とりあえず、朝と帰りのアレが際立って奇妙なカンジ」
「樹木と根っこのやつか。確かに、ボクの今までの先生には、いなかったなぁ」
「あんなのが何人もいたら、いろいろタイヘンでしょうが」
「ははは。ま、面白そうではあるけどね」
桜の散る道を二人で歩き、まもなくひとつの豪邸にたどり着いた。洋風な建物、周囲に比べて広い芝生の庭。楓の自宅だった。
楓が門を開くと、すぐに犬の鳴き声が。ランプが二人に、尻尾を振りながら走ってくる。上品な顔立ちの中型犬。
「ただいま、ランプ」
「や、ランプ」
ランプは二人の周りをグルグルと回っている。犬独特の、はねるようなステップで。
楓はランプに「おすわり」と命じて興奮を抑えた。ランプはお座りのポーズをとり、尻尾だけせわしなく動かして、主を見た。
「よし。ランプはまだお庭で遊んでなさい。チャイムがなったらお散歩よ」
ワン。と一度だけほえて、ランプはまたどこかへ走っていった。犬が走り回るのに十分な芝の庭で。
「そういえばさ、今日の根っこ、アンタの根っこは何だった?」
「あぁ、『ものを見るには、何を基準にすればいい?』の根っこ? というか、いまさらだけど、根っこってなかなか斬新だよね」
「質問の種をまいて、それぞれがはやした根っこを見てみたい、だっけ? 根っことかより花のほうがしっくりくるのに。先生って、そういうところは変人ね。そういうところも、かもしれないけど」
「ボクは結構好きだけどね。みんなの考えを、根っこってたとえるの」
「アタシだって、嫌いとは言ってないでしょ?」
二人は広い庭に建っている、大きな家へと入っていく。ランプは家の扉の閉まる音を聞いて、屋敷のほうへ目を向けたが、またすぐ庭を駆け回り始めた。
「お邪魔しまぁす」
「邪魔するの?」
「そういう挨拶なんだから」
「じゃあ。お邪魔しないの?」
「えっと…… 家には入るけど何かの邪魔はしないよっ」
アハハっと笑う楓。少し黙っていたが、結局笑い出すヒロ。
「そういえばさ。今日は根っこを生やした?」
「うん。楓は?」
「アタシは毎日ちゃんと生やしてるわよ」
「そうなの? じゃ、どんなのか教えてよ」
「アンタが先に言って。そしたらアタシも言うから」
「えぇ? そう言って、ホントは言わないつもりなんでしょ。ボクのだけ聞いて笑おうとしてるんでしょ」
「アンタね。さすがにアタシもそこまで意地汚くは無いわよ」
「じゃあ、いっせいのせ、で一緒に言おうよ」
「それでも、そのタイミングで言わないかもしれないじゃない?」
「えー? そんなこと言うの?」
「ふふふっ、冗談よ。アタシはちゃんと言うから、アンタもしっかり言いなさい。後出ししたら、ランプの散歩三倍だから」
「ボクはちゃんと言うよ。じゃあ、いくよ」
「いいわよ」
「ものを見るには、何を基準にすればいい? の根っこはぁ。いっせいの、」
「値段だよ」
「自分ね」
自分の意見に自信を持って、互いが互いに伝える。そして、互いの根っこを考える。
「自分って…… ガセモノをつかみそうだね」
「値段って…… 価格詐欺にあいそうね」
二人はそれだけ言うと、また少し考えた。相手が何を思ってそれを根っことしたのか、どうしてその考えを持ったのかを考えた。
「ま、それを基準にしてお買い物とかするかも?」
「衝動買いとかって、それが基準だね」
「とりあえず、先生の根っこよりはずっとスッキリしてるね」
「確かにね。それは間違えないわ。アンタの根っこはあれよりはわかりやすいし、何かうなずけるし」
「あの人、やっぱ変人だね」
「あの先生は変わり者よ」
二人は先生の根っこを、先生の考えを思い出す。それは、『価値なんて、結局決め付けだよ』というものだった。
二人には、中学三年生の二人には、まだその意味はわからなかった。それでも、そういう根っこもあるということは、知った。
昨日は事情により更新できませんでした^^;
今後は、少しストックをためて、そういったことを回避できるように善処します^^;




