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居候を許可する2(二千)

 居候を許可する。我ながら格好つけた物言いだ。後悔とか反省とかは、してないことも無い。


「ホントに?」


 彼女は目をパチパチとさせながら尋ねた。確かに、美和からすればボクの態度は180度翻ったように見えるだろう。疑いたくなる気持ちもわかる。


「あぁ。一週間だけな」


「うそ…… じゃない?」


「あぁ。一週間だけだからな」


「ホントに、ホント?」


「……。三日に減らすぞ」


 なんでここまで疑り深いのだろうか。日ごろのボクの行いがそれ程うそまみれということなのか。なんだか嫌になる想像だ。

 ボクは立ち上がったまま、飲みかけのアイスティを一気に飲み干した。氷がカランと澄んだ音を立てる。

 美和はいまだに信じられていないという風な顔をしている。ボクはなんて声をかければ良いのか迷った。


「じゃ、行くぞ。っても、別に強制じゃないからな」


 まさかここで断られることは無いと思うけど、まぁコレは照れ隠しってやつだ。「じゃ、行くぞ」だけってのは意外と難しい。


「うん。あ…… 待って」


 あわてて立ち上がりながらボクを呼び止める美和。そしていそいで十尾をはじめた。

 いや、そんなこと言われなくてもお前が準備し終わるぐらいまでは待つよ。ボクは軽く背伸びをしながら、彼女が薄い半そでの上着を羽織るのを待った。黒いシャツに白くて薄い上着。まぁまぁなコーディネートだな。


「あ、あのさ…… その……」


「?」


 仕度が終わってからも、美和は気まずそうに下を向いてそわそわしていた。どうやら別のことを待ってほしいと言っていたようだ。何か言いたくて、でもなかなか言えなくて…… そんな葛藤が見て取れる。ボクは何も言わずに美和の方を見た。


「えっとね…… このたびは、どうも……」


「ドウモ?」


 急にかしこまってどうしたんだ? 言いたいこともよくわからない。美和はモジモジとして、何かを伝えようとしている。なかなかレアな状況だった。


「ううん。えっと…… あ、ありが……」


「蟻?」


 あぁ。なんとなく言いたいことはわかったけど、そんなことを改めて言われても照れくさいので、うやむやにごまかすことにした。コイツもお礼って柄じゃないだろう。

 

「ありが…… たい?」


「ぜんっぜん!!」


 って、何を思ったのか、彼女はそんなワケのわからんことをぬかしてきた。それは照れ隠しなのか?

 なんともいえない言葉のチョイスだが、とりあえず、ありがたいのはそっちのほうだろう。ボクが感謝しなくちゃいけないのか? そもそもボクにメリットなんて…… まぁないこともないけどさ。コイツを『女の子』と考えれば、なかなか素敵な感じの共同生活を送れるんだから。だけどコイツは、そしてボクもそんなタイプじゃない。


 机に置いた小さなバッグの中から何かを探している彼女を見下ろしながら、ボクは頭の隅で考える。若干勢いで居候にOKを出してしまったところがあるので、改めて一応コイツを居候させることが出来るか考える。って、この状況で断ったらさすがに最低だけど、それでも確認だけはしておかないと……

 まぁ大体のことはどうにかなるとして、問題は三つだな。それらばかりは正直どうしようもない。彼女に我慢してもらうか、自分で解決してもらうしかないだろう。


 アイスティとホットコーヒーの代金は美和が出した。これからお世話になるから、という気持ちらしい。女の子(じゃなくても性別は女なコイツ)におごってもらうなんて、なんだかヒモみたいでちょっと嫌だったけど、コレぐらいのことはさせてやったいい。向こうとしても下手に気を使わなくて済むんだろうから。まぁ居候と紅茶代じゃ割に合わないけど、それは言わないでおこう。


 店を出るとすぐに暑い空気に包まれた。湿度が高いって言うのか、気温以外の何かが気持ち悪い。ボクは黒い帽子を一度かぶりなおした。自然現象に文句を言っても仕方が無いので、黙って駅とは逆方向に歩いた。


「あ、待って。ちょっと駅に用が」


「ん? あぁ、わかった」


 思い出したように体を反転させる美和に、今度は僕がついていった。休日なため、駅へ向かう人が多い、人いきれでさらに体感温度が高くなっていく。無性にプールに行きたくなってきた。こんな天気じゃプールも人だらけだろうけど。


 歩いて十分、駅のコインロッカーで一つ目の問題が解決された。


「衣服類は全部キャリーバッグに入れてきたんだ」


 ボクの部屋には当然ながら女モノの服は無い。彼女の着替えはどうすればいいのか、と思っていたがそこは自分でどうにかしてくれた。でも、この用意の良さは……


「……。ボクが了承すること確信してたのかよ」


「うん。だって、やさしいから」


 ……。ボクの性格が優しいのか、ボクの攻略が易しいのか。後者だったら絶対居候させないからな。

 とりあえず、ボクにはどうしてコイツが自分の住むアパートから追い出されたのかということが謎なんだけど。あんまり軽いノリで聞ける話でもないし、どこか適当にタイミングを見つけたから聞いてみるか。


 駅のコインロッカー、37番のロッカーに旅行用の桃色のキャリーバックが詰め込まれていた。美和はそれを取り出すと、「これでOK」と言って小さく笑った。

 その自然な笑みを見て、ボクは少し考えさせられた。冷静に考えてみれば、今の美和の立ち位置ってかなり不安定なものなんだよな。もし今日ボクが居候を了承しなかったら彼女はどうしていたんだろう。というか、アパートを出て行ったのは果たしていつのことなんだろう。その日から今日まで、美和はどうやって過ごしていたんだろう……そんなことを少しだけ考えた。


「準備はばんたん。レッツゴー!!」


「無駄に元気だな」


 コレも空元気かもしれないと思うと、何も感じないほどに冷たいボクではなかった。それでも余計なことは言わずに黙って自宅へ歩くことにした。横で歩く楽しそうな居候人を連れて。


「あ、そうだ」


「ん?」


「ありがと……ね」


「……別に、大したことでもないしな」


 少し赤くなって微笑む彼女に、不覚にも一瞬見とれてしまった。というのは気のせいだということにしておこう。

 一応、二、三万字を予定しています。

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