表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

価値

作者: 昭成

「ねえ、『価値』って、何?」

 放課後の教室で、彼女にそう言われた。

 彼女といっても、いわゆるお付き合い的な『彼女』ではない。

 満場一致で選ばれた、クラスの『委員長』――それが、彼女だ。

 そして、同じく満場一致の欠席裁判で選ばれた不幸の申し子、『副委員長』――それが俺。直接民主制の正負の側面が一度に出た貴重な『委員決め』だったらしい。職業選択の自由を失ったマイノリティー(一名)は、えらく不幸な被害者なのではないかとも思うが、学年スタートの新メンバー相手に波風立てるほどの度胸はなかったために、現在のクラス委員編成で落ち着いている。

 ――まあ、そんなことはどうでもいいか。

「私は、『価値』というものに、価値はないと思うの。……でも、それを追い求めるということには……やっぱり価値があると思うの」

 こちらへ近づきながら、再び彼女が話しかけてきた。返事がないのを不審に思ったのかもしれない。ともあれ――

「いいか? そういうのは『オチ』で言うもんだ。最初から結論を持ってくる説教方式はやめておいたほうがいい。……離れるぞ?」

「離れる? ……何が?」

 まあ、そりゃそうなるか。

「……いや、やっぱいい。上手く言えないが、俺たちの存在に関わる、とだけ言っておく」

「むぅ……?」

 さすがに脈絡がなさすぎたらしく、首を傾げられた。

 小首をかしげている人畜無害そうな委員長。初めて話したときに『人間とは何か』と聞かれて(第一声としてはどうだろうとも思ったが)以来、こうして放課後に何となく『答えのない話』をしている。

 ――これが、習慣になっていた。

「まあ、とにかくだ。『価値』の話に戻そうじゃないか。な? そうしよう」

 さっきまで不審がっていた彼女だが、話題を戻すと、改めて聞いてきた。

「じゃあ、『価値』って、何?」

「さぁな」

「え……ずるい。『放棄する』のは、ルール違反のはず。ちゃんと答えて」

 ちなみに、答えがないにもかかわらず、『答えを出さない』のは『ルール違反』だ。

 いつのまにか設定されていた『ルール』について、俺は一切関知していないのだが、どうせ毎回『答えがない』ため、実際のところは午後の五時のチャイム――タイムアップまで、雑談で暇潰ししているというだけだ。

 答えが出ない雑談だけに、適当にノリだけで喋っていることも多い。

「そうだなぁ……たとえば、バリューセットだな」

「ワックの?」

「そう、ワックのアレだ。原価もほとんどかかってないポテト。調味料で強引にごまかしたソースたっぷりのバーガー。業務提携でほとんど金のかかっていないジュースをつけて……それでも、客が来る。つまり、『価値』があるってわけだ」

「ジャンクフード批判が関係あるとは思えないのだけど」

 心底不思議に思っていそうな表情をしていた。

「まあ、落ち着いて聞け。……そんなバリューセットだが、面白いのは――セットにすることで『価格』を下げて『価値』は上がっている。しかし、そもそも材料からすれば『価値がない』と言われてるようなものを売っているジャンクフード様なわけだ――さて、この場合は、どの『バリュー』だと思う? 『バリュー』は上がったのか下がったのか。そもそも『バリュー』はあるのか?」

「むぅ……考える」

 もちろん俺としては、ただ暇つぶしのために話を逸らして遊んでいるだけなのだが、どうやら彼女は気づいていないらしく、宣言どおり真面目に考え始めた。


「考えた。けど分からない。……答え」

 言え、ということらしい。ややぞんざいに要求された。

「答えなんぞ知らん。適当に言ったし」

「………………は?」

 冷静な彼女にしては、珍しく感情がこもった声だった。

「だ・か・ら……答えなんぞ知らん、と。適当に言っただけし」

「つまり?」

 オチのない話は許せないらしく、抗議の意思100%の視線がこちらに刺さる。『なにがなんでも結論を言わせてやる』と、そういう視線だった。


 さて、どう『オチ』をつけたものかと考えているところで――ちょうど、時計がきっかり五時を示して、安っぽいチャイムの音が鳴った。


「そうだなぁ……とりあえず『この話に価値はない』と、そういうオチでどうかね?」

 そう言って窺うと、彼女の瞳には、闘志の炎的なものが宿っていた。

「もちろん許すわけがない。……仕方ないから、また明日、意地でも答えさせることにした。明日までにオチを用意しておくように」

 


 

 結局オチが無い、ここはひとつ――『たとえ価値の無い話でも、明日の話には繋がってますよ』――と、そういうオチでどうだろう?

 ……いや、ダメだ。また明日の放課後にボツをもらうのが目に見えている。

 ……なんとか考えなくては。


少々適当に書きすぎたかな? と思いつつ。今日はこの辺りで。


感想・ご批評お待ちしてます。……まあ、あればですが。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして聖魔光闇と申します。  この『価値』については、昭成様は分かっているのだと思いますが、『価値』とは、人の捉え方によって異なるモノだと私は思います。  だからこそ、人個人個人に『…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ