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壱

 とある小さな集落。この集落にはとある掟があった。

その掟とは、少女、十五歳になると禊を受け、この集落の巫女になるということ。特に周

りからの反対もなかったため、これは代々受け継がれてきた。

 そしてまた一人。巫女になる少女が本殿へと入り、掟が無事に終わるよう祈りを捧げて

いる時だった。ガタガタと襖が揺れだし、照明として使っていたロウソクが何者かによっ

て吹き消された。本殿には生温い風が流れ込み、あっという間にその場を支配した。

 神主を含んだ全員がうろたえたが、なにができるかもわからず、ただ辺りを警戒するこ

とだけに専念した。

「な……なんだこれは」

「神主……なにやら嫌な気配がします。用心してください」

 巫女候補の少女は囲まれるようにして守られていたのだが、その少女に異変が。

「うっ……!あっ……く、苦……し……い……っ」

 急に呼吸ができなくなった少女はその場に倒れ込み、もがき始めた。

「ど、どうした!しっかりしろ」

「だ……だ……め。こ……こないで!」

 頭を振り、なにかを追い出そうとしている。どうやら少女になにかが憑りつこうとして

いるようだ。少女の動きが激しくなり、神主は鎮めの言葉を並べた。

「や……やめ……て。はやく、にげ……て」

「大丈夫だ。落ち着きたまえ」

「や……やめてーーーっ」

 少女が叫ぶと、閉まっていた襖が一斉に開き、ロウソクには再び火が灯った。

そしてガクンとうなだれるとふらりふらり歩き出し、集落の神器「鬼神楽」を手に取った。

「おい、それは神器だ!触れることは……」

 神主の言葉は最後まで発することなく、ごとりと床に落ちた。血飛沫が舞い、辺り一面

に紅い水たまりができていた。

「か……神主っ!」

 駆け寄る従者。それも容易く両断し、さらに血の気が濃くなった。


シャンシャン シャンシャン


「な……なんだ」

 どこからともなく神楽鈴が鳴り響いた。それも室内にいるのにも関わらず、反響して聞

こえる。異様な空間にいることはもうわかってはいる。わかっているのだが……足が動か

ない。

「……きゃ」

「……?」

「……せなきゃ」

「何を言っているんだ?」

「紅い……華……」

 従者が最後に見た光景。それは……。


「紅い華がたくさん……もっと咲かせなきゃ」

 焦点が定まっていない、黄色の瞳だった。



 その後、その集落はあっという間に壊滅。ある者は発狂し人々を殺め、またある者は

無抵抗に斬られていった。


シャンシャン シャンシャン


シャンシャン シャンシャン


「……せなきゃ。もっと……」

 巫女候補の少女は紅い液体滴る刀を構え、尚も斬る。たとえ自分に返り血を浴びようと

も……。無慈悲に斬っていく。

「……さい。……なさい」

 黄色く光る瞳から流れる雫は果たしてどちらの者が流したのか……それを知る者は誰も

いなかった。


 数時間後、少女は正気を取り戻した隙をつき、自ら身を投げた。刀は自分の履物と小さ

な手紙と共に置いて……。手紙にはこう書かれていた。


この刀に触れてはいけません。この手紙を読んでいるどなたかに届きますように


 祈りにも似た言葉が書かれた手紙はどこに行くかもわからない風に運ばれ、そのままど

こかへ消えていった。

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