第12話 悪魔の子
これ以上逃げないで。お願いだから!
※作品内で倫理観について考える描写があります様々な意見ございますがあまり重く受け取りませんようお願いします。
これは、誰?私の前に優しい顔の老婆が居た。周りは暗闇に包まれており、その老婆だけが輝きを放っていた。
「みくちゃん。大丈夫かい?」私の名前を呼ばれた。
「みくちゃん、気をつけるんだよ」なぜか心が暖かくなる。
この気持ちはなんだろう?
「みくちゃん、バイバイ」そう言って老婆は、消えていき、目の前は暗闇に包まれた。
その暗闇がなぜかどんどん狭くなるのを感じた。その恐怖に私はすかさず目を開けた。
眩しい。ここはどこだろう、見慣れない天井が現れた。
天井の黒い模様が虫のように見えた。視界が安定し、口元の違和感を感じた。何これ?そう思ったが声が出にくい。首を動かすと痛みを感じる。ここは病室だろうか?とても明るい。すると窓際に座って寝ている女性がいた。私は頑張って体を起こそうとすると股間の辺りに違和感を感じた。すると『テロンテロンテロンテロン』とアラーム音が鳴り、寝ている女性が目を覚ました。女性は慌てて、私に駆け寄り、安心した顔で「よかったー!」と安堵していた。すぐさま病室にナースがきて、私を見て、廊下を飛び出た。そしてすぐに医者らしい人が部屋に入ってきて診察をした。
「自分の名前言えますか?」声が出ない。
「じゃあ、ここに打ち込んで下さい」
視界にタブレットが出てきて私は、自分の名前を打ち込んだ。
「うん、視界も安定してる。記憶も安定してるね。声はね徐々に出るようになるよ」その言葉を聞き私は少し落ち着いた。
「後でカテーテル取りますから。待っててください」その言葉を聞いて少し股間を意識して違和感をまた感じた。ある程度、処置を済まし、ベッドに座れるようになった。すると先ほど寝ていた女性が話しかけてきた。
「石川美来さん?私は、『中森若菜』って言います。長谷川探偵事務所のアシスタントをしています。実は石川さん四日も眠っていました」
「そう、で、すか・・・」少し声が出始めた。
「あ、えっとそれで、私は、あなたの安全と私の安全も含めてこの病院に隔離してもらっていました」
「あん、ぜん?」
「はい、申し上げにくいのですが、あなたの恋人である。『鈴木ワタル』さんが私たちが追っている連続殺人鬼の『橋本雅俊』って人かも知れないって疑いがかかってまして・・・」
「だれ?」「えっと、あなたと暮らしてた」
「わたしは、ひとりですよ」
「そ、そうですかちょっとすみません」そう言って彼女は部屋を出て行った。
「もー早く出て!出てよー」私は長谷川さんに電話をした。
「あ、もしもし長谷川さん?聞いたんだけどね、知らないって。だからそもそもスズキって人の事も知らないって。隠してなんて無いでしょ?わかりました。聞いてみますよ」そう言って私は電話を切り病室に戻った。
「ごめんなさい、あのもう一度聞きますが、鈴木ワタルさんはご存知じゃない?」
「はい」
「ちなみに今おいくつですか?」
「22歳です」
「今年何年ですか?」
「2023年」
「生年月日は?」
「2001年11月7日」
「そうですか・・・すみません」私はまた電話をかけに病室を出た。
「記憶が4年前で止まってます」
『そうか、こっちも片付いたらそっちに向かう』
「早くきてくださいね。心配ですから」
『わかったわかった』そういい私は、また病室に戻った。
すると病室には、石川さんはいなかった。私はまずいと思い彼女を探した。すると集合スペースで棒立ちの彼女を見つけた。
「石川さん!どこに行ってたんですか?」
「ねぇ中森さん。今、何年?」
「えぇっと・・・病室に戻りましょう」
私は頭を巡らせ今ここで事実に向き合わせるのは危険と判断し彼女の腕を両方掴み無理やり病室に向かわせた。
「すみません、いきなり」
「・・・」重い空気を感じた。
私は、鼻から息を吸って、鼻から吹き出した。
「驚かないで下さい。今は2026年の4月です」
「そうですか・・・テレビは嘘じや無いんですね」
「はい・・・」私は気まずくなった。
「何があったか教えてください」
「えっと・・・これは探偵として調べた情報ですよ」
私は長谷川さんから教えてもらった情報を彼女に話した。
「お婆ちゃんが亡くなったのは理解しました。その先を」
「はい、あなたは記憶喪失になりこの4年間は、鈴木ワタルという人と一緒に暮らしていたと思われます」
「思われます?」
「はい、記録には何もなく、石川さんは無職でした。それなのにアパートが石川さん名義で私たちが張り込みをしていると鈴木さんの出入りがあったので」
「そうなんですか、その鈴木さんが凶悪犯?」
「はい、それと大変申し上げにくいのですが・・・」私は病室の引き出しから、母子手帳と婚姻届を取り出した。「これは?」
「あなたと鈴木さんとのお子さんがお腹の中にいます」私はこの事実を伝えたくなかった。でも長谷川さんに言われて伝える義務があった。
「赤ちゃん?」
「はい・・・」
「そう・・・その人は本当に凶悪犯なの?」
「今のところあなたを殺そうとした容疑が出ているのは確かです。凶悪犯かはまだ証拠がなく疑いの段階ですが・・・」
「私を殺そうとした・・・」私はこれ以上踏み込みたくなかった。
そしてその先を言うのに責任を背負うのは荷が重すぎる。長谷川さんなら言えるかも知れないが。
「とりあえずおなかこの子は異常は無いそうです」
「そう・・・」
「ちょっと席を外しますね」私はこの場から逃げたくなった。
「待ってください」彼女は私を呼び止めた。
「私は、無理やりこの子を?」それを聞かれて私は、辛くなった。
彼女のアパートの雰囲気と産婦人科の先生の話によるとものすごく喜んでたし、ご馳走と婚姻届という情報で考えなくとも無理やりではなく思えた。
「いえ、無理やりでは無いと思われます」
「どうしてですか?」
「記憶喪失のあなたは、鈴木さんの事をとても愛していました」
「そうですか・・・」もうこれ以上何も聞いてほしく無いと私は思った。
「私は、この子を産んで良いのでしょうか?」
『それは、あなたが決める事ですよ。石川さん』長谷川さんの声が病室内に響いた。
「すみません。私、探偵の『長谷川 亮介』と申します。お腹の子は、もちろんあなたと鈴木さんとの命です。産むか産まないかはあなたと鈴木さんの判断です。ですが、私の意見を申します。産むことはおすすめできません」「長谷川さん!」私は彼の発言に不快感を抱いた。
「はい・・・」石川さんは、なぜか納得をしている。
私は耐えきれず「長谷川さん。赤ちゃんですよ。命ですよ!」
「落ち着け、中森。いいから外に出てろ」
「嫌です」
「・・・わかった。でも口出しはするな」私は、小さく頷いた。
そして長谷川さんは話し始めた。
「いいですか石川さん。産むことはお勧めできません。まず、あなたは現在、仕事をしていません。住む所もなければ両親も家族もいない。完全な孤立無援状態にいることを自覚してください。無事に産めても、その後、様々な要因で死なせてしまうかもしれません。それを理解してください」
「はい・・・」
「もし、産む決断をするのであれば私達は、援助しません。中森にも助けさせません。それでも産むのであれば我々は、今日を持ってあなたの元を離れます」
「・・・」
「逆に産まないのであれば、こちらであなたを保護して、衣食住が安定するまでの間、期限付きで援助します。あなたの学歴と容姿ならすぐ決まりそうですが」
「そうですか・・・」
「現段階での、情報をお伝えしますね」
長谷川の目つきが変わった。
「鈴木ワタルと橋本雅俊は同一人物ということが分かりました」部屋の空気がもういっそう重くなった。
「そうでしたか・・・」
「凶悪犯の子供、孤立無援、記憶の無い子供。あなたにこの重さを背負う覚悟はありますか?」
脅しにも思える長谷川の発言だが、いざ背負えるかと言われたら自信はない。
「一晩だけ時間を与えます」そう言って長谷川は病室を出た。
私もすかさず着いて行き長谷川の後を追った。声をかけようと思ったが今まで見た事もない表情で壁に寄りかかり斜め上を向いていた。すると私を優しく呼んだ。
「俺は、この世に最悪なものを生み出してしまったよ・・・」彼は無表情で顔も合わさず私だけに聞こえるようにぼそっと呟いた。白目は赤くなり目に雫が見えた。
「俺があいつを・・・早く見つけてれば・・・」声が震えていた。彼は目を閉じ震えながら深呼吸をした。目を開けて彼はこう言った。
「中森、あとは任せた」そう言って長谷川は病院を出た。
翌朝、私は彼女の部屋を訪ねた。
「おはようございます。石川さん」
「おはようございます」
「声、治りましたね?」
「えぇ」
「昨日はすみませんでした。あんな怖いこと言って」
「いえ、ところで長谷川さんは?」
「あの人なら、あのあとすぐ捜査に」
「そうですか・・・」私は少し気まずかった。
「あの、私決めました」
「へ?」
「中絶します」
私は、彼女の覚悟の籠った発言に聞き返しをせずただ一言「分かりました」とだけ答えた。
そのあと、私は長谷川さんに連絡を入れ、彼女と共に中絶に関する説明を受け、彼女は同意書を書き即日、中絶を行なった。私はその間、長谷川さんの連絡を待ったが返信が来なかった。そして彼女が戻り、病室で安静にしていると、通知が来た。
『長谷川様から200万の入金を確認しました』
私は、あの長谷川がこんな大金を保有しているわけないと思い即電話した。
「何ですかこのお金は!?」
『俺の貯金だ大事にしろ』
「待ってください何でこんなに」
『もしものために貯めといたんだよ』
「もしもって何ですか?」
『お前のために残しておいたんだよ』
「何のために?!」
『うるせーこっちは忙しんだ』電話が切れた。
そんな怒らなくてもいいのにと私は思った。
それから石川さんの容態は安定し、長谷川さんからの情報のもと、橋本の所在地の候補にない警察保有のアパートの部屋を借りる事になった。
この物語はフィクションです。




