第1話 取材記録 ①
※絶対に探さないでください
◯大学生 男性 21歳 東京都中野区
「ちょうどあの建物の角を曲ったあたりですかね?まぁ、時間的に暗かったんでハッキリとは見えなかったんですけどね」
彼は淡々と話し、薄汚れた雑居ビルを指差してこう続けた。
「なんか、不気味って言うか、普通なのに意思を感じないというか、、、んーーーなんかそんな不思議な感じでしたね」
「そうですか、では、他になにか気になった事とか?」
「いえ、なんにも」
「わかりました。ご協力ありがとうございました。貴重なお時間をいただきありがとうございます。あ、それと、いいですか?」
私は、一枚の似顔絵を取り出し、彼に見せた。
「絶対にこの人を探さないで下さいね」
少し強く念押ししすぎたかもしれない。彼は、少し引き気味で頭を下げて去って行った。情報はあまり得られなかった。
◯モデル 女性 22歳 東京都渋谷区
「とても良いですね!このアイテム!」
「え?あ、ありがとうございます」私は、まさか人気のモデルにそんなこと言われるなんて思ってもいませんでした。
「それってどこで買いました?」
「えっと、宮崎の方に取材しに行った時の露店で」
「そうなんですね。私も欲しいな」軽く世間話を交わした後、話を切り出した。
「では本題に入りますね。先日のファッションショーでは素晴らしいお姿をご披露されましたが、こだわりなどはありますでしょうか?」
「やはり、私が経営しているブランドとのコラボですかね?あのアイテムのおかげで他のアイテムも目立ちますし騒がしくならない。バランスの取れたコーデになったと思います」
流石スーパーモデル、ちゃんと自分のブランドも宣伝しながらも他社のアイテムなどにも華を持たせている。
「そうですか、確かにそちらのアイテムものすごくバランスのとれたデザインになってますね」
「ありがとうございます」
かれこれ、30分ほど取材が続き、最後の質問になった。
「こちら見覚えありますか?」私は似顔絵を見せた。
「何ですか?」
「この人絶対に探さないでください。本日はありがとうございました。では失礼します」
私は、現場を後にした。とても有益な取材ができたと思う。
◯専業主婦 45歳 東京都板橋区
「あ〜その人ね、、、うちの息子達の間でも噂になってるわ。気味悪いから何とかして欲しいんだけどね。警察は何をしてるのかしら?」
彼女は、気疲れしたような感じで答えてくれた。
「見た目は、普通のおばさんみたいでしたよ。でも何か薄暗いといいますか?生気を感じない感じでしたね」
私は食い気味ですかさず聞いた。
「どちらで見かけました?」
「え?えっと、、、この道をまっすぐ進んで右に曲がったところのスーパーの前でうずくまってて、、、」
「そうなんですね!あ、ちなみに、お顔は拝見されました?」
「えぇ。笑ってました。物凄く不気味な笑顔で」
「こんな顔でしたか?」
私は、似顔絵を彼女に見せた。すると彼女の顔は歪み嫌そうに答えた。
「そう!そうです!こんな不気味な顔忘れたくても忘れませんよ!気持ち悪いのでしまって下さい」
「あ、すみません。他に何か気になったことなどは?」
彼女は、間髪を入れずに返した。
「ありません。何もありません」
「そうですか。ご協力ありがとうございました。貴重なお時間をいただきありがとうございます。あ、あと、、、」
「はい?」
「絶対にこの人を探さないで下さい。いいですか?」
「わ、わかりました」
彼女との話は終わり、一人になった私は、目撃現場に向かった。
◯女子高校生 (2人) 17歳 埼玉県戸田市
A「あーその人ね!めっちゃキモいおっさん!ほらよく、駅前をうろうろしてる。」
B「あー、あいつ?何?捕まったの?」
私は、女子高校生の独特な空気感に違和感を感じながら話を進めた。
「いえ、どんな人か知りたくて、ちなみに見たことは?」
A「ないよ」
B「ねぇ!りか!そういえばアンタってキモ爺に襲われたんでしょ?」
C「うーん!」
一人の女子高生が遠くにいる仲間の一人に話しかけ答えた。さすが若さの連携は軽いなと私は思った。
「襲われたの?」
B「そうらしい」
A「夜塾の帰りに」
「あ、そう。塾ね。で、りかちゃんと話していい?」
A「いいけど、あんま覚えてないって」
「襲われたのに?」
A「うん、襲われたことは覚えてるけど、それがそのキモ爺に襲われたってことだけでそれ以外何も覚えてないって」
「そう。ま、とりあえずりかちゃん呼んでもらえる?」
◯女子高生 (りか)
私は、りかちゃんに、詳しく話を聞いた。だがあの子の言った通り、何も覚えてなかった。似顔絵を見せれば思い出すかも知れないと思い、りかちゃんに見せた。
「この顔に見覚えは?」ゾロゾロと周りの子が集まり口々に引きながら、『うわっ』と声が漏れていた。
一人の学生が「ねぇりか?本当に覚えてないの?」と聞いたとき、りかちゃんの顔は真っ青になりガタガタ震えていた。
「やだ・・・」りかは顔を伏せ身震いする。
「ヤダヤダヤダ!」どんどん激しくなり髪も乱れ始める。
「ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダ!」りかちゃんが取り乱し、周りの人も気になり始め、私も手に負えない状況になった。
「りかちゃん、落ち着いて!」私が声をかけても治らない。次第にりかちゃんは過呼吸になり、その場に崩れ倒れた。
私は、すぐに救急車を呼び、りかちゃんの様子を見る事しかできなかった。
後日、話を聞いたところ、りかちゃんは学校にも来ず、引きこもりになり、最終的に自ら両親を殺害し失踪したのち、ビルの屋上から飛び降り自殺した。




