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第五話 映画館にて

バス停で僕たちは、智也を待っていた。


「ごめん、遅れた」息を切らしながら走ってきたのは智也だ。


額には滲むほどの汗が浮かび、どれだけ急いだのかを物語っている。


「何で遅れたの」と蒼真が不思議そうに聞くと


「寝坊した。九時集合なのに八時五十分に起きちゃいまして。」と詫びる素振りをしながら言ってきた。


「まあいいや、バスはまだ来てないし。」と海里がバスの時刻表を見ながら言った。


僕はため息を漏らしながら「明日から新学年で新学期かぁ」と呟いた。


まだ足と手の先に包帯が残っていて、少しこそばゆかった。


すると智也が「頼むから今年は四人とも一緒であってくれ」と手を合わせながら願った。


「そうだね、二年になると修学旅行もあるし」と蒼真は言った。


「まあ、嫌なことは気にしないで、今日は楽しもうぜ。あ、ほら、もうバス来たよ」智也は楽しそうにバスの方を向いて指を指した。




春休みなせいか客が多いように感じた。

僕たち四人は映画館の券売機の前に並んでいた。


「ねえ今日、見るのどの映画なの?」海里はめんどくさそうな表情をしている。


「『蜜柑』の実写映画だよ。マジで楽しみ」と智也はにんまりしながら答える。


本当はこういうのは一人で静かに見たいんだけどな……


「席、どこにしよ」と画面を見ながら僕が呟く。


「え、これ席空いてなくね」少し蒼真が驚いた。


本当だ。席、別れないといけない。でも一人と三人だ。


「僕、一人になろうか、あんま興味ないし。多分寝てると思うから。」と海里が気軽に提案した。


「いや僕、静かに見たいから一人の方行くよ。」僕は心の中で満面の笑みを浮かべた。


「じゃあ、秋は一人ね」と蒼真が言った。


券を購入した後、

「じゃあポップコーン、買いに行こうぜ」智也は歩き出した。




「俺、ポップコーンセット、キャラメルで、飲み物はアイスティーで」智也が店員に言った。


「僕は何もいらないや、智也、ポップコーン頂戴。」と蒼真が笑顔で言った。


智也は不満そうだったが「分かった」と答えた。


海里は椅子に座ってスマホを見ながら待っている。


「秋は?」と蒼真は聞いてきた。


「僕も智也と同じやつにする」


なんか一人は嬉しいけど一人でポップコーンは悲しいな。


「お会計3740円です」店員さんは笑顔だ。


お会計が終わったあと僕たちはスクリーン三に向かった。



「これが映画の特典かあ」と智也はキーホルダーをじっと見つめながら言った。


「これ男子と女子でもらえるの別らしい。しかも二つくっつくって。」海里はスマホを扱っている。


「そうなんだ」智也はどうでも良さそうだ。



「じゃあ僕、一番上だから」と言い残し自分の席へ向かった。


ここが僕の席か。


一番後ろの席だったら集中して見られそうな気がした。


『よいしょ』と、席に座るときに春休みの疲れが思わず声に出てしまった。


少しワクワクしながら始まるのを待っていると隣に誰かが座った。


誰だろうと思って目線を向けるとそこにはあの時の『神埼』がいた。


彼女もこちらを向いた。

目があった。表情が柔らかく不思議と目を離せなかった。


その瞬間、電気が消え、映画が始まった。


映画に集中したいのにできない。

視線が自然とその子にいってしまう。


清楚という言葉がそのまま当てはまりそうな、春みたいな雰囲気の人だった。


きれい


って何考えてんだ、僕、でもヤバイヤバイ、映画見てるとヒロインが彼女に見える。


神埼さんを見ていると彼女もこちらを向いた。と思った。


神埼さんが見ていたのは、ポップコーンだった。


目を輝かせながらじっと見つめている。


僕は小声で「ポップコーンいる?好きなときに食べていいよ」と促すと


「いやいや悪いですよ」と彼女は言った。

「遠慮しなくて良いですよ。」僕は暗くて見えない彼女の顔を見た。


「じゃあ」と言って彼女はポップコーンを食べた。


「……美味しい」暗くて見づらいが小さく笑っている気がした。


なんだか胸の奥が少し熱くなった。


これは、この後ポップコーンを食べようとしたときに手が触れ合う絶好のラブコメイベントっじゃあないか。


って何、考えてんだ僕は。

まあでもそうなった時は事故だからな、しょうがない。




映画が終わった。結局一度もそんなことは起きなかった。


まあでも良かった良かった。

逆にここで触れたらラブコメの王道すぎて逆に怖いわ。


僕が三人のもとへ戻ろうとして席を立とうとすると


「この前は助けてくださりありがとうございます。」彼女は深々頭を下げた。


「え、あ、いや大丈夫です。」少し言葉がつまった。


「すみません、お詫びの品、何も持ってなくて。」申し訳なさそうだ。


「いや、全然、大丈夫です。」自分でも顔が赤くなっていることに気づいていた。


「あの今日、スマホ持ってきてないんで」恥ずかしそうに言った。


「体育祭行くんでそのときメール交換しませんか?」こちらをじっと見つめてくる。


「いいよ、体育祭、入学式の二週間後だからね」神埼はとても嬉しそうだった。


「名前、なんですか?」と聞かれ

「西園寺秋です。神埼さんは?名札で名字は知ってるけど」


少しだけ間を置いてから喋り出した。


「蕾です。神埼蕾」



僕の春は始まった。



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