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第四話 たんぽぽの蕾とマーガレット

 玄関に差し込む光は少し傾き始めていた。


「ただいまーー」と僕は家のドアを開けながら言った。


「お帰り!お兄ちゃん、病院どうだった?」と玄関に駆け寄った桃花が落ち着かない様子で聞いてきた。


「足の指先が二本と手の指先が二本折れてた、でも大丈夫だから」と言い、ため息が出てしまった。


すると父である玉露がひょっこり顔を出し「お前、女の子を庇うなんてかっこいいじゃないか。しかもカッコつけて助けて怪我するとか笑えるな」と真顔で言ってきた。


「いつ帰ってきたの?」と僕は父が言うことを無視して桃花に聞いた。


「私の発表の番が終わったからすぐに帰ってきたんだよ。電話でお兄ちゃんが怪我したって言うから」と桃花が言った。


「ごめんな、せっかくの県大会なのに」と僕が申し訳なさそうに言うと


「全然、大丈夫!表彰されないだけだよ」と笑顔で答えた。


「ほら秋、さっさと上がれ、夕飯できてるぞ」と言い残し、父はリビングへ戻っていった。


「お兄ちゃん早く早く!待ってたんだから今日はお肉だよ!」と言い、妹はリビングへ小走りしていった。




「ところでピアノ、どうだった?」と僕が箸で唐揚げを持ち上げながら聞くと


桃花は嬉しそうに「五位入賞だった!去年より四つ順位上がったんだよ」と答えた。


「すごいじゃん!ところで今日の夜ごはん唐揚げってなんでこんなに豪華なの?」


父は口に肉を運びながら「「今日、相談に来てくれた人が鶏肉とローストビーフを差し入れしてくれたんだ」と答える。


その肉はキラキラ輝いておりまるで宝石のようだ。


「なあ相談、相談言ってるけどどこで働いてるんだ?」と唐揚げを食べながら言うと


父は「ただの保険会社だぞ?毎回言ってるじゃないか」と反論気味に答える。


少し疲れているのか頭の奥がじんと痺れていた。


リビングから窓の方をふと見ると花壇に一輪のたんぽぽの蕾があった。


「誰かたんぽぽ育ててるのか?」と僕が聞くと二人とも「知らない」と口を揃えて言った。


父が「母さんが死んでからは誰も花壇を使ってないよな……」


外が暗くなっていくのと同時にこの空気も暗くなっているように感じた。


「今ここに住めているのは母さんのお陰だ。あの時、父さんが若かったから……本当にすまない」と父が頭を下げた。


僕は何て答えていいかわからなかった。

父が謝る姿を見るのは初めてかもしれない。


ここで桃花が「もう気はすんだ?」と意味不明なことを言い出した。


すると父が「ああもう十分だ」と答え、立ち上がった。


父は、テレビの横にある観葉植物の中に手をいれ小型カメラを取り出した。


「すまん、突然父親がユーチューバーを始めたらどんな反応するか教えてもらっていいか?」と首をかしげて聞いてきた。


相変わらずカメラはこちらを向いている。


「この肉たちは退職祝いに上司にもらったんだよ」と堂々と答えた。


「え、嘘じゃないよね?」僕は口をポカンと開けて聞いた。


すると桃花が「これ、嘘じゃないんだな」と呆れたように答えた。


「じゃあこれからの生活どうするの?今でさえ千二百万円の借金があるのに、これじゃあおしまいだ」と少し口を尖らせた。


「いや、そうでもないんだよ。ほら、これチャンネルだよ」と桃花がスマホを取り出し僕に見せてきた。


チャンネル登録者数 一万人


「結構多いなあ、でもこれじゃあ生活はできないよ」と僕がツッコミ気味に言うと


「父さんはスパチャで稼ぐんだ、今からやってみるぞ」と答えた。


父はライブ配信を始めた。

「はい、こんにちは玉露です。今、緊急で配信してます。」


「え、なに」

「玉露さん相談あります」五千円

「緊急ってことはなんか言うことあるんやろ」百円


桃花がライブ配信をスマホで見せながら「ほらもう五千百円稼いだ」と小さな声で言ってきた。


「嘘でしょ」僕は口元を手で押さえ呆気にとられていた。


「いや特にありません。息子がお父さん稼げるのとか煽ってきたんで配信してます。」と息をするように嘘をはく。


「息子ひどい」一万円

「大人の財力なめんなあ」一円


「んなわけねえだろ」と僕は小さい声ながらも全力で否定した。


「はい息子また否定しました。声だけなら出しますよ」と言ってこちらにマイクを差し出した。


「喋るわけねえだろ」と言い、喋ってしまった。


「息子さん良い声」一万円

「息子よ玉露の力は偉大だぞ」三万二千円


「負けました」僕はマイクに向かって降伏した。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん」という声が聞こえまぶたの裏が急に明るくなる。


「あれ、なんだ夢か」僕はほっとしたようにため息をついた。


「お兄ちゃん、仕事の事をお父さんに聞いたときに突然、寝だしたんだよ。」と心配そうに声をかけてくる。


「どんな夢みてたのか?」と父が洗い物をしながら尋ねてくる。


「父さんがユーチューバーになる夢」と安堵したように言った。


「そうか、多分そんなこと、一生ないな。」と本気(マジ)な目で伝えてきた。


「良かった、まじで焦った」僕は机に上半身をのせ、ふと窓を見た。


そこには夢で見た一輪のたんぽぽの蕾


その横に一輪のマーガレットが咲いていた。


心臓の音が、やけに大きく聞こえる。


答えはそこにありそうなのに、掴むことはできなかった。


その後、お風呂に入り、自室で何も考えずに寝た。




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