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第一話 君とぶつかった春

桜の季節が近づく中、花のない男子生徒がまだ人の少ない住宅街の通学路を歩いていた。


後ろから「おーーい秋、おはよ」と声がして、声の主は肩を無理矢理組んできた。


「おい智也、やめろって」と言った。だが智也は謝る素振りを見せず


「いいじゃんかあ、このこのーー」と人差し指で頬を突っついてくる。


毎回これだ……


「ところで昨日の『蜜柑』みたか?」と智也が手を離して歩きながら聞いてきた。


「あれ超面白いよな、特に最後の一緒に花火見るシーンあれめっちゃよかったよな!」と僕にしては、珍しく早口で意欲的に答えた。


自分でも口角が上がっているのが分かった。


「マジあそこで涙腺崩壊したわ」と智也が涙目になりながら答える。


「僕もあそこは感動したよ」という声が後ろから聞こえた。


「蒼真じゃんおはよ」と勢い良く智也が手を上げた。


「いやあ、秋がラブコメのこと話すの初めてみたな」と少しにやにやしながら言った。


こいつ、隙があったらすぐ茶化すんだから。


「俺は初めてじゃないぞ」と自慢するような感じで智也がわめいた。


「もうどっちでもいいから」と疲れたように言った。


今、八時何分だろう。


袖をまくり腕時計を見ると長い針は5を指していた。


「おい、二人ともヤバいぞ、あと五分で遅刻だ!」と焦り気味で言った。


「嘘だろ、ヤバいじゃん二人とも急がないと」と智也は二人を置いて野生のチーターのように走り出した。


「おい!置いていくなよ」と僕がいいながら智也の背中を二人で追いかけた。



走っている途中で


「やべえやべえ、蒼真、智也待って、」と僕は息を切らしながらおいていかれることを自覚した。


次の角を右に曲がろうとした。


次の瞬間、肩に鈍い衝撃が走り、驚いて、思わず声が漏れた。


僕は後ろにこけてしまい尻餅をついたが案外大丈夫そうだ。


「すみません、大丈夫ですか、」


優しそうな声が聞こえ、ふと顔を上げた。


晴明高校の制服。

僕とは違う高校の制服だ。


漫画ならこれを『運命の出会い』って言うんだろう。


でも現実はそんなに甘くないと僕はいつも考えている。


一瞬、目が合った気がした。


肩から背中に伸びた髪は柔らかく波打っていた。


否定の言葉を探す前に、胸の奥がやかましいほどざわついた。





「はあ……はあ」僕は息を切らしながら勢いよく教室の後ろの扉を開けた。


「危ねえな西園寺、でもセーフだ」

どうやら遅刻ではないらしい。


「早く座れーー出席とるぞ」と先生は健康観察簿を開き名前を読み上げていった。


僕は教室の後ろの窓側の席に座り、窓の外を眺めていた。


「西園寺」と先生が名前を言った。


僕はなにも言わず手を上げてそれに答えるのだった。


僕は後ろを振り向き一時間目の授業を確認した。体育だと分かった瞬間、視線を戻した。

だるすぎ。


先生は出席確認が終わると「一時間目は体育だ集合場所はいつものところな」先生は手を上げながら少しカッコつけた。


「ところでいいか体育の授業もできないことをできるようにするためにやってんだ」と先生は誇らしそうにしていた。まるで名言でも言ったかのようだ。


いや体育ってできない人をできるようにする授業じゃなく、

できない人が誰なのかを可視化して点数をつけるための授業だろ。


周りの男子生徒は今日の授業がバスケなせいか浮き足立っているようだ。


「バスケのチームは、このクラスは三十二人だから……授業始まる前に四人一チームを作れよーー」その瞬間チャイムがなった。


先生が教室を後にするとクラスのみんなはだれとチームを組むのかを話し出した。


「秋、着替えに行くぞ」と聞き慣れた声が後ろから聞こえた。

「海里か」と僕は彼の方を向いた。


「四人で一チームなら智也と蒼真も同じクラスだったら良かったのにな」と海里は言った。


彼は新品の体操着袋と体育館シューズを持っていた。


「でも明日で修了式だ、二年に進級するとき、みんな同じクラスになるかもよ」と僕は、体操着袋と体育館シューズをリュックから取り出しながら答えた。


「そうだね、僕たちみたいな人には陽キャや優等生くんみたいな人がいないと孤立しちゃうからね」と笑いながら毒をはいた。


「まあ春休みはみんなで遊ぼ、ほら更衣室行こ」僕は海里の手をとり教室から小走りで出ていこうとした。


「うわ、なにあの二人特に海里、陰キャ同士が手つなぐとかキモすぎ」と少し小さめのトーンで女子が言った。


隣に座っていた女子も「それな」とまるで僕たち、主に海里を軽蔑した目でみてきた。


海里の目は無表情だったが、あと一言、言ったら言い返しそうな、一触即発にみえる。


でも今は女子を見ると朝の出来事を考えてしまう。一刻もこの場から立ち去らねば。


そうだ、僕は過度に期待しすぎだ。


そう言い聞かせないと足が止まりそうになった。その後、海里と一緒に何も言わないまま教室を後にした。



僕と海里が黙ってた理由は別だったということを理解していた。



あの時の声がまだ胸に眠っていた。




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