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ホラー  作者: 駄丹得
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踏切の霊

あれは確か中1の秋ごろだった気がする。



その日、僕は友達の日直の手伝いをしていたせいで帰るのが遅くなってしまった。友達や先生の手伝いを自ら申し出て帰るのが遅くなることはよくあることで、そういう日は決まって近道を使って帰る。


近道を使うと帰宅時間が5分から10分ほど早くなる。というのも学校から指定されている帰り道は町の大通りに沿って帰る道順で、人目が多く安全な一方で信号が多いのが欠点だった。近道は大通りを外れた道を通るため、信号次第ではこちらのほうがかなり早く帰れることがあるのだ。


人通りのほとんどない田舎道を一人で歩いていると、やがて踏切が視界に入ってきた。この近道のルートが学校指定のルートになっていない理由にはこの踏切にも原因がある。この踏切は車1台がぎりぎり通れるくらい狭い一本道の上にあり、僕がいるとは反対側の道は途中で急カーブを描いており見通しが悪いという、ひどく危険な構造である。それなら踏切の下のトンネルを通るルートが学校指定になっているのもなっとくだろう。


それに加えてこの地域の踏切には嫌なうわさがある。どこの踏切かは定かではないが、昔、とある女性が踏切内で事故に遭ったという。それ以来、夜になるとその女性の霊が現れ、生きている人間を踏切の中に引きずり込むらしい。先輩から聞いた話だが、なんともチープな内容だ。テケテケの二番煎じである。そんなことを思い出しながら歩いていると、もう少しで踏切に入るというところでカンカンという音ともに遮断機が下り始めた。


僕は踏切を超えることをあきらめ、素直に電車の通過を待つことにした。心の中では噂話を馬鹿にしていたが、周囲に人影はなく、一人で立っていると、どこからともなく不安な気持ちが湧き上がってくる。不安を押しとどめながら、ぼうっと立ち尽くしていると、轟音とともに電車がやってきた。


その時、遮断機の向こう側に誰かが立っていることに気づいた。杖をついたおばあさんだ。さっきまで人影はなかったはずだ。突然現れた人影に、足の裏が地面に貼り付いたように動かなくなる。そんな恐怖を打ち払うかのように、目の前を電車が通り過ぎていく。実際には数秒の出来事だったはずだが、金属音と振動に包まれながら僕は何分もそこに閉じ込められていたような錯覚に陥っていた。


ごう、という音とともに電車が視界から消える。


心臓の鼓動が落ち着くのを待つようにして、ゆっくりと視線を上げると――


そこには、普通のおばあさんが立っていた。


拍子抜けするほど、どこにでもいそうな風貌だった。どうやら、自分が過剰に反応していただけらしい。そう思い込むことで、胸の奥のざわつきを無理やり押さえ込む。


「こんばんは」


そう挨拶をして、踏切を渡ろうとした、そのときだった。

おばあさんが、首を少し傾げて言った。


「さっき、後ろにいたお姉さんはどこに行ったのかしら。」



ここまでを話し終え、恐る恐る黒瀬のほうを見る。黒瀬はいつも通りの無表情で、視線だけをこちらに向けている。相槌もなく、眉一つ動かさない。その顔からは、今の話をどう受け取ったのか、まるで読み取れなかった。


沈黙が数秒続いたあと、黒瀬はぽつりと言った。


「面白くない。」


言い切った。


あんなに肝の冷える経験をしたのに、ずいぶん無慈悲な評価だと思った。少なくとも、興味くらいは見せてくれるものだと思っていたのに、期待は見事に裏切られた。


黒瀬は心霊探しや呪物集めに飽き足らず、僕にもそのような話を持ってこさせるようになった。最初は、ただの怪談話の聞き役のはずだった。次に、噂の場所を一緒に見に行くだけになり、気づけば体験談を求められるようになっていた。信じたくはないが、黒瀬とつるみ始めてから、どうにも説明のつかない出来事に出くわすことが増えたのは事実だった。


黒瀬は僕の悲しそうな様子など気にも留めず、立ち上がって鞄を肩にかける。


「やり直し。行くよ。」


拒否権は、最初から存在しない口調だった。


僕はその後、黒瀬とともに街中の踏切をはしごし、噂の霊に体を狙われ追いかけまわされる羽目になったのだった。





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