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「熟女が熟女に転生してどうするのよ!何もできません」と言いつつ、痛快熟女がお悩み解決   作者: 藤井


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15/15

15.噂

 サラと別れたあの日から、カルロッタの日常には小さな変化があった。


 それはカルロッタの家に、悩みを相談しに来る人が増えたことだった。


 最初は育児に疲れた母親が、子供を連れて遊びに来たついでに、少し愚痴を言って帰る程度だった。けれど、その話が広まったのか、気づけば悩みを持つ街の人が訪れるようになった。


 恋に奥手な少女。

 反抗期の子供を育てる母親。

 転職しようか悩む青年。

 介護に疲れた主婦。

 腰の痛みを訴えるおばあさんまで。

 相談に来る人は年齢も性別もバラバラで、みんなそれぞれ悩みを持っていた。深刻に悩んでいる人もいれば、ただ愚痴を聞いてほしいという人もいた。


 様々な悩みを抱えた人々にカルロッタは優しく寄り添った。


「まあまあ、お茶でもどうぞ」と笑い、温かいお茶と、ほっとする空間で話を聞いた。その優しさに癒される人が増えていき、噂は自然と広がっていった。


 やがて噂が広まって尾ひれがつき、いつの間にか話が大きくなって、気づけば貴族の耳にまで届くほどになっていた。


「ねえ、エレナ夫人。森のマダムをご存じ?」


 ある日のお茶会でエレナはそんな質問をされた。


「森のマダム?」


 一瞬、朗らかに笑うカルロッタの顔が浮かんだが、小さく首を振る。


「そうそう、今噂になっている、森のマダムよ。別名癒しの魔女」

「……初めて聞きました」


 癒しという単語にまたもカルロッタの顔が浮かんだが、カルロッタは魔女ではないと、エレナは内心で否定する。そんなエレナを他所に、お茶会にいた女性たちの話は続く。


「なんでも森に住む魔女が、どんな悩みでも解決してくれるそうよ」

「わたくしも聞いたことがあります。腰が曲がって歩けなかった老人が、魔女の家に行ったらスタスタと歩けるようになったそうよ」

「そうそう! 病んでいた殿方が魔女の魔法で元気になったんだとか」

「あら、わたくしは恋愛成就の魔法があると聞いたわ」

「惚れ薬が売っているとか、いないとか?」

「飲むと活力が湧く秘薬があるって聞いたわよ」

「わたくしは、食べると美肌になる魔女のお菓子があると聞きました」


 様々な噂が飛び交った結果、誰もが森のマダムに興味津々であることがわかる。話が盛り上がる中、その場にいた夫人の一人がポツリと呟いた。


「……会ってみたいわね」


 その夜、貴族の夫人たちは、帰宅すると夫に魔女の話を聞かせた。これにより、噂話が貴族の当主たちの耳にも入ることとなった。


 他の夫人同様、エレナは帰宅した夜、ロイドに問いかけた。


「旦那様、森のマダム、癒しの魔女の噂をご存じ?」

「初耳だが、魔女とは?」


 肩をすくめたロイドにエレナは今日のお茶会で聞いてきた噂話を聞かせた。

 話を聞いたロイドは苦笑しながら、どこか嫌な予感を覚えていた。


「癒しの魔女……、森の……マダムか。なぜかカルロッタさんの顔が思い浮かぶな」


 そう言ったロイドにエレナは、大きく頷いた。


「わたくしも、今回の噂を聞いた時にカルロッタさんのお顔が思い浮かびましたわ」


 二人は顔を合わせる。


「まさかな」

「まさかですわね」


 そう話す二人だけれど、頭の片隅で、もしかしたらという思いが捨てきれない。


「少し調べてみるか」


 ロイドの呟きにエレナも頷いた。


 それから数日後。


 カルロッタが洗濯物を干していると、レベッカが訪ねてきた。


「カルロッタさん」

「あら? レベッカじゃない。久しぶりね」


 剣を腰にさして、騎士の制服を着たレベッカ。前回会った時には背中まであった髪が、肩に触れるほどの短い髪になっていた。顔周りがすっきりしたせいか、以前よりも凛として見える。


「お久しぶりです」

「おやまあ、その髪いいじゃない。すっきりしてかっこいいよ」


 レベッカは、短くなった髪を指先でつまみながら言った。


「……ありがとうございます。気持ちに区切りをつけたかったのもあって、切っちゃいました」


(気持ちに区切りってことは、ジョナスとのことかしら? 失恋の傷は思ったより深かったのかもしれないわね)


「本当に似合っているよ。見た瞬間、思わず見惚れちゃったぐらいよ。それで今日はどうしたんだい?」

「カルロッタさん、お時間よろしいですか?」

「もちろんだよ。家においで」


 カルロッタは、慣れた手つきでお茶の用意をして、レベッカに振舞った。


「さあ、お茶でもどうぞ」

「ありがとうございます」

「それで、どうしたんだい?」

「最近変わったことはありませんか?」


(あら、レベッカ……いつもより真剣な顔しているわ。何かあったのかしら?)


 カルロッタは首を傾げながら、最近出来事を振り返る。


「特に思い当たらないけど……強いて言うなら、最近お客さんが増えたくらいかしらね。みんなお茶を飲みに来るのよ」

「それです!」


 レベッカが人差し指を立てて大きな声でそう言って、カルロッタはあまりの勢いに驚いてきょとんとする。


「それって? なんだい?」

「実は今、とある噂がありまして……」


 レベッカはカルロッタに噂の内容を聞かせた。朗らかな笑みを浮かべて話を聞いていたカルロッタだけれど、話が進むにつれて目をぱちぱちと瞬かせた。


「森のマダム? 癒しの魔女? 誰だいそれは?」


 返事に迷うような表情をしたレベッカだったけれど、意を決したように口を開いた。


「もしかしたら、カルロッタさんのことではないかと思ったのですが」

「え?」


 カルロッタはぽかんと口を開けた。


「カルロッタさんが、癒しの魔女なのではと……」

「ちょ、ちょっと待っておくれよ。私は、ただ遊びに来た人に、お茶をだして、話を聞いただけだよ」


 カルロッタはぶんぶんと両手を振って否定するが、レベッカは小さく眉を寄せて、首を傾げた。


「この噂を聞いた時に、私はまずカルロッタさんの顔が思い浮かびました」


 カルロッタ瞬きを繰り返して、自分を指差した。


「私かい?」


 レベッカは口元に柔らかな笑みを浮かべて、大きく頷いた。


「私だけではありません。この話を聞いた公爵様も、エレナ様も、メイドのサラも、みんなです。それで、噂の元を調べたところ、実際にカルロッタさんのところへ行った街の人たちは、元気になったそうです。心が軽くなったとか、怪我が治ったとか……そういう話が広まっていました」

「お茶飲んで、お喋りすれば誰だって心が晴れるものだよ。ただのおばさんの私に秘薬なんて物は作れないし、人違いじゃないかい?」


 カルロッタは腰に手を当てて呆れたようにそう言った。


(でも、そういえばお茶のついでに茶菓子を振舞ったときに、魔法みたいに美味しいとは言われたわね……あれが広がったのかい?)


 カルロッタがまさかの可能性に頭を抱えていると、レベッカは姿勢を正して言った。


「公爵様もエレナ様も心配されていました。もちろん私もですが」

「……心配ってなんでだい?」

「噂が貴族の間で広がっていますので、念のため用心してください」


(遊びに来た人の話を聞いただけの私が、癒しの魔女だなんて何かの間違いと思うけれど、レベッカの様子を見る限り本当に心配してくれているわね)


「わかったよ、用心しておくわね。せっかく来てくれたのだし、お昼ご飯食べていくかい?」

「そんな、悪いですよ」

「今日はね、昨日から漬け込んでおいたカルロッタ特製から揚げだよ」

「から揚げ……ですか?」

「そう、鶏を揚げた料理なんだけどね、黄金色の衣がカリっと香ばしくて、噛めばじゅわりと肉汁があふれてくるわよ。生姜とにんにくの香りがほんのり漂ってね、美味しいわよ」


(前世では子供たちがから揚げが好きすぎて、よく作っていたのよね)


 から揚げの説明にレベッカの瞳が輝く。それでも迷っているのか目を泳がせるレベッカに、カルロッタは言った。


「たくさん仕込んでおいたから、食べていってくれると助かるわ」

「それでは、お言葉に甘えて」


 カルロッタは昼食の用意に取り掛かる。仕込んでおいた鶏肉を油に落とした瞬間、じゅわっと勢いよく泡が立ち、台所に香ばしい匂いが広がった。


「いい匂いですね」

「フフフ、美味しいわよ」


 カルロッタが油の音を聞きながら、色の変化をじっと見つめていると、ノックの音が響いた。


「あら、誰か来たみたいだね。今手が離せないから、レベッカ出てくれないかい?」

「はい、おまかせください」


 そう言って、レベッカが玄関の扉を開いた。

 そこにいた人物に、レベッカは瞬きすら忘れたように固まった。


「……ジョナス」

「……レベッカ」


 二人は目を合わせて固まった。

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