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7話:アベルの試験

風が冷たくなった秋の朝。雲一つない青空の下、王立アルカディア学園の広大な敷地に足を踏み入れる。

ここで人生が変わるかもしれない―そんな緊張と期待が入り混じった気持ちで胸がいっぱいだった。


受付の女性の声に呼ばれ、僕は深呼吸して会場に入った。大講堂にはすでに百人以上の受験生たちが集まり、静かに整列している。貴族の子弟たちは派手な礼服を纏い、自尊心に満ちた表情をしている。一方で僕のような平民は地味な衣装で控えめに振る舞っていた。


試験官の一人が壇上に立ち上がる。


「これから筆記試験を行います。各科目三十分ずつ。順番に問題用紙をお配りします」


緊張が高まる中、最初の科目「歴史」の問題用紙が渡された。古代王国の建国年号、主要な戦争の名称、重要人物の功績……一通りの基本的な問いが並ぶ。

ギルベルト師匠から叩き込まれた知識をフル稼働させる。ペンを走らせる音だけが響く静寂の中で、私は懸命に解答を埋めていった。


(母さん……見ていてくれ)


脳裏に浮かぶのは昨年亡くなった母の笑顔。彼女が願った騎士になる夢。そしてロゼッタとの約束。全てが今この瞬間に繋がっている。


二科目目の「魔法理論」も難なく終え、休憩時間に入った。廊下に出るとライオネルの姿を見つけた。彼もまた緊張した面持ちだが、目が合うと微笑んでくれた。


「お前なら大丈夫だろ」


その一言で少し安心する。幼馴染の存在が心強かった。




午後の実技試験会場は中庭。審査員たちが厳しい目で受験生たちを見つめる。実技試験は模擬剣での対人戦だ。


「137番、アベル!」


俺の番が来た。深呼吸をして闘技場へ上がる。相手は貴族の子弟らしく、派手な装飾剣を持っている。余裕の表情で剣を構えた。


「平民ごときが俺に勝てると思うなよ」


審判の掛け声とともに試合が始まる。相手は速攻で突進してきた。しかし俺は冷静に躱し、ギルベルト師匠から教わった構えを取る。


「ほう……基本がしっかりしているな」


審査員席から聞こえる声。意識を集中させると相手の動きが読み取れる。剣筋。体重移動。力の流れ。全てが掌の中にあるかのような感覚だ。


一気に踏み込み、相手の攻撃をかわして一閃。剣が相手の胸当てを打ち据えた瞬間、審判の声が響いた。


「そこまで!アベルの勝ち!」


歓声が上がった。驚きの表情で相手を見ると、屈辱に顔を歪ませている。しかしそれ以上に審査員たちの目が俺に向けられているのが感じられた。

興味と賞賛の入り混じった視線だ。


その後も続けて三連勝。師匠からの教えが確実に身についているのを実感する。


一日の試験を終え、宿舎に戻る途中でライオネルに出会った。


「やったな!お前の剣技見たぞ!凄かった!」


彼の言葉に安堵の笑みがこぼれる。しかしそれ以上に気になるのは面接試験だ。明日に控えた重要な審査で全てが決まる。



特に平民枠は競争率が激しい。


部屋に戻ると鏡に映る自分の顔を見つめた。疲れは見えるが目には決意が宿っている。母への想い。ロゼッタとの約束。全てを胸に刻みつけた。


(必ず合格する。そして……)


翌日の面接は個室で行われた。部屋に入ると三人の審査官が机を挟んで待っている。中央の初老の男性が口を開いた。


「アベル。まずあなたの剣技は素晴らしかった。どのような師についたのかね?」


「ギルベルト・ヴェストハルト師匠です」


その名前を口にした途端、審査官たちの表情が変わった。


「ヴェストハルト師匠!?あの伝説の剣士か!」


「道理で基本が完璧なわけだ。あの方から直接教えを受けるとは……」


三人の間に驚きと納得の空気が流れる。師匠の名前は思っていた以上に影響力があるようだった。


「彼のもとで何を学んだ?」


「剣の技術だけでなく、精神的な在り方も学びました。真の強さとは何なのか。守るべきもののために戦うことの大切さを」


真摯に答えると審査官たちは頷いた。続いて様々な質問が続く。王国への思い。騎士道についての考え。そして最も核心的な質問が来た。


「平民としての立場で、なぜ貴族の学校を目指すのか?」


(ここで正直に答えるべきだ)


「幼い頃からの夢です。それに……大切な人がいるんです。その人のために力になりたい。彼女が学園に入学すると聞いて、自分も同じ場所で学びたいと思ったのです」


静寂が部屋を包む。審査官たちの表情を窺うと、深い理解の色が浮かんでいる。


「なるほど……その気持ちが原動力か」


「力になりたいという情熱。素晴らしい」


面接は終了した。扉を閉めながらホッと息をつく。全てを出し切ったという充実感があった。あとは結果を待つのみだ。


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