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5話:アベルの鍛錬

ロゼッタの覚醒から半年程が経った。彼女と2人きりで会話したあの日以降、彼女とは忙しすぎて殆ど会えていない。


俺は、ライオネルが探してくれた剣術師範のもとへ旅立つ前夜の準備に追われていた。荷物をまとめていると、母がお守りを渡してくれた。フィルクス領の守り神の紋章が縫われている布袋だ。


「アベル……頑張ってきなさい。でも無理だけはしちゃ駄目よ」


母の眼差しは、平民の息子が貴族の学園を目指すことへの誇りと、唯一の家族が遠くへ行くことへの寂しさを湛えていた。父を早くに亡くして以来、母は女手ひとつで俺を育ててくれた。


「わかってる。ちゃんと勉強して、剣術も磨いて……絶対合格してみせるよ」


そう答えながらも胸の内では別の思いが渦巻いていた。ロゼッタのことだ。彼女が聖女として遠い存在になってしまうのではないかという不安。そしてあの日の出来事が再び頭を過る。



翌朝早く。母とライオネルに見送られながら、隣領の剣術師範の館に向かう。馬車に揺られながら窓の外を眺めると、冬の気配が近づく景色が流れていく。


(ロゼッタ……今頃どうしてるだろう)


そう思いながらも頭を振る。今は目の前のことに集中しなくてはならない。師範のもとでどれだけ成長できるかが全てだ。


馬車で数日かけ隣領に入ると、そこはフィルクスよりも遥かに豊かで発展した地域だった。石畳の道に整備された町並み。行き交う人々の服装も上等なものが多い。


(これが都会か……)


生まれて初めて見る光景に圧倒されつつも、不安と緊張が高まる。ここで自分の価値を証明しなければならないのだから。



目的地であるヴェスト辺境伯領に着くと、出迎えてくれたのは初老の男性だった。灰色の髪を短く刈り上げ、引き締まった体格。鋭い眼光が印象的だ。


「君がアベルか。話は聞いているよ」


低く威厳のある声。間違いなく噂に聞いた剣術師範のギルベルトだ。


「はい!宜しくお願いします!」


緊張しながらも頭を下げると、ギルベルトは優しく微笑んだ。


「よし。今日から修行を始めるぞ。まずは基礎からだ」


案内された稽古場は広く、壁には様々な武器が飾られている。すでに十数名ほどの若者たちが剣を振るっていた。彼らは貴族の子弟や裕福な商家の子らしく、洗練された所作をしている。


「君はここで一番若いな。だが年齢は関係ない。やる気があれば十分だ」


そう言ってギルベルトは俺に木剣を投げてよこした。


「構えろ。型を知っているか?」


俺はこれまでライオネルに習った基本の構えを取る。だがギルベルトは厳しい表情で首を横に振った。


「それでは駄目だ。もっと重心を低く。そして右手をしっかり握れ」


実際に対峙しながら徹底的に矯正される。一時間もしない内に全身汗だくになっていた。


「なかなか筋は良い。だがまだまだだ。続けるぞ」


それから毎日朝から晩まで厳しい稽古が始まった。筋肉痛と疲労で食事の時以外は眠りこけてしまう日々。しかし徐々に体が慣れていき、技術も向上していく手応えはあった。

何より、ここでの訓練が確実に自身の力になっているという実感があった。


一方で学問の指導も受けた。館に併設された図書室で座学を行う。歴史、数学、哲学。どれも初めて触れる知識ばかりで頭がパンクしそうだったが、ギルベルトの教え方は意外なほど丁寧だった。


「知識は力だ。剣の技だけでなく、戦略や政治も理解できなければ一流の武人にはなれない」


その言葉通り、試合形式の訓練では戦術の組み立て方も含めて指導された。相手の弱点を見抜き、地形を利用し、隙を作る。単なる力比べではなく、知性も必要とされることを身を持って学んだ。

アベルの潜在能力は高く、次第に応用が利くようになった。

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