科学でぶっ飛ばす最初の戦い
「――お前は役立たずだ。今日限りでパーティから追放だ」
その一言で、俺――レオンの人生は終わった。
勇者パーティの錬金術師として十年、命を懸けて働いてきたのに、だ。
攻撃魔法は使えない。回復も中途半端。
取り柄は、素材を調合して薬や爆薬を作ることだけ。
だが仲間たちは言った。
「薬なんて商人でも買える。お前はいらない」
肩を落とし、路地裏で荷物をまとめる手が震える。
俺の世界は、ここで終わるはずだった。
――しかし、その夜。
机の上に置いたステータス画面に、見慣れない項目が光った。
【スキル:科学知識】
「……は? “科学”? この世界に科学なんてあるわけないだろ」
火薬、硝酸、鉄精錬、蒸気機関……前世で学んだ知識が、まるごとスキルとして蘇ったのだ。
俺の心は、絶望から一気に昂ぶりに変わった。
「なるほど、これなら世界をひっくり返せる」
翌日、町外れの森に小規模な魔物の群れが出現したとの報告を聞きつけ、俺は現場へ向かう。
森の奥は薄暗く、魔物のうめき声が木々の間から漏れ聞こえる。
「ちょっとだけ、実験させてもらうか」
拾った木の枝、火薬、そして水晶で簡単な爆弾を作り、配置する。
俺の手元で化学反応が静かに始まり、魔物たちが近づく瞬間――
――ドオォン!
一瞬の閃光とともに煙と爆風が森を包む。
魔物たちは暴れ狂うどころか、驚きと恐怖で逃げ惑うだけだった。
枝や岩が宙を舞い、葉っぱが煙とともに空に舞う。
「これが、俺の力――」
森の奥から叫び声が聞こえる。
小さな村の子どもたちが、こっそり見守っていたのだ。
「すごい……!」
その声に、俺は思わず笑った。
戦いが終わった後、倒れた魔物の残骸を前に、村人たちが駆け寄ってくる。
「あの……あの人、あの爆発……魔物を一掃しました……?」
俺は肩をすくめ、軽く笑った。
「まあ、ちょっとした実験だ。危なかったか?」
村人たちは口をつぐんだまま、目だけで「すごい……」と語っている。
無能と罵られた錬金術師の逆転劇を、初めて目撃したようだ。
その夜、俺は思う。
「追放されても、俺にはまだやれることがある」
ステータス画面を見つめながら、次の計画を頭の中で組み立てる。
火薬と科学で戦闘力をさらに強化する
村や街の人々に“ヒーロー”として認識させる
勇者パーティを見返す――いや、世界全体を動かす
胸の奥で、ワクワクする気持ちが膨らんでいく。
「次は、街に行って実験してみようか……」
そして、俺の足は自然に街の方向へ向かう。
――無能と呼ばれた錬金術師の、逆転劇は始まったばかりだ。