表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/92

第十章−7:「夜の病院、再び歩き出す者たち」


無労働日、最初で最後の夜。


非常電源に頼った光が消えぬよう、病院の廊下にはまだ緊張が残っている。

それでも、時間は容赦なく進む。日付が変われば、制度の網が再び社会を包み込む。


ー「……行くなら、そろそろですね」


そう言ったのはトーコだった。

ロビーで休憩していた春日恭平たちは、緩やかに立ち上がる。

吉田の手には、マサルが看護師から受け取った小さな手提げ袋。中身は災害備蓄食やカイロ、そして絆創膏。


「何かあったら、また来いってさ。マサルが」


「子どもに気を遣われてんじゃないよ、アンタ」


カナが苦笑交じりに言い、吉田が照れたように肩をすくめる。


見送りに来た久我と大町が、病院の出入り口まで同行する。

その途中、トーコは個人端末越しにIRMAから一通の報告ログを受け取る。


[IRMA通信ログ/22:36着信]

観察対象・春日恭平らによる見学終了。行動パターン、安定傾向。

対象・吉田圭吾および吉田マサル間の関係性再確定。心理回復傾向確認済み。

トーコ観察ユニットNo.α-28は次行動段階へ移行可能と判断。


トーコはその報告を静かに自己ログに格納しながら、恭平たちの顔を一人ずつ見渡した。


ー「この病院における観察記録は、一区切りとなります。今後も必要があれば、遠隔支援と解析を継続します」


「ま、なんかあったらまた会うってことで」


春日は軽く笑って言うが、どこか名残惜しそうだった。


時計は、23時を過ぎていた。

間もなく、日付が変わる。


カナは一歩踏み出す前に、病院の明かりを見上げた。

そこで今日、救われた命、再会できた親子、向き合えた自分。

そのすべてが、ここに残っているような気がした。


「……ありがと。ほんとに、ありがとうね」


それは誰に向けた言葉だったのか。

久我か、大町か、トーコか。

あるいは、この病院そのものに。


大町は「また来てもいいんですよ」と軽口を叩き、春日はそれに笑って応じた。


「……でも、また来るようなことにならない方が、いいかもね」


誰もがうなずいた。


マサルは、病棟の窓から顔を出し、遠くから手を振っていた。

吉田も小さく手を上げた後、ぐっと顔を引き締めて前を向いた。


彼らが再び闇の街道に足を踏み出すころ、病院の非常灯の一部がひとつ、またひとつと、順に落ちていった。


トーコはそれを確認しながら、内部ログに最後の一文を書き記す。


【記録:TOCO(汎用AI観察補助ユニット No.α-28)】

無労働日、観察対象の脱離を確認。制度的補助の限界と、人間的対応の連携により、当初想定以上の成果を認む。

次観測地点への移行準備完了。

日付更新まで残り約四〇分。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ