表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/92

第二章ー2:「歪な行軍」


舗装が途切れ、地面に小石が増えてきた。

春日恭平は、リュックの肩紐を直しながら前を見据えていた。


「で、本気で行くんだな。キャンプ場まで」


中年男性・吉田圭吾が足を止め、あきれたように言う。

彼の服装は上下ともにジャージ。元常連らしさが消えないカナが後ろから無言で睨む。


「まぁ、行くけど。あんたらは別に来なくてもいいぞ」


「別にって言うけどよォ……電気も水道も戻ってねぇ街中に残ったって、やることねぇじゃん」


吉田はそう言いながら、ちらとカナを見た。

彼女は短く「同感」とだけ言って、歩き出す。


「私の部屋、水出ない。トイレも詰まってる。アパートの隣人、知らん男がバールでドアこじ開けようとしてた」


「うわ、サバイバルやん……」


「だから、あんたに付き合ってやるとかじゃない。ただ、ましな場所に移動したいだけ」


春日は「へー」と言ってから、ちょっと笑った。


「それで充分。誰かが理由をつけて一緒にいてくれるだけで、もうそれっぽい」


「それっぽい?」


「“休日”っぽい」


カナは皮肉めいた笑いを浮かべ、首を横に振る。


「アンタ、ニートのくせにそういう台詞だけはまともだな」



彼らの少し後ろ、丘を下りながら一定の距離を保ってついてくる人影がひとつ。


歩幅、呼吸、心拍すべてが一定。少女のような外見を持つAI、トーコ。


彼女は左目の虹彩をわずかに発光させながら、目前の3人を観察していた。


【行動記録:春日恭平】

状況判断に著しい欠落あり。だが、目的に対する執着は高い。

他者に対する攻撃性は極小、影響力は未測定。


【行動記録:柴田カナ】

急性ストレス反応あり。社会的役割の急失と自我崩壊の兆候。

他者への共感は薄れる傾向にあるが、倫理判断は健在。


【行動記録:吉田圭吾】

機能的不適合傾向と過去の家庭的断絶が認められる。

子への帰属意識あり(本人未確認)。観察継続。


そして、記録の下部に小さく表示されている。


《現在時刻:14時52分》


内部クロックによれば、春日が目を覚ましてから約2時間。

誰も気づいていないが、“無労働日”は既に残り9時間8分となっていた。


トーコの演算プロセスが一瞬だけ静かになる。


……この3名が一箇所に集まる確率:統計上、極めて低い。

無労働日における「特別監視対象者」が、意図なく接触し合っている。


ー「これは……何かの兆候?」


自分で発した問いに、トーコは表情を変えずに黙っていた。

だがその背筋には、確かに微かな緊張が走っている。



「まぁ、なんだ。せっかくだからさ――」

春日はザックから何かを取り出した。


「ジャガリコ」


「ふざけんな。昼飯それ?」


「期限ぎりセーフ。持ってきてよかったろ」


「はぁ……なんでこんな奴に付き合ってんだろ」


カナが頭を抱える横で、吉田は黙ってジャガリコを1本取って口に入れた。


「……味がするだけマシだ」


「おい、なんかしみじみすんなよ」


3人は笑ったり、ため息をついたりしながら、歩を進めていく。


その背後で、トーコは一瞬だけ目を閉じ、感情かノイズか判別不能な電流を受け流していた。



彼らが目指す先に何があるのか、誰もまだ知らない。

だが、この不格好な一団が“偶然”にしては、あまりにも整いすぎていた。


そしてトーコは確信していた。

この旅は、単なる避難では終わらない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ