悪しき勇者との邂逅。
魔物を退け、魔法の片鱗に触れたリリアは、次に何をするべきか定まらないまま、ただ人のいる場所を目指していました。たどり着いた街は、一見すると賑わいを見せているものの、どこか陰鬱な空気が漂っています。そこには、人々の希望を象徴するはずの存在が、かえって彼らを苦しめるという、皮肉な現実が横たわっていたのです。リリアはまだ知りません。この街に蔓延る闇が、やがて彼女自身の運命を大きく揺るがすことになることを。
魔物を倒した後、リリアは茫然と立ち尽くしました。
とりあえず人のいる場所へ向かおうと、丘を下りて街を目指します。街にたどり着いたリリアは、道行く人々の活気に目を丸くしました。
おそるおそる一軒の店に入り、店主に話しかけられました。
「おや、嬢ちゃん、見ない顔だね。どこから来たんだい?」リリアは正直に答えます。
「えっと、私、旅をしてるんです。それで、この街にたどり着いたばかりで……」
しかし、店主の顔はどこか晴れません。
「旅ねぇ。大変だろうが、この街も最近は物騒でね。魔物もだが、何より勇者様がひどいもんでねぇ……」
店主は、街を支配するような振る舞いをする勇者の悪行について語り始めました。
鍛錬を積んだはずの勇者が、自分の力を笠にきて住民から略奪したり、少しでも気に入らないことがあれば暴力を振るったりする話を聞き、リリアは
「勇者なのに、そんなことするの?」
と目を丸くします。彼女の純粋な心には、その悪行が理解できませんでした。
ちょうどその頃、勇者は「自分好みの女性を探すため」という勇者らしからぬ理由で、丘を訪れていました。
彼は偶然にも、リリアが魔物を倒したその瞬間の戦闘を遠くから目撃していたのです。
魔法の概念がないはずの世界で、人間であるリリアが魔法を使う光景に、勇者は驚きと同時に強い関心を抱きます。
「これは使える」と直感した勇者は、リリアに目をつけました。
数日後、街で店を見て回っていたリリアの前に、堂々と勇者パーティーが現れます。勇者は上から目線でリリアに声をかけました。
「おい、お前。丘で魔物を倒していたな。その力、悪くない。俺のパーティーに入れ。勇者様であるこの俺が直々に誘ってやっているんだ、光栄に思えよ」
勇者の傲慢な態度に困惑しながらも、リリアの頭の中には、街の人々から聞いた勇者の悪行がよぎります。
素直で天然な彼女は、純粋な疑問として口にしました。
「あの……その前に、街の人に謝ってくれませんか?」
リリアの予想もしない言葉に、勇者は一瞬固まり、そしてすぐさま不快感を露わにしました。
「ふざけているのか?この僕が? 貴様ごときが、この勇者に指図するなど、身の程を知れ!」
勇者の激昂した言葉と、反省の欠片もないその態度に、リリアは彼の誘いを断ることを決意しました。
彼女の純粋な心にとって、このような勇者と行動を共にするなど、考えられないことだったのです。
リリアの断固たる拒絶は、勇者の激しい怒りを買いました。
「この僕の誘いを断るとは……! 愚か者が!」
勇者は即座に、その力をリリアに向けました。
彼が武器を構え、襲いかかろうとした瞬間、街の人々は恐怖に引きつった表情で一斉に後ずさります。
誰もが勇者の横暴を知っており、彼に逆らえば自分たちにも被害が及ぶことを知っているため、リリアを助けようとする者はいませんでした。
リリアは、大勢の人の目に囲まれながらも、完全に孤立してしまいました。しかし、リリアは怯みませんでした。
転生前の世界での戦闘経験が、彼女の天然な性格の奥底で目覚めました。
迫りくる勇者の攻撃に対し、リリアは冷静に、そして素早く両腕を構えました。
「くっ……!」
彼女の手から、再び水の塊が弾けるように飛び出します。ウォーターボールが勇者の体表にぶつかり、その動きをわずかに鈍らせました。
そして間髪入れずに、リリアは空から雷光を呼び寄せる。斧が閃光を伴って降り注ぎ、ウォーターボールで濡れた勇者の体に直撃しました。
凄まじい電撃が勇者の体を駆け巡り、彼は苦悶の声を上げ、大きく仰け反ります。
予想外の反撃に、勇者の顔には明確な驚きと、そして屈辱の色が浮かびました。
この場でリリアを打ち倒し、服従させるつもりが、まさか傷を負わされるとは。勇者のプライドは粉々に打ち砕かれました。
「くそっ……覚えていろ!」
歯ぎしりしながら、勇者は手負いのまま、その屈辱に耐えかねて街から逃げ去っていきました。
リリアは、一瞬の間に繰り広げられた攻防と、勇者の撤退に、呆然と立ち尽くします。
続いて読んで下さりありがとうございます!
1つ前の章と比べて長くなって居ますが基本的にこれぐらいの長さで行こうと思います!少しでも「面白かった」「続きを読みたい!」と思って頂けたら励みになります!