嫉妬ってこんなに苦しいんだね
あれから数日が経過した。相変わらず授業終わりに部活練習があり、その帰りは先輩とともに帰宅する。部活練習がない日には、琴と藤井先輩も混ざって近くの総合体育館へ練習に行っていた。
今日は、私が鍵当番だったので皆が先に帰ったあと職員室へ置きに行っていた。当然琴も含めて他の皆は既に帰っている。
最近琴は私を置いて、そそくさと帰ることが多い。なんでもその方が先輩から声をかけられやすいから、なんて言っていたけど、たまに影から私達のことを見ているようでとても気恥しい。
職員室の用事を済ませ、玄関へと向かった。もう外はすっかり日も落ち、暗闇が世界を覆っていた。今日は月も星すら見えない。
「あれ、先輩待っていてくれたんですか?」
玄関にその背中が見え、胸が弾んだ。どこまで優しい方なんだろう。
「家まで送ろうと思ってね」
「ありがとうございます!」
私達は付き合ってから、自転車を漕がずに歩いて帰るようになった。少しでも長く二人きりでいたいからである。それでも30分くらいの距離なので、あっという間に感じられるのだが……。
「ところでさ、せっかく付き合ってるんだし敬語はなしでいいよ」
先輩は澄まし顔でいる。暗くて見えないのになぜ分かるかって?一応これでも、先輩が好きでどんな先輩でも観察してきた。なのでこういうことを言っている時は、だいたい澄まし顔に決まってる!
「う……こ、これは癖みたいなものなので……その……少しずつ慣らしていきます……」
俯きながらそう答えると、先輩は「いつか敬語が無くなるのを楽しみにしているよ」と、クスッと笑っていた。
私を家まで送り届け先輩も家に着いた頃、お母さんが作ってくれた夕飯を家族団欒テーブルを囲んでいたら、自分のスマホがブルっと震えた。
こんな時間に誰だろう、とチラ見するとそれは先輩からだった。
『さっき話そびれてしまったんだけど、今度の休みにデート行きませんか?』
そのメッセージを読んだ瞬間心の中でガッツポーズをした。
「なにニヤついてるのよ。変な子ね」
気づけば顔に出ていたようで、お母さんもお父さんも怪訝な目を向けられていた。
「それで、最近どうなのよ」
授業の合間、いつものようにふとやってきた琴は面白い玩具でも見つけてきたかのように目を輝かせていた。
「ど、どうって?」
「聞かないでよ。先輩とのことだよ」
「な、なにもだよ?毎日家に送ってくれるくらいで……」
まぁ、今度の休みはデートしようって約束しちゃってるけどね。そんなこと伝えてしまったら、言い的だと絶対に口煩く聞いてくるに決まってる!
「えー!キスは!?」
「ま、まだ……」
「なんで!?」
付き合ったらキスしなくてはいけない、なんてルールでもあるんだろうか?まるで、信じられないとでも言いたげである。
しかし、なぜキスをしていないのかはさておいても、確かに手すら握ったことがない。いつも自転車を押して歩いて帰るので手を握ることも出来ない、と言うのは確かではあるのだが……。
言われて気づいた。付き合ってから付き合う前と何も変わっていない。確かに一緒にいることは前より増えたし、帰宅中は最初こそ恥ずかしがって静寂を貫いていたのに、今では話が尽きることがない。
進展していない、なんてことはないのだが……。もう少し、進んでもいいように感じる。
もしかすると先輩は、次の休みのデートで何か考えているのかもしれない。どこに行くかはまだ話していないけれど、きっと手を繋ぐ機会だってあるはず!キスは……まぁまだ出来なくてもいいかもしれない……?
「今日もいい練習だったー」
この日もいつも通り部活練習に勤しんでいた。琴にとっては甘い練習じゃないかな、なんて思いながら私にとってはまだまだきつく感じる練習。琴に追いつくのはどれくらいになるだろう。
「そうだね。もうあちこち筋肉痛だよ」
「あれ?先輩じゃない?」
琴がふと学校の玄関先を指差して告げた。そこには、羽吹春先輩ともう1人制服を着た髪の長い女生徒が立っていた。二人で楽しそうに笑いあっている。その様子から上級生だと推察できた。
「え……」
「あの女の人誰だろう」
「……」
なんとなく嫌な気持ちになって、先輩に気づかれないようその場を後にし、家まで帰った。琴はそれ以上何も言わずに寄り添ってくれた。
家に着くと、先輩からLIMEが届き「いつの間に帰ったの?」と書かれていたが。「琴と帰りました。先輩いたんですか?」と返事しておいた。その後はなんだか、胸が締め付けられるような感じがして夕飯を食べてしまうと、そそくさとベッドについた。
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