これは夢?夢だよね?夢と言って!?
~前回までのあらすじ~
バドミントン部に入部した瑞葉と琴羽。そこで出会ったイケメン先輩と少し仲良くなっていった。
ある日、部活が休みのため近くの総合体育館へ練習をしに行った。そのイケメン先輩を誘い練習に励む。
無事に練習が終わり、さぁ帰ろう!となった矢先、瑞葉はイケメン先輩の羽吹春先輩と二人きりで帰ることに……!?
私達は二人肩を並べ、自転車を漕いで行く。月明かりが私達を照らし、まるで今この瞬間、この世界にいるのは私と先輩だけのような気さえする。
暫く黙ってペダルを漕ぐことに集中していた。先輩と2人きりだなんて、一体どんな話をすればいいのか分からない。
それもそのはず。二人きりでいるのはこれが初めてなのだ。しかも今は、お互いにラケットを握っている訳でも無い。
どう声をかければいい?まさか家に着くまでこのままとはいかないよね?さすがに気まずすぎる……。
こんな所で私のコミュニケーション能力が問われてしまうだなんて、思いもよらなかった。
えーと、こういう時は天気の話をすればいいんだっけ?――今日は天気がいいですね――いやだめだ。もう既に夜だ。だったら――趣味はなんですか?――これもダメじゃない?同じ部活に入っているのだから、趣味も何も無い。
そんなことを永遠と思案していると、沈黙を破ったのは羽吹春先輩の方だった。
「ところでさぁ、突然こんなこと聞くのもなんだけど……」
先輩はとても言いづらそうに目を逸らす。
月明かりは、先輩の表情まで照らしてはくれなかった。
「気になる人とか……いる?」
「えっ……ぁ……」
「そっか……」
ふいに図星をつかれ、狼狽えてしまった。
気になる人は居ないわけじゃない。むしろいる。しかも目の前に。
けれど、この気持ちが本当にそれなのか確信が持てなかった。というより持っていいのかどうかさえ分からない。
だって、先輩は二個も歳が離れている。高校に入学したばかりの私からしたら、天の上のような存在。つまりは手が届かないような存在なのだ。そんな方に思いを寄せていいものなのか、甚だ疑問である。
そんなことを思案していたというのに、先輩はとんでもない事を口にした。
「あのさ……よかったら俺と付き合ってくれませんか?」
「……え……えぇぇぇえええええ!?!?」
私の声は静かな夜道に木霊する。
耳を疑う。つ、つまりそれって……そういうこと!?
急ブレーキをかけると先輩も自転車を停め、振り返ったその顔は少し不服そうに見えた。
「なんだよその驚き様は」
「いや、だって……そんな……まさか……」
信じられない。信じられるはずがない。思いを寄せていたのは、私の方で先輩はそんな素振りすら見せなかった。嬉しい……嬉しいけれど、どうして?混乱した頭でも、酷く冷静にそんな疑問がよぎる。
「それで、答えは?」
私は戸惑っていた。
先輩と付き合ったら、二人でデートとかするんだろうか。練習も二人きりでやったりすることもあるのかな。それよりも遊園地デートとか?水族館もいいな。で、でも先輩に見せられる服なんてあったかな……。
そんなどうでもいい様なことを思案していると、先輩が黙っている私に不安を覚えたのか、頭をポリポリとかいた。
「まぁ、その……今すぐ答えなくても……」
そうか!これは夢なんだ!先輩がこんなこと言い出すはずがないもの。先輩にとって私は、他愛ないただの部活の後輩のはず。
そう、これは夢。夢なら叶ったっていいよね?
「いえ、その!……つ、付き合いたいです……///」
「そ、そうか……よかった。もしダメだったらどうしようかと思ったよ」
その後、先輩が私を家まで送り届け、先輩が自宅に着くまで通話した。勿論、先輩はイヤホンを使って、だ。運転中の通話は危ないからね。
先輩と肩を並べている時は、照れ臭さのあまり静寂を極めていたというのに、なぜか通話では話が弾んだ。
内容は自分のバドミントン歴の話――琴の練習相手になりながらコテンパンにされていた話をすると、そもそも相手になるのが凄いと褒められたけれど――や、先輩の好物について話していた。
取り留めもない話だったけれど、私にとってはそれすらも夢のようだった。
「瑞葉、なんかいつもと様子変。なんかあったの?」
「……///」
私は登校すると、いつも通り廊下から窓の外を眺めていた。私は自然とにやけ顔になってしまい、なかなか解れない。そんな私を琴は見ていたのだろう。登校するなり、怪訝そうな目で声をかけてきた。
「もしかして……告白でもした?」
やっぱり琴に隠し事はできないか……。私は昨日、琴と別れた後にあった出来事を包み隠さず話した。
「えー!よかったじゃん瑞!おめでとう!!」
琴はまるで自分の事のように歓喜した。それが返って気恥しい。私は顔を真っ赤に染めながら俯く。
「うぅ、ありがとう」
「そっかぁ、とうとう瑞に春が来たかぁ」
どこか名残惜しそうに呟く琴。
琴に話したことでそれまで夢見心地の気分だったが、急に現実味を帯びてきた気がする。
今でも信じ難いが、これで嘘でしたなんて言われでもしたら暫く立ち直れないだろうな。と思いつつも「まさか先輩がそんなことする人なわけが無い」と、会って間もないと言うのに謎の確信を持っていた。
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