神々しい先輩とかもう拝むしかなくない?
「えーっと、君が清水さんかな?」
体育館を横切ると不意に横から声をかけられ、振り向く。そこにはあのイケメン先輩が立っていた。
「はい、そうです」
不意の登場にドクンと胸が高鳴る。
こんな近くで見るのは初めてだが、やはりとても綺麗な顔立ちをしている。キメ細やかな肌に長いまつ毛とくっきり二重で目も大きい。鼻筋が通っており、全体的に整った顔立ちだ。
一言で言えば、カッコイイ。
少女漫画に出てきそうな容姿の人って、本当にいるんだなぁ。
「それで、君がさっきすごく長いラリーをしていた……」
「初風瑞葉です!」
あ、まずい。そう気づいたのも既に遅かった。思っていた以上に、声を上げてしまっていたのだ。長い廊下に私の声がどこまでも反響していく。
「クスっそんな大声出さなくても聞こえてるよ」
隣で琴までクスクスと忍び笑いをしていた。恥ずかしい。私は口を噤み俯く。
「俺は、羽吹春。んで、こいつが藤井翔」
「ん?あぁ」
後ろからもう一人、黒髪の男バド部員が現れる。イケメン先輩に気を取られ、全く気が付かなかった……。
その先輩はなんだか気怠そうである。いつもこの茶髪のイケメン先輩と一緒に見かける人だった。こちらも整った顔立ちをしているが、どちらかと言うと可愛い系である。
この二人が並ぶと、とても絵になるなぁ。
そんな風に惚けていると、イケメン先輩の言葉でハッとする。
「さっきのプレー見てたけど君凄いね」
「そ、そんな事ないですっ全部、琴のお陰で……」
「琴?あぁ清水さんのことか」
はい、と小さい声で答えると先輩は続けた。
「君達に期待しているよ」
それじゃと言って、イケメン先輩達は立ち去る。
私はその後ろ姿をボーッと眺めた。羽吹春先輩……かぁ。そのお声は、頭に響くほどとても心地よい澄んだ声だった。
「おーい。瑞ー?」
「な、なに?」
「顔が緩んでるよー?」
琴が不敵な笑みを浮かべながら、私の頬をツンツンとつついている。
「う、うるさいなぁ」
「よかったね」
少し会話しただけではあったが、それは本当にそう。名前を知ることが出来ただけでも、かなりの収穫だ。
次の日、私はいつも通り学校へ行った。朝8時の静寂に包まれた校内を横切り、体育館へと向かう。いつもなら生徒たちで賑わっているこの時間でも、誰一人としていない。なんだか、神秘的な雰囲気に心が踊った。
同じ場所なのにこうも雰囲気が違うとまるで別世界に来たような、そんな感じだ。
そう、本日は土曜日。学校の授業はないのだ。ではなぜ私はここにいるのかって?それはもちろん、あれの為だ。
「あ、おはよー」
「!?お、おはよー!」
とある人物の登場に、束の間の静寂は過ぎ去った。部室で着替えをしていると、後から直が現れたのだ。
その後ろから、これまた隠れるようにして凛も登場する。
私は目を丸くし、動きを止めた。
「何驚いてるの?悪いことでもしてた?」
「い、いやそんなことは……」
そう言って割り当てられたロッカーへ行き、準備を始める。この二人はなんだかちぐはぐだなぁ、なんてことを考えながら着替えを再開する。
「先いくね」
私は、着替えを先に済ませ体育館へ向かった。準備をしていると次から次へと先輩や琴が現れる。がしかし、そこに男バドの姿はなかった。部活が始まる時間になっても誰一人として現れい。というより、この体育館には私達女バドの面々しかいないのだ。
「今日は男バド休みなんだね。いつもの倍のコート使って練習できるじゃん!」
「うん……」
部活が始まる直前に琴が小さく歓喜の声をあげた。
この部員数でこの広さは、逆に萎縮してしまう。なんだか自分が小さく感じる。それに……。
「会えなくて残念?」
私が浮かない顔をしているのに気づいた琴が、心配そうに顔を覗き込む。
別に先輩に会いに来るために、ここへ来ている訳では無い。ただ、少し残念に思うのも事実だった。
部活が始まり、ストレッチ、ランニング、アップをこなす。その中で1番苦戦していたのは、凛だった。走るのも得意ではないらしく、ランニングもかなり遅くに戻ってきていた。
体育館へと戻ると、誰かがそこにいた。
整った顔立ちに、紺色のウインドブレーカーを着ている、茶髪の男バドメンバー。羽吹春先輩だった。シャトルを上に打ち込んで遊んでいる。
人目見た瞬間に、私の鼓動が高鳴るのを感じた。毎回毎回この鼓動はうるさい。
「先輩おはようございます。今日お休みでしょう?」
「いやー、やっぱり動いてないと落ち着かなくて」
鳴海先輩が声をかけると、羽吹春先輩はシャトルを置いてラケットを肩に担いだ。
今日の練習に混ぜてくれないかと、二人で話している。
「瑞、よかったね」
「う、うん」
琴に肘で小突かれ少し恥ずかしくなる。しかも含みのある顔を向けてくるのだから、尚のこと落ち着かなくなる。
準備運動が終われば、今度はコート内に入ってフットワークから始まる。
だが私達、入部したての一年はコート横でまた素振りが待っていた。声を出して数を数えながら、やっていく……のだが。
「あ、初風さんもフットワーク入ってね。清水さん教えてあげるんだよ」
「え!?」
「分かりました!」
私も今日から先輩方と同じ練習に参加するらしい。ついていける自信が、まるでない……
琴に手とり足とり丁寧にやり方を教わるが、覚えるまでは足がもつれてしまいそうだ。転けないようにだけ最新の注意を払う。イケメン先輩がこんな近くで見ているんだ。醜態を晒すのだけは避けたい。
「さすが初風さん。ほとんど形になってるよ」
「いえ、全然まだまだです」
フットワークが終わると、今度は二人一組になってコートに立ち、ヘアピン、ドライブ、ドロップ、クリア、スマッシュと順に打ち合っていく。
「頑張れ」
「え、ちょ!?」
琴は小声でそう告げ、そそくさと鳴海先輩に声をかけていった。
当然のように琴と組もうと思っていたのだが、一瞬で裏切られてしまった。
私はどうしよう。相手がいないよ……。
「溢れた?」
「えと……はい」
キョロキョロとしていると、イケメン先輩が目の前に現れた。胸がキュンと弾む。先輩が、キラキラと輝いてさえ見えた。
「んじゃ俺と組もうか。えと…瑞葉って呼んでいい?」
「は、はい。ぜひ……!」
「おっけー瑞葉、よろしくね」
「よろしくお願いします!」
下の名前で呼ばれるなんて……しかも呼び捨て……!嬉しすぎて小躍りしちゃいそう!
琴がこちらを見て、舌をペロッと出している。こいつ仕組んだな!?だが、今回ばかりは琴に感謝だ。後で根掘り葉掘り聞かれそうだけど……
ネット越しに対面すると緊張が走る。別に試合する訳じゃないんだし、何も身構えなくてもいいのに。と自分でも思うが、先輩のその神々しいオーラに見惚れてしまう。
集中しろ、瑞葉!
自分の頬を叩き、気合を入れる。
「はじめー!」
部長の合図で、それは始まった。
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これから二人は如何様に!?
それでまた次回♪




