ヒトメボレってなんですか?美味しいの?
「うはーやっと休憩かぁ」
もう既に足はパンパンだし、ずっと素振りし続けているから腕がもう筋肉痛になりかけていた。
「基礎練と素振りだけでもキツイでしょ。大丈夫?」
「うん!確かにキツイけど大丈夫だよ」
琴は、先輩達の練習に混じって激しく動いていたのに結構余裕そう。さすがだなぁ。
休憩明けは、1セット先取の試合が始まった。さっそく琴もそれに参加することに。
まず先に結愛先輩との試合が始まる。琴はいつも通り、始めのうちは様子を見ることに徹していた。
結愛先輩はどんな場所に打っても、どんなに際どいネット際に落としても、その低い身長をものともせず俊敏に動き、全てのシャトルを打ち返している。
気づけば10対0にまでなっていた。
だが、こんなことは琴からしたらいつもの事だった。
ここまで点差が開けば、だいたいの相手は「大したことない」と油断する。そしてそんな相手の鼻を折って行くのが、琴のいつもの試合スタイルなのだ。
ほんと性格悪いよね。
結愛先輩は、油断しているようには感じられない。むしろより一層、警戒を強めているようにも思える。
琴のことを知っているだけはあるようだ。これは琴も苦戦しそうだなぁ。
しかし、私の予想に反しそこからはいつもの流れだった。
結果は21対10。
「悔しいー!完全に攻略されてるじゃんかぁ!」
その後、結愛先輩は一本も取ることが出来なかった。
「次は勝つからっ」
「望むところです!」
結愛先輩が琴に人差し指を突きつけると、琴は喜んで迎え撃った。
次の相手は、鳴海先輩だ。
部長相手でも、変わらず同じ手法を取る琴。メンタルお化けってこういうことを言うのかな?
しかし、鳴海先輩も負けじとその長い手足で無駄のない動きをし、琴に噛み付いていく。中々点差は開かず結果は21対19だったが、さすがの琴も真剣な顔を向けていた。
いつもの負けず嫌いな顔だ。意地でも勝ってやる。そんな意気込みさえ感じた。
「やっぱり戦ってみて分かったよ。清水さんの強さがどんなものなのか」
今度は五十嵐先輩。と思ったのだが、五十嵐先輩は
「わたしは結愛とやりたいかな」
そう言って、五十嵐先輩は琴と戦うのを避けた。
こんな身近であんな凄い試合を見せてもらえるなんて、思いもしなかった。
「ストレッチするよー」
本日の練習は終わりを迎え、念入りにストレッチを始める。
「体験入部に来てくれたみんな、今日はありがとう。それじゃ気をつけて帰るんだよ」
「「お疲れ様でした!」」
鳴海先輩が一声かけると、私達は一斉に声を出した。他の体験入部生は帰って行ったけれど、私達は着替えなくては。
「それで、どうだった?」
着替えていると徐ろに鳴海先輩が切り出す。先輩達と一緒の部屋で着替えるのは、ちょっと萎縮しちゃうなぁ。
「とても楽しかったです!しかも凄い試合を見させていただけて……もう凄かったです!」
なんとも語彙力のない感想……。ほんといざって時に馬鹿なんだから。
「あはは。清水さんは確かに強かったねー。あれ勝てるかなぁ?」
「そんな事ないですよ!先輩も強くて、ちょっとミスなんてしたら私の方が負けそうでした」
「言ってくれるねー」
鳴海部長と琴の間で、バチバチと対立しているような雰囲気を感じる。どうしてだろう?ライバル心って言うやつかなぁ。
「部長としては勝ちたいところだよね。まぁ全国出場歴ある子に勝つのは至難の業だと思うけど」
結愛先輩がそんなことを言うと、部長はさらに闘争心を燃やした。
「見てなさい。いずれ勝つんだからっ」
「望むところです!」
喧嘩はしないで!私は独り、おろおろと戸惑うことしか出来なかった。
先輩達に別れを告げ、琴と校門へ向かっていた。すると、体育館の入口に二人の男子学生が、帰り支度をしているのが見えた。
一人は髪を明るい茶色に染めており、制服のジャケットの中に白のパーカーを着ていた。校則違反も甚だしく、かなり目立つ。
傍らにいるもう一人は、黒髪ではあるが黒のパーカーをこちらもジャケットの中に着ている。なんというか、茶髪の男子学生とは別の意味でチャラそうだ。
私はその茶髪の男子学生が、一瞬だけこちらを見たのを逃さなかった。
「ねぇ琴……あの人かっこよくない?」
琴に目線で訴えかける。
「えーそうかなぁ?」
琴もその男子学生を目で追う。
「瑞は、あぁいう顔好きそうだよね。なんというかサッカーしてそうな顔っていうか……」
琴は一目で誰のことを言っているのか分かったようだ。幼い頃から付き合っているだけのことはあって、私の好みまで把握してらっしゃる。
「い、いいじゃんかぁ」
「別に悪いとは言ってないよー?」
「んもう!」
不貞腐れる私を見て、琴は完全に私をからかっている。
私は家に着くまで、そうして不貞腐れながらも頭の片隅では彼の容姿が頭から離れられずにいた。
次の日の授業終わりに、琴と職員室に寄ってからまた体育館へと赴いた。
「今日も来てくれたんだね!」
「はい!入部届け出してきました!これからよろしくお願いします」
「わたしも出してきました」
「ほんとー!?よろしくね」
職員室に寄ったのは、入部届を出すためだった。とは言っても体験入部期間中はまだ仮入部の状態らしいので、正式にはバドミントン部に所属している訳では無いけれど。
琴は既に揺るぎない決意を持って部活に挑んでいた。今までずっと続けてきてたんだから、ここで入部しないという選択肢は無いのだろう。
正直私はまだ迷っている。琴はもちろんだが、先輩達だって決して弱くは無いと思う。そんな方々と渡り歩いていけるのか、自身を持てないのだ。
部室で着替えを済ませ体育館へと向かい、部活の準備をしていた。
「あれ、あの人……」
私達がいる反対側の方に、男バドの面々がいた。その中に見覚えのある顔がある。
「あの人男バドだったんだね。見た感じ先輩かなぁ?」
何を話しているのか、はっきりとはこちらに聞こえてこない。しかし凄く堂々としているし、他の部員と親しげに話しているから、琴の言う通り先輩なのだろう。
「お疲れ様でした!」
「おつかれー、また明日ね」
部活も終わり、帰り支度をしていると先に先輩方は帰ってしまった。今日は、部室の鍵閉めを任されることになったのだ。
「どう?バドミントンは」
廊下はすでに電気が消され、所々にある非常灯やどこからか漏れ出る明かりを頼りに職員室へ向かう。
「うーん、楽しいよ!早く私もシャトル打ちたい!」
それは本音だ。見ているだけでも楽しいけど、やはり打ちたくてうずうずしてくる。
「瑞ならきっと早いよ。明日には打てるかもね」
職員室に辿り着き、教わった通りにBOXへ鍵を入れる。廊下は既に暗かったけど、職員室も最低限しか灯っていない。先生も数人しかいなかった。
ところでバド部の顧問って誰だろう?
「明日、みんなの休憩中にちょっとだけやる?」
教室を出て、廊下を歩いていると琴が先程の続きを話し出した。
「え、いいの?」
「全然いいと思うよ」
「是非やりたい!」
明日が楽しみになった。久しぶりに琴と打ち合える。
「あ、あそこ」
ちょうど体育館の横を通りがかる時だった。琴に言われるままに見てみると、そこには例のイケメン先輩がいた。
帰るところのようでこちらと同じ方向に歩いてくる。隣にも、もう1人あの先輩がいた。この二人はとても仲がいいのだろうか。
私は、茶髪のイケメン先輩をただ見つめた。この顔を頭の中にインプットさせておきたい。いやむしろ写真を撮りたい……そして肌身離さず持ち歩いて……
なぜこんなにかっこいい顔をしているんだ?見れば見るほど、どんどん惹かれていく。
優しそうに笑う先輩のあの笑顔!素敵すぎて拝みたくなるのは当然ではないだろうか?
「はいはい、いくよ瑞」
「あ、うん」
琴は、穴が開くほど見つめている私を引き剥がすように腕を引っ張って行く。
もう外は薄暗くなっていた。私達は バドミントンについて楽しく語りながら帰って行く。
自転車に乗る私達を、先輩が見ているとも知らずに
読んでくださりありがとうございます!
イケメンくん登場?
誰なの彼は!?
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ではまた次回(*´︶`*)ノ




