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ガーネット

 寒い。


 本官はコクピットの中で、外部温度の数値を見て顔をしかめた。宇宙空間は、太陽光が当たっているかいないかで温度差が違う。極端だ。電力供給は太陽光発電で行うので、残電池量に応じて太陽光を浴びに行くが、そうすると温度計はまた地球では考えられない温度になる。否、今となっては少し現実味はあるかもしれない。


 進み続ける地球の環境汚染のせいで、温暖化は進み、夏の気温は尋常ではなくなった。電気代を払えない貧乏人たちは公共施設に押し寄せ、治安が悪化した。治安を悪くしているのは貧乏人だけではなく、彼らの加害を「予知」したお高い連中も、だ。


 誰もが地球の疲弊に加担していた。もちろん本官もである。


 本官は罪を犯した。治安の悪化に伴って、凶悪事件は増え続けており、留置所や刑務所は足りない。そうやって、凶悪な奴から、危険な仕事に送り込まれる。今すぐ刑を執行されるか、この中から死ぬかもしれない仕事に従事するか選べ、と言う訳だった。


 後から、一般公募もしていたと知って、本官は呆れかえった。本官のような人間と、善良なる無辜の市民を同じ宇宙ステーションに乗せるだなんて、世界という物は一体何を考えていたのだろう。きっともう、誰も彼もが正常な判断力を失っている。


 それはとても愉快だった。


 かくして、本官は宇宙空間にある新エネルギー、「スター・コウル」の採集任務にあたることとなる。


「赤色巨星にちなんで、皆の機体に赤い物の名前をつけたよ」


 宇宙ステーション・インフェルノで待機する指揮官は、本官らにそう説明した。いつ死んでもおかしくない、何なら死んでしまっても構わないと(特に、本官はそうだろう)思われている人間たちを、宇宙で赤く輝きながら終わりに向かって燃えさかる星の最期になぞらえるのだそうだ。宇宙空間で活動する機体は四つ。ハイビスカス、ロブスター、アップル、そして本官が搭乗するガーネット。


 機体によって微妙に癖がありそうな感じだったが、本官のガーネットは大人しいように感じた。尖っているのはロブスターで、けれどパイロットはよくやっている。皆、乗り手と機体の相性が良いようだった。


 皆そうだが、本官もまた、宇宙空間を慎重に進んだ。いつ、スペースデブリや惑星の小さな欠片が飛んでくるとも限らない。そもそも、人間が生きられない空間で、その人間を生かしている箱に穴が空いたらどうなるのか。それこそ、燃えさかる地獄の業火を見るよりも明らかだ。


 レーダーに反応があった。燃料ではない。デブリだ。しかもこちらに進んでくる。


「インフェルノ、こちらガーネット。デブリがレーダー圏内を移動中。進路を変更する」

『了解ガーネット。無事を祈る』

「ありがとう」


 指揮者インフェルノ。不思議な人間だ。本官のプロフィールを知っている筈なのに、刃物のあるキッチンで、本官と平気で二人きりになったりする。


 でも、これが本来の人間だった……ような気がする。


 ガーネットをデブリの予測軌道から遠ざけながら、本官は絶対零度に近い、冷え冷えとした空間に目を凝らした。

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