ロブスター
目のような星たちに見つめられている気分だった。
「クソッタレ」
『簡易トイレの使用方法はこちらをタップしてください』
「そうじゃねえよ」
俺はナビディスプレイに現れた簡易トイレマニュアルを閉じた。悪態をつくたびにこの有様なので、いつしか画面を見なくてもどこにバツボタンが現れているか覚えてしまった。
エネルギー枯渇の憂き目に遭っている母星のために、命の危険を顧みずに宇宙エネルギー採取に志願した回収員、と言えば聞こえが良いが、本音の部分は地上で起こる醜い争いから目を背けたかったから。俺はいつも、目先の不快から逃げたがる。その結果が、得体の知れない核融合反応の光に監視されながらの宇宙散歩だったというわけだ。
おまけに、俺に貸与された機体、ロブスターにはさっきの音声マニュアルがついていた。AIモードのオンオフができるのが救いだ。人間同士の争いを避けて来たのに、どうして人間みたいに振る舞う機械と過ごさないとならない? 俺はごめんだった。
あの星空の中で、スター・コウルなる新エネルギーを回収する。なんて自由なんだろう! そう思って、地球から逃げるために志願したが、いざ採用されて来てみれば、そもそも地球の生物が生きられない空間での活動には死ぬほど制約が多かった。そしてそれを破ると死ぬしかなかった。なんてことだ。
「クソッタレ」
『簡易トイレの使用方法はこちらをタップしてください』
「そうじゃねえって言ってんだろ」
俺は舌打ちしながらマニュアルを閉じる。
こうやって宇宙に飛び出してから、俺は地球の環境が恋しくて仕方なかった。普通に歩けば大地を踏みしめられる重力、汚くても生身で吸える空気、人の声が当たり前にある。
でも、社会の方は最悪だ。エネルギーが枯渇し、富の偏在が著しい世界は争いが頻発している。皆イライラしている。
だから、俺は絶対に、スター・コウルを山ほど地球に持ち帰ってあのクソッタレな世の中を是正しないといけない。世直しなんてたいそうなことを言うつもりはない。ただただ、昔の地球に、人類に戻って欲しかった。
『レーダーに、目的の反応を確認しました』
機械音声が喋った。レーダー画面を確認すると、確かにスター・コウルの反応がある。とはいえ、たまに白色矮星が引っかかることがあるので喜ぶのはまだ早い。
「オーケー。進路を変えろ」
『進路を変更します』
ロブスターはゆっくりと舳先の向きを変える。
早く、早く連れていってくれ。
奇跡みたいに燃える、地球の希望へ!




