インフェルノ
地獄から地上を臨むことはできないように、ここ宇宙ステーション・インフェルノからも地球を見ることは叶わない。
地球のエネルギーは枯渇寸前だった。化石燃料も取り尽くし、気候変動により原子力の安全性も疑問視され、環境問題は悪化の一途を辿り自然エネルギーも頼れない。
そんな中で発見されたのが、宇宙を漂う新燃料、スター・コウルだ。星とは違う機序で燃え、白色矮星とも異なるそれは、地球で扱うのに都合の良い夢のエネルギーだった。希少性を除けば。
地球から幾度も往復する余力はとてもなく、我々の母星は、志願者を募って宇宙ステーションに常駐し、燃料回収をする人員を集めた。それが我々だった。
我々は様々な業を背負って地球を離れた。送り出した地上の組織は、きっと我々が死ぬと思っているだろう。それでも地球のためにと、宇宙へ飛んだ私たちは、最後に存在感を見せながら燃えていく赤色巨星。
そんな自分たちの誇りと、少しの自虐を込めて、ステーション始め、作業に関わる機体にはみな赤いものの名前をつけている。ハイビスカス、ロブスター、ガーネット、アップルなど。
そしてステーションはインフェルノ、赤く燃え盛る業火にして、もしかしたらここで潰えるかも知れない我々の終着点。
でも、そんな簡単に終わるつもりもなかった。回収員たちも、自暴自棄になることなく着々と業務をこなしている。今日もこれから、地球へ回収した燃料を送る作業がある。
「地球、こちらインフェルノ。これよりポッドを射出する。どうぞ」
『インフェルノ、こちら地球。了解した。指定の座標で待機している。どうぞ』
「了解」
射出ボタンを押す。カメラには、射出口からポッドが勢いよく飛び出す様が映し出されていた。
「射出を完了した」
『了解』
決められたやり取りを交わして、通信を終了する。窓の外を見た。
美しい星という星。一部の例外はあるが、我々はこの眺めを見ていると、宇宙の広大さを思わずにいられない。
本当は、地球が滅びるなら滅びるで良いはずだ。とても口には出せないが、そう思っている。気づかないだけで、毎日なんらかの星が消えているのだから。
それが地球だって構わないはずだ。
宇宙規模で言えばそのはずだけど、人間規模から言えばそんなことは許容できない。我々は、許容できないからこそ宇宙に来ている。
『こちらハイビスカス。燃料反応を探知した。確認して回収する。どうぞ』
「こちらインフェルノ。了解した。異変等あれば報告を」
ハイビスカスのパイロットは極めて真面目な回収員だった。今日もこうして成果を上げている。でも、別に態度は俎上に上げない。我々は、皆同じ志でここにいるのだから。
「ハイビスカス、幸運を」
どうか無事で。