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 この世界はなんですの!?


 小娘の身体に乗り移って三日。小娘の記憶とわたくしの記憶を整合し、この世界を理解するために体調不良を装い、部屋に引きこもっていましたわ! ……正確に言うと、出られなかったの方が正しいのかしら?



 こんこん、とドアが優しくノックされた。


「由梨ちゃん? 入るね? 体調は大丈夫なの?」


 ドアの隙間から顔を覗かせたのは、“看護師さん”。


「おはようございます。もうすっかり大丈夫です」


 あの小娘、身体が弱くて“病院”からほとんど出たことがない、親には捨てられたと言っていたけれど……あれは、気を引くための戯言ではなかったのね。

 そして、病室に置かれた“テレビ”を見ると、摩訶不思議な世界の映像が流れ込んできた。あの小娘正しいことを言っていたのね。




 小娘の本当の名前は、小林(こばやし) 由梨(ゆり)。実の両親は、病弱な娘を病院に押し込んで放置。見舞いにきたことなんてなく、小娘の記憶を遡ってもはっきりとした顔を思い出せない。



 お父様にもお母様にも大切に愛されて生きたわたくしとは全く違う暮らし。



 少し話して健康状態を確認した看護師は、驚いた顔をして出ていった。由梨の身体に乗り移ったといえども、わたくし、体力には自信がありますの。病気なんてくそくらえですわ!




 こんこん。控えめにドアがノックされ、返事を待つ。ドアが開くまで返事を待つなんて、この世界に来て初めてね。医者も看護師もすぐに入ってくるもの。


「はい。どうぞ」


 わたくしが返事をすると、見覚えのない女性が現れました。


「姫様。ご心配をおかけして、申し訳ございませんでした。イリアは姫様の元に戻って参りました」


 向こうの世界の臣下の礼をとる彼女は、姿形が違っても、間違いなくわたくしのメイド、イリアでした。孤児院への慰問の帰り。道端に倒れている彼女を助け、教育を施し、わたくしの専属となったイリア。


「イリア……! 本当にイリアなの? こちらに来て」


 呼びかけるとそっと立ち上がり、わたくしの元に歩いてくるイリア。小娘に身体を乗っ取られたイリア。わたくしの大切なイリア。





「姫様……あの小娘に身体を乗っ取られたといえども、私の身体が姫様に迷惑をかけてしまい、大変申し訳ございませんでした」


「いいのよ。わたくし、そのおかげで小娘の身体を自由にできるのだもの。貴女、その身体はどうしたの?」


「創造神が、お嬢様の選ばなかった肉体をくださいました。一つの身体に二つの魂が入っている状態は大変不安定でしたので」


「そう。あの神も少しは役に立つことをするのね」






 そう話していると、慌てた様子で医者が飛び込んできました。


「由梨ちゃん。君、数日前に死にかけていたのに、驚異的に回復しているじゃないか! このままいけばしばらく様子を見て退院も可能だよ、」


 そこまで言って、イリアに目線を移します。


「こちらの方は……?」


「お初にお目にかかります。奥様よりお嬢様の世話役として派遣されました。田中(たなか) 衣李亜(いりあ)と申します」


 頭を下げるイリアに、医者は納得した様子で頷きました。


「そうか、君が。ご両親から連絡をいただいていたよ。よろしくお願いします。由梨ちゃんのご両親はお忙しいからね。近くに信頼できる大人がいると、由梨ちゃんも嬉しいね」


「はい。イリアは、昔からそばにいてくれたので」


「そっかそっか、よかった。一ヶ月くらい様子を見て、体調に変化がないなら、退院も可能だと思うから、田中さんと一緒に退院の準備も始めていいからね。すごいよ、由梨ちゃん。ぜひ、論文にまとめて発表させてくれ」


「はい。どうぞご自由になさってください」


 慌ただしく入ってきた医者は、慌ただしく出ていった。


「由梨ちゃん! よかったねー! じゃ、看護師さんも仕事に戻るから」


 イリアに頭を下げた看護師さん。


「姫様。この世界では、18歳で成人となるそうです。姫様のお誕生日まであと一ヶ月。成人を迎えられたら、ご自宅に戻られますか?」


「いえ、イリア。わたくしはわたくしのやりたいことをするわ。ついてきてくれる?」


「仰せのままに」






「ところで、これ。使えるかしら?」


 頭を下げたイリアに問いかける。あの小娘が暇を持て余して書き散らした小説に絵。



「……あの小娘にこんな才能があったとは。姫様、この世界ではSNSというものがあるそうで、このイリアめにお任せいただけますか?」


「えぇ、任せるわ」



 イリアが“病室の姫”というアカウント名で投稿した小娘の作品たちは、“バズった”。イリアの運用によって、わたくしたちの生活資金は無事に実家を頼らなくとも手に入るようになったのでした。




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