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 学園の卒業パーティー。美しく奏でられる音楽に着飾った生徒たち。そんな中、場違いな言葉が放たれた。



「君との婚約は破棄させてもらおう。エカチェリーヌ」


「まぁ。わたくしたちの関係は良好だと思っておりましたが、なぜですの?」


 名指しされたわたくしエカチェリーヌ・ラ・ロメルスは、小首を傾げます。手入れされた金髪は滑らかで、この日のために用意したドレスは婚約者の瞳の色に合わせた淡い水色ですわ。



 わたくしは、わたくしの婚約者の腕にみっともなくしがみつく小娘に視線を向けます。あの小娘さえ現れなければ、あそこはわたくしの場所のまま、変わりませんでしたのに。




「聖女ユリのことを害そうとしたではないか!」


「わたくしの婚約者に近づいたのですわ。当たり前のことでしょう? それに、聖女? 笑わせないで。卑しいメイドの身で。悪魔の間違いでしょう?」


 人の婚約者、しかも、王家血筋を引いた姫であるわたくしの婚約者。それを奪おうとしたのですもの。罰を与えるくらい、当然のことですわ。


 “異世界転移”とやらをして、少女に憑依したユリ。わたくしの専属メイドであった少女は、あの日消えたのです。



「悪魔だと!? 教会の認めた聖女ユリに失礼であろう!?」


「ならば、わたくしのメイドを返しなさい。生きている人間に乗り移っておいて、聖女? 笑わせないでちょうだい。教会は教義でもお変えになったのではなくて?」



 扇を広げ、口元に持っていき笑うわたくし。婚約者の目には、悪女のように見えているのでしょう。



「あの、あたし! 創造神様とお話ししてこの世界に来たんです! だから、悪魔というより神の使いの方が正しいと思います!」


 人の婚約者にしがみつきながらそう叫ぶ小娘。穢らわしい。そう思うと、婚約者にあった最後の情も綺麗に消え去ったわ。まぁ、わたくしの中古品で良ければ譲って差し上げてもよくて。お父様がわたくしを手放したくないからと整えたこの婚約。別に、この国の男にこだわらなくてもよろしくてよ。


「ならば、その創造神とやらに伝えなさい。わたくしのメイドを返せ、とね? まぁ、わたくしもこんな婚約者、いらなくなったわ。お父様の許可が取れるのなら、譲ってあげてもよろしくてよ?」


 そう言ってわたくしは会場を後にする。お父様に相談して、こちらが有利になるように先回りしないとならないもの。王家の整えた婚約に泥を塗ったのだもの。その責任を負ってもらわないとね? 異世界から来た聖女? とうの昔に魔王が滅んだこの世界でそんなもの必要ないわ。次期公爵とその夫人の座は諦めた方がよろしくてよ。よくて男爵くらいまで身分落ち、順当に行けば平民として他国に追放、お父様への態度次第で打首ではないかしら?


 今後のことを考えながら、階段を急ぎ足で降りていたわたくし。そう、あれは油断したから起こったのよ。まぁ、あの小娘たちの責任になるなら悔いは……あるに決まってるじゃない!!!




 わたくしは大階段から転げ落ちて死んだ。享年16歳。花の盛りよ。そうして、天界に招かれた。




「いやー。君には辛酸を舐めさせてすまなかったなー」


「本当にそうね。あの小娘とあの男にはきちんと苦しんでもらわないと困るわ」


「まぁ、君の元婚約者と聖女は、これから発生する魔王の討伐に行ってもらう予定だよ。今までの様子を見ていると、きちんと神聖力を蓄えたりしてなかったから……良くて相打ちだろうなぁ」


 神の言う言葉に、わたくしは目を剥いた。


「何を言っているの? 魔王を倒せない可能性があるの? わたくしの国の民たちに害がないようになさい? それと、わたくしの家族たちにも。あの二人は、相打ちが理想だわ!」


「うーん。仕方ない。国王に神託をおろしてみるよ……」


「なら、いいわ。お父様がうまくやってくださるもの。でも、わたくしの手で、あの小娘たちに復讐できなかったことがとても残念だわ」


「あ、ところで君。転生するなら何になりたい? 今余っているのは、この辺りかなー?」


 そう言って話を変えた神は、三つの球を持ってきた。



「君の世界に転移した聖女の体か、」


「あの小娘の体があるの!? わたくし、それにするわ!! あの小娘の体で好き勝手してやるわ!」


「一応、他の選択肢もあるんだけど……」


「ふふふ、わたくしの手であの小娘に復讐してやるわ!」


 にやりと笑ったわたくしは、小娘の元の体へと転生した。

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