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9 お出掛け①

「サラ、おはよう。今日はサラと一日一緒にいられて嬉しいよ。よろしくね」


 朝から全開の笑顔で挨拶してくるマティアス様に対して、その笑顔の眩しさに目をシパシパさせながら返事をする。


「うん、こちらこそよろしく。街中をぶらぶらと歩いてまわる感じで大丈夫?」

「ああ、それで構わない」


 そう、今日はマティアス様へのお礼として、彼から提案されたデ……、デートをする。

 デートなんて言葉を使われたから身構えるんだよね。友人として一日街中で遊ぶと思えばいいんだ。実際にマティアス様とは友人? なわけだし。よし、私はそう思おう。


 一人でうんうんと頷いていると、マティアス様から問いかけられる。


「私たちが今いる広場から見える大通りが、メインの通りになるのかな?」

「そうだね。この通りを歩けば大抵のものは揃っているし、素敵なお店ばかりだよ。貴族がよく利用するお店もお城の近くまで行けば並んでいるんだけど、私はこっちの通りの方が親しみもあって好きなんだよね」


 私たちが今立っている場所は噴水広場で、大通りにつながっている。貴族から平民まで幅広く利用できるお店がたくさんあって、活気に溢れている。貴族の中にはこういった場所は好まない方たちもいるので、そのような方たちはお城の近くに居並んでいるお店を利用している。


 今日一日過ごす場所は私が決めていいとマティアス様が言ってくれていたので、こちらにした。


 それにしても……と、マティアス様の姿を見る。


 彼に、かしこまった場所には行かないから、くだけた服装で大丈夫だよとは言っておいたけど、どんな服を着ても、マティアス様はマティアス様なんだなと思った。


 生成りのアイボリーのシンプルなシャツに袖は少しまくり上げ、腰には濃茶のベルトを巻き付けている。ズボンはこれまたシンプルなベージュの長ズボンで、編み上げの濃茶のブーツを履いていた。


 シンプルにまとめられているのに、とてもお洒落に見えるのはなぜ。元がいい人は羨ましい……。まわりの女性もチラチラと彼のこと見てるし。


 私はと言えば、ミルクティ色の少し癖のある髪を片側だけ編み込んでピンでとめ、若草色のシンプルなワンピースを着用している。靴は歩きやすいように茶色のブーツを履いている。


 うん、平凡。顔が平凡だと凝った服は浮いてしまうし、これくらいがちょうど良い。


 その時、少し離れたところで談笑していた女性二人組の会話が聞こえてきた。


「ねぇ、あの二人って恋人同士なのかな? それにしては釣り合ってないと思わない?」

「ほんと~。男の人はとっても綺麗な顔立ちなのに、女の方はどこにでもいそうな顔っていうか……平凡だよね。ふふ、一緒にいて恥ずかしくないのかな」


 あのー、クスクスと笑いながら話していますけど、それって私たちのことですよね。


 まあ、私も釣り合ってるとは思っていないので悪く言われても何も感じないけど、と考えていたら、マティアス様が後ろから肩をさりげなく押してきて、そのままその場を離れる。


 マティアス様はこちらに笑顔を向けて、話しかけてきた。


「待ち合わせの時間がお昼前だったし、まずはどこかでご飯でも食べようか」


 今、さり気なく女性の二人組から離してくれた? きっとマティアス様にもあの会話は聞こえてただろうし、そうなんだろうな。


 マティアス様の話に乗っかって、肯定を返す。


「そうだね! 歩きながら決めよっか」


 広場を離れて大通りを二人で歩いていると、いい匂いが漂ってきた。

 匂いの方向に顔を向けると、ふわふわの白いパンに新鮮な野菜やお肉が挟んである食べ物が売られていた。いい匂いの正体は、パンに挟むお肉を焼いているものだった。肉厚に切ってあるお肉は表面がいい焼き色加減で、少し膨らんでいる肉からは肉汁がしっかりと閉じ込められていることがわかる。


 私がそちらに美味しそうな視線を送っていることに、マティアス様が気付く。


「あれ美味しそうだね。サラさえ良ければ、お昼ご飯はあそこのお店のものを食べようか」

「え、いいの?」


 マティアス様の方を見て確認する。

 

 もちろん、と彼が返事をすると「サラはここのベンチで待ってて」と誘導された後、あっという間に買いに向かっていってしまった。


 少しして戻ってきた彼の手には、先ほどの食べ物が二人分と、レモンウォーターが二つ収まっていた。私が待っていたベンチに二人並んで座り、そのままここで食べることになった。


「マティアス様ありがとう。お代はいくらだった?」

「私も食べたくて買ったものだし、気にしなくていいよ」


 さ、熱いうちに食べよう、と食べ始めてしまったので、お代は渡せなかった。


 私も食べ始めようとして、はたと思いついた。


「そういえば、マティアス様はこういう手づかみで食べるものとか、その……大丈夫?」


 よくよく考えれば、彼は侯爵家の人間で、このような食べ物には縁がないのではないか。

 私は前世で一般庶民だったから、大きな口を開けてハンバーガーとか食べていたし、食べ歩きもよくしていたから抵抗が全くない。でも、この世界の貴族って、そういう経験は普通ないよね。私が食べたそうにしていたから、無理に合わせてくれたのかな。やってしまった……。


 私の心配を一蹴するように、彼はあっけらかんと否定した。


「大丈夫だよ?私の父が近衛魔法騎士隊長だって話はしたよね。父は少し変わっていてね。『男たるもの強くあらねばならん!』って、小さい頃から山の中へ連れていかれて野営の経験をしているんだ。食料ももちろん自分で捕まえて捌いて。それが私には楽しい経験で、貴族の世界で暮らすより合っているんじゃないかと思えるほどなんだ」


 笑いながら話す彼に嘘を言っている様子は感じられず、本心なのだと伝わってくる。

 無理に合わせてくれているわけではないとわかってホッとした。


「マティアス様のお父様って面白い方だね」

「そうだね。おかげで貴族意識というものを強く持たずに視野を広げる機会を多く持つことができたと思う」


 サラの方こそ、と彼は続ける。


「こういった食べ物に抵抗がないんだね」

「全くないなあ。どんな料理でもフォークとナイフを使ってお上品に食べるより、その料理に合った食べ方で食べる方が一番美味しく感じると思わない?」


 そうマティアス様に問いかけると、彼も「その通りだと思う」と笑って同意してくれた。


 パンとレモンウォーターを美味しくいただいた後も、露店で売られていたポテトやクレープのようなものを買って食べ歩き、思いの外楽しく過ごすことができた。

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