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7 犯人は?

 翌日、被害を受けたカーラ・ホラーク男爵令嬢が学園に来たので、昼休みに食堂で話を聞くことになった。どこか教室を借りて関係者だけで話し合いができればと思っていたが、ジャクリーンさんの希望でこちらとなる。


 人目が多い場所で被害者に証言をさせて、堂々とエリアーヌを糾弾したいんだろうな。そうはさせないんだから!


 ふん! と鼻息荒く戦闘態勢に入ると、被害女性であるカーラさんが、当日のことについて眼鏡に手をあてながら言いにくそうに話し始める。


「当日は、その……エリアーヌさんの噂が学園内で聞こえてきていたので、そのことについて授業を終えてから友人と教室で話をしていたんです。そのまま友人とは教室で別れたんですけど、一人で階段を降りている途中にドンッと背中を勢いよく押されて……。気付いたら階段の下に倒れていました」


 話し合いに立ち会っていたアルフレッド様が、ひとつ頷いてから穏やかな表情で質問をする。


「それはびっくりしたであろう。軽傷だったとのことで、大事なくて良かった。さて、君を押した人の姿は見えたのかな?」

「え……っと、あの、後ろ姿で顔は見えなかったんですけど、この学園の女生徒の制服を着ていてました」


 ジャクリーンさんは薄く笑いながら、続いて質問を投げかける。


「わたくしからもひとつ質問を。何か身体的な特徴はおわかりかしら?例えば……髪色とか」

「はい。髪色は……、その……銀髪、でした」


 カーラさんは気まずい様子で、斜め下に顔を向けて視線を彷徨わせながら答えた。


 銀髪という言葉を聞いた瞬間、まわりで静かに事の成り行きを見守っていた生徒たちから小さいざわめきが立った。


「エリアーヌさんの噂話について話していた直後に銀髪の女生徒から階段に突き落とされたことを考えますと、たまたま噂話をしていたところに居合わせたエリアーヌさんが気分を害し、衝動的にカーラさんを突き落としてしまわれた、と考えるのが自然なのではないでしょうか」


 ジャクリーンさんは目を細めて微笑みをこぼしながら、得意げに話してみせる。


 エリアーヌは自分ではないとわかっていても、顔を真っ青にして何も言えずに唇をキュッと引き結んでいる。


 どうしよう、ジャクリーンの言い分も辻褄は合うから、まわりもまたエリアーヌを疑い始めてる人が出てきてるよ……!


 私がジャクリーンさんに反論しようと声をあげると、その声に被せるように、一人の生徒が声を発する。


「あ……「あの……!」


 ナタリーさんだ。


 いつもはジャクリーンさんの一歩後ろに付いているが、足を一歩前に踏み出し、薄茶色の瞳に決意の意思を込めながら顔を上げ、しっかりと前を見据えて話し始める。


「私が……カーラさんを階段から突き落としてしまいました」



 ざわ……っ!!



 ナタリーさんの突然の告白に、その場にいる生徒たちが一同驚愕している。


 突然のことに誰も言葉を発せずにいると、ジャクリーンさんが真っ青な顔で慌てて声をあげている。


「な、何をおっしゃっているの! カーラさんの証言から、エリアーヌさんが突き落としたに違いありませんわ!」

「ジャクリーン様……もうやめましょう」

「……あなた、ご自分が何をしようとしているか、わかっていらっしゃるのかしら」


 ジャクリーンさんはすっと目を細めて、ナタリーさんを見つめる。

 ナタリーさんは反射的に体をビクッとさせて反応したが、彼女の言葉に返事はせず、カーラさんの方を向いて深く頭を下げて謝罪する。


「今ほどお話しました通り、私がカーラさんを突き落としました。……カーラさん、大変なことをしてしまい、本当に申し訳ございませんでした」


 そして顔を上げると、両手を胸の前で握りしめながら話し始めた。


「一連のことは、私と……ジャクリーン様で実行いたしました」



 ……ざわっ!!!!!!



 ナタリーさんが告白すると、まわりが大きくざわめき、視線がジャクリーンさんへと向けられる。

 ジャクリーンさんは顔を青くしながらも、ナタリーさんのことをじっと睨みつけている。


 ナタリーさんが語った内容はこうだ。





******





「ねぇナタリーさん。あなた、エリアーヌさんの振りをして誰でもいいから怪我をさせてくださらない?」


 ナタリーは一瞬何を言われたのかわからなかった。だが、言われた内容を理解した途端、サッと顔が青くなる。


「な、なぜそのようなことを……?」


 震える声でそれだけ聞くと、ジャクリーン様は意地の悪い笑みで口元を歪ませた。


「だって、エリアーヌさんだけ番に選ばれてわたくしが選ばれないなんてひどい話でしょう?自分一人だけ幸せそうな顔をして、本当に気に入らない。彼女には今悪い噂が流れていますし……まぁ、それもわたくしが流したものですけれど。その噂を話している女生徒の方を見つけたら、階段からでも突き落としたら良いと思いましたの。そのことを番の方が噂で知れば、さすがに愛情も冷めるのではないかしら」


 ね、いい考えでしょう? と両手を合わせてにっこり微笑むジャクリーン様の姿に、恐ろしさを感じた。


「で……ですが、私とエリアーヌさんでは見た目が違いますし、すぐに気付かれてしまうのではないでしょうか」

「だーいじょうぶ。階段から突き落としたらすぐに背を向けて走り去ればいいのよ」


 それに……と、彼女は鞄から徐にあるものを取り出して見せる。


「あなたには最初からこちらを被ってもらいますから」


 銀髪のウィッグだった。


「ね? これでエリアーヌさんだとしか思われないでしょう?だって、銀髪はこの学園に彼女だけですもの。あ、階段から突き落とす時はまわりに誰もいないかしっかり確認してからにしてちょうだいね?」


 もう逃げられない。彼女の中で実行することは決まっているのだ。


(私に反論する、逃げ出す力があれば良かったのに。伯爵家の私から見て、侯爵家のジャクリーン様の堂々とした立ち振る舞いは憧れだった。仲間として迎え入れてくださったと思っていたけど、所詮はいい小間使い程度。そんなことは十分にわかっているのに、今更彼女から離れたらどうなるのか考えると、怖くていつも後ろに付いていて……。サラさんとエリアーヌさんの関係はとても羨ましい。私もああなりたかったな)


 当日、教室で噂話をしていたカーラさんを見つけ、そのまま後を付けて階段を下りるタイミングで背中を勢いよく押した。そして、彼女が上を仰ぎ見ようとした瞬間に、後ろを向いて銀髪を見せ、そのまま走り去った。

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