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4 噂

 翌朝、学園の門前で馬車から降りて歩いていると、後ろから耳に心地良い澄んだ声の主が話しかけてくる。


「サラ、おはよう」


 振り返ると、マティアス様が笑顔で近づいてきている。


「マティアス様。おはようございます」

「昨日はありがとう。サラのことを少しでも知ることができて良かったよ。改めて、また今度お茶でもしよう」

「こちらこそありがとうございました。そうですね。また是非四人でしたいですね」


 私はサラと二人きりでも良いんだけどな……とマティアス様がボソッと呟いているが、聞こえないふりをしよう。


 せっかくだからこのまま教室まで一緒に、ということになり並んで歩く。


 あぁ、周りの視線が痛い。マティアス様は気にならないのかしら。隣に並んでいるのがこんな地味な女でごめんなさい。


 マティアス様とアルフレッド様は私たちと同じ十六歳だが、教室は別となっている。

 それじゃあここで、とマティアス様とは別れて教室に入ると、エリアーヌがいたので話しかける。


「おはよう、エリアーヌ。昨日はありがとうね」

「おはよう、サラ。こちらこそありがとう。それより、マティアス様と教室まで一緒に来ていたじゃない! 少しは気持ちが変わったのかしら」


 エリアーヌが、期待するような目で体を乗り出して聞いてくる。


「ないない。門前で偶然お会いして、その流れで教室までご一緒しただけよ」


 なーんだ、つまらないわと唇を尖らせているけど、彼との進展は期待しないでほしい。本当に。


 そのままエリアーヌと授業が始まるまで話していると、カツカツと靴音を響かせながら二人の女生徒が近づいてくる。


「ごきげんよう、エリアーヌさん、サラさん。聞きましたわ。お二人ともあの留学生の方々の番に選ばれたそうですけれど、本当なのかしら?」


 来るとは思ってたけど、やっぱり来たか。

 

 ジャクリーン・オードラン侯爵令嬢。昔からエリアーヌに何かと突っかかってくるんだよね。巻かれている金髪をくるくるいじりながら上から目線で話す態度も苦手だし。エリアーヌは優しいから波風を立てるようなことはしないけど、いつもこっちがイライラしちゃう。


 もう一人のナタリー伯爵令嬢は、いつも彼女の後ろについてきているけど、特に何もしてこないし。彼女といて疲れないのかな。


「ごきげんよう、ジャクリーンさん。ええ、今でも信じられないのだけれど、私はアルフレッド様の、サラはマティアス様の番に選んでいただけたの」


 エリアーヌがそっと微笑みながら返事をすると、ジャクリーンさんは少し吊り上がり気味のルビー色の瞳を鋭く細め、少し悔しそうな顔を滲ませる。


「そう。それは良かったわね。おめでとう」


 それだけ言うと、すぐに踵を返して私たちのところから立ち去っていった。ナタリーさんも慌てて追いかけている。


「いつもなら嫌みのひとつは言ってきそうなのに。どうしたのかしら」

「もうサラったら。素直に祝福してくれたんじゃない?」


 いーや、それはない。けど、突っかかってこないなら、まぁいいか。









 週明け、普段通り教室に入ると、一瞬シン……ッと教室内が静かになった気がした。


 気のせいかな。なんだかみんなの私を見る目が少し険しいような……。そういえば教室に来る前から周りにジロジロ見られていたけど、番に選ばれたことが関係してると思って気にしてなかった。もしかして違う理由?


 戸惑いながら席に着くと、エリアーヌが困惑している表情で近づいてきた。


「ねぇサラ。勘違いかもしれないのだけど、皆さんが私に向ける視線の感じが先週とは少し違うような気がするの」

「エリアーヌも?実は私もそう感じたんだよね。でも何も心当たりがないし……」


 二人で話していると、ジャクリーンさんが近づいてきて、大層傷ついたような雰囲気を出して話しかけてくる。


「ごきげんよう、エリアーヌさん、サラさん。聞きましたわよ。お二人ともひどいわ。ご自分たちが番に選ばれたからって、番に選ばれなかった私たちを馬鹿にしているそうではありませんか。皆さん傷ついていらっしゃるわ」

「え! 私たちがですか!? そのようなことは決してございません! 何かの勘違いではありませんか」


 エリアーヌが突然の話に目を丸くして驚き、慌てて反論する。


「ですが、もうこの噂は学園全体に広まっていますのよ。せっかく皆さんでお二人のことを温かく見守っていこうと思っていましたのに。残念ですわ」


 視線を斜め下に落として悲しげに目元を伏せたジャクリーンの口元が、ほんの少しだけ緩んだ気がした。


「お二人に悪い噂が立ちますと、番の方々にも悪い影響が出るのですから。ご自分たちの立場をもう少し弁えた方がよろしいのではなくて?」


 そう言い捨てて、私たちのもとを去っていった。

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