20 久しぶりの再会
まもなくして、アルフレッド様とマティアス様が後半の留学として再び学園にやってくる日を迎えた。
朝、学園前の門で馬車から降りると、なんだか落ち着かない気持ちになってきた。
今日からマティアス様が来るんだよね。うう、久しぶりだから緊張するなあ。
自身の気持ちを自覚しているからか、余計に緊張しているように感じる。星祭りまでに気持ちを伝える覚悟を持つことはできるのか、非常に不安だ。
心を落ち着かせるように胸に手を当てながら深呼吸して歩いていると、たった今考えていた相手が目の前に見えた。
「え」
思わず声が出ると、その声を聞いた相手、マティアス様がこちらに顔を向けてきた。彼は私の姿を認めると、こちらが目を瞑ってしまいそうになるくらい輝いた笑顔を浮かべた。
「サラ、久しぶりだね」
「う、うん。久しぶりだね」
心の準備ができていなかったこともあり、オウム返しのような返事をしてしまった。
そんな私の心の中を知る由もないマティアス様は、さらに私を落ち着かなくさせる。
「今日からまたサラと一緒に学園生活を過ごせると思って楽しみにしていたんだ。まさか朝から会えるとは思っていなかったから、嬉しい驚きだったな」
マティアス様は、曇りのない笑顔で嬉しそうに笑っている。
あなたがストレートに気持ちを伝えてくるから、こっちはドキドキですよ。
「うん、ありがとう……」
ああ! どうして気の利いた言葉ひとつも返せないのよ自分!!
自分の不甲斐なさに打ちひしがれていると、マティアス様が少し険しい表情で私の後ろに視線を向けている。なんだろうと後ろを振り返ると、モーリス様が無表情でこちらを見ていた。
「モーリス様。おはようございます」
私が挨拶をすると、彼は口元に笑みをつくって「おはようございます」と挨拶を返してから建物の中へ入っていった。
「知り合い?」
モーリス様が去っていった方へ顔を向けながら、マティアス様が聞いてきた。
「そうだよ。最近話をするようになったの」
「……そう」
「サラ、おはよう」
「おはようエリアーヌ」
あの後、マティアス様と別れて教室に入ると、エリアーヌがすでに来ていた。
「朝からマティアス様とお会いできて良かったわね」
「み、見てたの?」
「ふふ、お邪魔しては悪いと思って。静かに横を通り過ぎたの」
エリアーヌが横を通り過ぎていたなんて。まったく気付かなかったよ。
「またしばらくは、アルフレッド様とマティアス様にお会いできる日が続くから嬉しいわね」
そうエリアーヌが言うと、両手をぽんっと合わせて「そうそう」と言葉を続ける。
「実は、我が家でアルフレッド様と昨日お会いしたの」
「え、そうなの?」
「ええ、昨日のお昼前にはこちらの国に到着するように予定を調整してくださって」
アルフレッド様も、エリアーヌに早く会いたかったんだろう。
「それでね、アルフレッド様に星祭りのこともお伝えしておいたわ」
「お伝えしておいた? お伝えしておいたって、わ、私のその……えっと」
私が星祭りの時にマティアス様へ気持ちを伝えることについてアルフレッド様に知られたのかと思い、一気に焦る。
エリアーヌは、私の顔が赤くなったり青くなったりする様子を見て、慌てて詳細を話し出す。
「大丈夫よ! サラのことは一切伝えていないから! 星祭りって、留学に来てからすぐに催されるでしょう? 彼らはご存知ないと思ったから、星祭りの内容だったり、ジンクスだったりを先にお伝えしておいただけよ」
彼女の説明を聞いて、ほっと肩の力が抜ける。
よく考えれば、エリアーヌが勝手に私の気持ちを他の人に伝えるはずなんてないのに。
「確かに明後日だもんね、星祭り。留学生からしたら急な話だよね」
「簡単な説明は学園の方から事前にあったそうなんだけど、ジンクスの話まではご存知なかったみたい。マティアス様にも伝えておいてくださるそうよ」
エリアーヌがそう教えてくれると、気遣わしげな瞳を向けてきた。
「久しぶりにお会いできたかと思ったらすぐに星祭りがあるけれど……サラ、大丈夫?」
正直、まったく大丈夫ではない。さっきだってマティアス様を見ただけで緊張して言葉が出てこなかったのに、明後日にはしっかりと気持ちを伝えられている想像ができない。
「……この二日間で色々と固められるように、頑張る」
彼らの留学期間中、昼食は四人で食べようという約束をしていた。
私は先生に課題の提出をしてから食堂へ向かう旨をエリアーヌに伝え、今ほど先生に提出し終えたので食堂へ急ぐ。みんな昼食を食べずに待ってくれている気がするから。
食堂の入口が見えてきたところで「サラさん」と呼び止められる。
呼び止める声が聞こえた方に顔を向けると、モーリス様が柱の陰に立っていた。
「モーリス様。どうされたのですか?」
「サラさん。彼には気を付けた方がいい。運命の糸を断ち切ろうとしています。僕たちは簡単には揺るがない糸でつながっていますが、厄介な存在には変わりありません」
彼は深緑の瞳でじっとこちらを見つめながら、やや早い口調で静かに告げてきた。が、話の内容がよくわからない。
「申し訳ありません。どういった意味なのでしょうか」
私が尋ねると、彼は柱の陰から体を出してさらに伝えようと口を開ける。
「サラ!!」
モーリス様が次の言葉を発する前に、マティアス様が食堂からこちらに駆け付けてきた。
「マティアス様? ごめんなさい、遅かったかな」
「いや、それは問題ないのだが……」
マティアス様は、モーリス様と私の間に立ち、そのままモーリス様に話しかける。
「サラに何か用だったのかな?」
モーリス様はフッと笑うと、問いかけに応じる。
「運命とは厄介な存在がつきものですからね。警告していたんです」
「話の中身が見えないが」
マティアス様の返答には反応せず、彼は静かな笑みを浮かべながら私たちに背を向けて去っていった。
しばらく彼の背中を見つめていたマティアス様は、私の方へ顔を向ける。
「急に間に入ってしまってすまなかった。食堂からサラの姿が見えて、迎えに来たんだ」
「ううん、わざわざ迎えに来てくれてありあとう」
「彼と何の話をしていたのか、聞いてもいいかな?」
「うーん、運命がどうのこうの言っていたような気がするんだけど、私にもよくわからなくて」
最後まで話を聞けなかったから、悪いことしちゃったかな? と考えていたため、マティアス様がどのような表情をしていたか見ることはなかった。




