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18 ハンカチ

 前世で住んでいた日本でいうところの、冬がやってこようとしている。もうすぐマティアス様たちが後半の留学として、この学園にやってくる。


 お昼の時間、エリアーヌと食堂で食後の紅茶を飲みながら、もうすぐやってくる二人の話をする。


 エリアーヌはアルフレッド様に早く会いたいようで、外の景色を眺めながら焦がれるような目を浮かべてため息を吐いた。


「一日一日がこんなに長く感じるなんて……。早くアルフレッド様にお会いしたいわ」

「それだけアルフレッド様の存在がエリアーヌの中で大きいんだろうね。それに、もうすぐ会えるじゃない」


 あら、とエリアーヌはこちらに顔を向き直した。


「サラだって、マティアス様にお会いできるのだから嬉しいでしょう?」


 ぐっと口の中に含んでいた紅茶を吹き出さないようにこらえたが、慌てて飲みこんだからむせてしまった。


「げほっ、かはっ。そ、それは、確かに嬉しいけど……」


 恥ずかしくて、言葉が尻すぼみになってしまった。


 周りに他の生徒はいなかったが、エリアーヌは念のため声のトーンを下げて聞いてきた。


「マティアス様に気持ちをお伝えする決心はついたの?」


 そうなのだ。この留学期間にマティアス様へ気持ちを伝えるため、心の準備をしてきた。


「うん。留学期間の間に、学園で星祭りが催されるでしょう? その時に伝えられたらと思ってるんだけど……」


 この時期、夜空が澄んで星がきれいに見えることから始まった星祭り。制服での参加なのでドレスで着飾ることはないが、夜の学園のホールに生徒たちが集まり、ちょっとしたパーティーが開かれるのだ。パーティーを楽しみつつ、園庭へ出て星空を鑑賞する素敵な催しになっている。


 そして、この星祭りにはジンクスがある。星祭りに参加する生徒には、男女それぞれ金色と桃色を使用してデザインされた星のブローチが配られるのだが、想い人とブローチを交換すると、その二人は生涯幸せに結ばれるというものだ。


 星祭りでマティアス様に星のブローチを渡しつつ、一緒に想いも伝えられたら自然な流れでいいとは思うんだけど、緊張するなあ。その場面を想像するだけで心臓がバクバクしてくる。


 緊張した面持ちになっている私に、エリアーヌは安心する笑みを向けてくれる。


「緊張するわよね。でも、サラから気持ちを伝えられたら、マティアス様はとても嬉しいはずだわ。自分の気持ちにしっかりと向き合ったサラはとても素敵よ。応援してる」


「エリアーヌ……、ありがとう。頑張るね」









 その後しばらくお話をして、そろそろ教室に戻ろうかと立ち上がると、近くから「うわ! 気を付けろよ!」と、比較的大きい声が聞こえてきた。


 そちらに目を向けると、トレーに載せていたお茶がこぼれたのか、トレーを持っていた男子生徒の服が濡れていて、足元の床にもこぼれたお茶が飛び散っていた。声を上げた男子生徒はそのまま立ち去っていったが、おそらく彼がトレーを持っていた男子生徒とぶつかり、今の状態になったのだろう。


 周りからは「やだ汚い」「でもなんだかお似合いね」など、クスクスと笑いながら話している声が聞こえてきた。


 なんだか嫌な感じだなあ。


 私は制服が濡れてしまった男子生徒に近付いて、自分のハンカチを渡す。


「大丈夫ですか? 厨房の方に声を掛けてきますね。良ければこちらも、制服の濡れた箇所にお使いください」


 彼に声を掛けている間に、エリアーヌが厨房の方へ声を掛けて床の片付けをお願いする。


 男子生徒は、受け取ったハンカチを眺めたまま動かない。少しうねりのある濃いグレーの髪は肩につく長さでそのまま下ろしており、長めの前髪と猫背気味なことも相まって、彼の表情を隠している。


 ハンカチを汚すことになると思って遠慮してるのかな?


 男子生徒はハンカチを使うことに迷っていると思い、再度声を掛ける。


「ハンカチはそのまま差し上げますので。どうかお気になさらないでください」


 彼が気にしなくていいように笑顔で伝え、戻ってきたエリアーヌと一緒にその場を去る。


 私たちがいたのでは遠慮したままになってしまうだろうとすぐに離れたため、彼の表情には目をとめなかった。

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