17 自覚
その後、事態を聞きつけたシャルダン侯爵が、血相を変えてアルフレッド様の元へ参上していた。
アルフレッド様はこの一件を自分の父、つまり国王に報告。そこからの対応は早かった。
自国の侯爵家子息の番を危険な目に合わせたとして、シャルダン侯爵家の本国ルシュートクへ、レティシア様の厳正なる処罰を求める文書を送った。
後日に聞いた話だが、レティシア様は寒さの厳しい土地にある縁戚の別荘に生涯軟禁されることになったそうだ。
また、今回の事件に関わった衛兵は、一生涯を牢の中で過ごすことに。その他に仲間はいなかったと判断され、この一件は収拾がついた。
私はというと、レティシア様と衛兵が捕縛されたとはいえ落ち着かない状況だったため、滞在期間を短くし、エリアーヌと共にすぐ帰国することになった。
アルフレッド様とマティアス様は事件の後処理もあったため、城の前で見送るかたちとなった。
帰り道の馬車の中で、離れる間際にマティアス様から言われた言葉を思い返す。
『サラ、あの時は私のために怒ってくれてありがとう。とても嬉しかった。それに、サラが私のことをあんな風に思ってくれていることも知れて、胸が温かくなったよ。……また後半の留学でサラと会えることを楽しみにしている』
嬉しそうな笑顔でそう言われ、レティシア様に対して色々と言葉を並べ立てた自分を思い出して恥ずかしかったが、良かったとも思った。
改めて、レティシア様と対峙した場面を思い起こす。
あの時、自分の思っていることを言葉に出しながら、私はマティアス様の隣に立ちたいという自分の気持ちにも気付いて。
私、マティアス様のこと……。
そこまで頭の中で考えて、ぼっと顔が赤くなった。
え、本当に? 前世のこともあって、男なんてもうこりごりだって思ってたのに……。
一人で顔を赤くしてぐるぐると考えていたら、その様子にエリアーヌが気付いた。
「サラ、顔が赤いようだけど大丈夫? 眉間に少し皺も寄っているわ。具合でも悪いのかしら」
一回馬車を停めてもらいましょう、と言い出したので、慌てて止める。
「だ、大丈夫! 心配かけてごめんなさい。実は……」
エリアーヌに、レティシア様と対峙した時に自分がマティアス様の隣に立ちたいと思ったことについて伝えた。
私の話を聞いたエリアーヌは、頬を赤く上気させながら空色の瞳を輝かせ、私に対して前のめりの姿勢になった。
「それってつまり……!」
「うん、マティアス様のこと……好き、だと思う。……ううん、好き」
声に出して言うと、その言葉が心の中にすとんと落ちてくる。
私、マティアス様のことが好きなんだ。
はっきりと、そう感じることができた。
今まで前世の記憶に引きずられすぎていたんだな、と今ならわかる。前世の男とマティアス様はまったく違うのに。
「多分、少し前から惹かれ始めていたんだけど、無意識に蓋をしていたんだと思う。今回のレティシア様の件で、ようやく自覚できた。……今さらかなあ」
マティアス様は最初から好意を伝えてくれていたのに、私は受け入れられないって拒否して。友達として付き合っていたところに、今さらやっぱり好きですって都合が良すぎるかなと心配になった。
でも、そんな考えをエリアーヌは一蹴した。
「今さらなんてことはないわ。マティアス様は出会った当初から今まで、サラのことをずっと大事に想ってくださっているもの。その気持ちは、素直に受け入れていいのよ」
優しい眼差しで、私のマティアス様に対する気持ちを肯定してくれた。
「うん……。ありがとう、エリアーヌ」
私が感謝の言葉を伝えると、エリアーヌも嬉しそうに笑顔を返してくれた。
「では、すぐにマティアス様へ気持ちを伝えるの?」
そう言われて、ぎょっとした。
「え、無理無理! 無理だよ! 私の心の準備がまったくできてないもの!」
「あら。ふふ、可愛らしい」
「可愛くないよ~。どうしよう~」
私の反応に、エリアーヌは右手の平を口元にあてて楽しそうな表情を浮かべている。
「焦らなくても大丈夫じゃないかしら。少ししたら、後半の留学でアルフレッド様とマティアス様がまたこちらにいらっしゃるし。それまでに気持ちの整理や心の準備をしておけば大丈夫よ」
「……そうだよね。うん、そうする」
リベル国の留学は前半と後半に分けて行われるから、マティアス様たちはまたこちらの学園へ来ることになっている。
その時までに、自分の中の気持ちをまとめておこう。マティアス様にしっかりと伝えられるように。
すっきりとした目で馬車の窓から外の景色を眺めながら、そう思った。
これにて、リベル編は終わりとなります。ご覧くださり、ありがとうございました!
誤字や脱字の報告も大変助かっております。ありがとうございます。
次回より舞台はヴィオスティへと戻ります。そちらもご覧いただけますと幸いです。




