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14 連れ去り

「サラがいなくなったとはどういうことだ」


 アルフレッドは、サラがいなくなったと公務中に衛兵から報告を受け、普段の快活な笑みを消し、険しい表情で衛兵に詳細を求める。


「2時間ほど前、エリアーヌ様とレティシア様でお茶会をされた後からお姿を確認できておりません。回廊にて、サラ様と一緒にいたはずの侍女が頭から血を流して倒れていたところを、通りがかった者が発見しております。侍女の頭には鈍器のようなもので殴られた形跡があり、状況から考えますとサラ様は……何者かに連れ去られた可能性が高いかと」


 城の中でそのような事態が起こるとは予測していなかった。護衛も常につけておくべきだったかと後悔しても、事は起きてしまっている。


「エリアーヌとレティシアから話は聞けているか?」

「お二方様より話を伺っておりますが、サラ様とお会いしたのは、やはりお茶会が最後だったとのことです」


 サラはリベルに知り合いなどいないから、お茶会後に他の者と会っていることもないだろう。やはり、お茶会からの帰り道で連れ去られたとみて間違いない。


 その時、扉からノック音が鳴る。


「誰だ」

「エリアーヌ様がアルフレッド王子殿下にお目通りしたいとのことで、お連れして参りました」


 通されたエリアーヌは、恐縮そうに部屋へ入ると一度頭を下げる。


「勝手に来てしまい申し訳ございません。サラがいなくなったと聞いて、何ができるわけでもないことは重々承知しておりますが、居ても立っても居られなくなってしまい……」


 切れ長の目は心配そうに下がり、空色の瞳は不安そうに揺れている。


「いや、大丈夫だ。大事な友を案じるのは当然のこと。エリアーヌも不安でいっぱいだろう」


 アルフレッドは、エリアーヌが安心できるよう、笑みを向ける。


「はい……。サラの身に何が起こったのでしょうか」

「サラに付き添っていた侍女が、回廊にて頭から血を流している状態で見つかった。状況から考えて、サラはお茶会を終えた帰り道、何者かに連れ去られた可能性が高い」

「そんな……っ!」


 エリアーヌは両手で口を覆い、絶句した。


 アルフレッドは、顔を衛兵の方へ向けて確認をとる。


「マティアスは今どこにいる?」

「本日はヴァレット侯爵閣下率いる近衛魔法騎士隊と共に、隣の領地で訓練をされております」

「なるほど。では、すぐにマティアスへ事の次第を伝えに向かってくれ」

「承知いたしました」


 衛兵は礼をした後、踵を返して走り去っていった。


「お隣の領地からこちらまで、どのくらい時間を要しますでしょうか」

「数分もあれば十分だろうな」


 数分……?と、エリアーヌが目を丸くして驚いたように反応したので、アルフレッドは安心させるように見つめ返す。


「ここはリベル。魔法が使える国だ」


 それに、と続ける。


「マティアスは国の中でも屈指の魔法の使い手。あいつなら、一瞬でサラも見つけ出せる」





******





――――――身体が痛い。冷たい。それに、なんだか埃くさい。


 私はハッと目を開けると、壊れた家具や掃除用具などが乱雑に置かれている光景が目に入ってきた。長年そのままにされているのであろう。埃も積もっている。窓は、天窓がひとつあるのみ。どこかの小屋だろうか。


 そして、自分の状況はと言えば、両手を縄で後ろ手に結んだ上でベッドの足につながれており、口には大きな布が覆われている。両足は自由だが、縄の可動域が最小限になっているため何もできそうにない。


 ……思い出した。お茶会から帰る途中、後ろからガツッと大きな音がして振り返ると、侍女がゆっくりと前へ倒れ込む姿が見えて。驚いているうちに後ろからハンカチみたいなもので口をふさがれて、そこからの記憶がない。


 連れ去られた? でもなんで? 心当たりがまったくない。


 両手が縛られている縄を試しに動かしてみたが、ビクともしない。自力で逃げ出すことも難しそうだ。


 その時、この小屋にある唯一の扉が開いて、一人の人物が入ってきた。


「なんだ、起きていたか」


 衛兵の恰好をした男だった。こげ茶の短髪に同色の瞳。中肉中背と、どこにでもいるような普通の青年に見える。


 この人が私を連れ去った犯人なの?


 私が心の中でそう考えていることを目線で感じ取ったのか、男は見下ろしながら、フッと冷たく笑う。


「あなたが私を誘拐したの? とでも言いたそうな目だな。ああそうだよ、その通り。俺がお前をあの回廊から連れ去った」


 そう言うと、一歩私に近付く。


「お前にはなんの恨みもないが、あのお方の望みを叶えるためだ。暴れなければすぐに済まそう」


 あのお方……? 暴れなければすぐに済まそう? 何を?


「この国の騎士団は優秀だ。見つけ出されるまでそう時間はかからないだろう。それまでに事を済まして、お前を放り出せば良い」


 男は私に少しずつ近付きながら、自分の腰に巻いていたベルトを取り去り、ズボンの前部分を緩め始めた。


 その行動を見て、血の気が引いた。


 待って待って待って! 済ますってそういうこと!?


「んー!! んんーーーー!!」


 両手を体ごと必死に揺らして縄をほどけないか試みるが、ビクともしない。背中にはベッドがぶつかっていて、これ以上後ろにも下がれそうにない。


 顔を上げて男の方を確認すると、もう目の前にやってきていた。


「諦めな。暴れれば、痛い思いが長くなるだけだ」


 男は私に覆いかぶさるように体を落とし、彼の右手がスカートの裾から中に忍び込んできた。


「んんーーーー!!」


 自由になる両足をバタバタと動かして抵抗するが、衛兵らしい屈強な体の前には意味を成さない。


 スカートの中に入っている男の手は迷いなく奥へと進み、遂に下着へと手をかけた。


 もう駄目だ……。


 ぎゅっと目を瞑り涙が一筋流れた、その瞬間。



 ドオォォォン!!!!



 大きな音とともに天窓が二人の少し離れた場所に落ちた。



 そこから……





――――マティアス様が降り立った。

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