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11 リベルへ到着

「まあ、緑が多くて空気が気持ち良いわ。首都の街中でも緑が多いって素敵ね」


 エリアーヌが馬車の窓から顔を覗かせて、興味深そうに流れていく景色を眺めている。


 私たちは今、ヴィオスティを離れて隣国リベルに来ている。


 アルフレッド様とマティアス様は、一年の中で二回に分けて行われる留学のうち、前半の留学期間を終えてリベルへ帰国した。


 その際、アルフレッド様から「是非一度、我が国へ遊びに来てほしい」とお誘いを受け、お互いの学園が長期休みに入ったタイミングで、こうして訪れることになった。


 アルフレッド様が手配してくれた馬車に乗り、途中で宿泊も挟みながら進むこと二日。リベルの首都、リーフィラスへ到着した。


 リーフィラスは、森と街が融合したような素敵な雰囲気を感じられる。樹木が多く並び立っており、木々の間からこぼれ落ちている太陽の光が、周囲に優しい光の雨となって降り注いでいる。

 馬車を通る先々で見える住民の顔は皆笑顔で、幸せな空気が溢れている。


 一見すると魔法を使っている様子は見えないけど、みんな使えるのかな? 他国から来ている人もいるから全員ではないと思うけど、ここに滞在している間、見る機会があったらいいなあ。


 そんなワクワクした気持ちも抱きながら馬車に揺られていると、しばらくして城へ到着したようだ。


 城は石造りの建物で、砦を連想させるような堅牢さがある。城の周りに緑や花が多く配置されていることで、その雰囲気を和らげてくれている。


 城門前で馬車が止まった。馬車の扉が開かれると、アルフレッド様とマティアス様が並んで迎えに来てくれていた。


 エリアーヌが、驚きとともに嬉しさを隠しきれない表情でアルフレッド様のエスコートを受けている。


「アルフレッド様。わざわざ迎えに来てくださったのですか?」

「ああ。少しでも早くエリアーヌに会いたくてな。長旅で疲れただろう? まずは滞在中の部屋へ案内するから、体をゆっくり休めてくれ」

「ありがとうございます、アルフレッド様」


 エリアーヌは少し頬を上気させ、うっとりした顔でアルフレッド様を見上げている。アルフレッド様も、愛しい人に向ける表情でエリアーヌを優しく見つめている。


 早くも二人だけの世界に入っている光景を横目に見ながら、一緒に迎えに来てくれたマティアス様に話しかける。


「マティアス様も、迎えに来てくれてありがとう。馬車に乗りながらリベルの街並みを見てきたけど、どこも緑が多くてとても素敵なところね」

「リベルのことを気に入ってくれたなら嬉しいよ。来てくれてありがとう」


 笑顔で返してくれたマティアスの左腕に、ふと視線が止まる。


 あれって、私があげた……。


 そんな私の視線に気付いたマティアス様が、左腕に付けているものを見やすいように上げて、右手でそっと大切そうに触れる。


「サラからもらった腕輪だよ。これを付けていると、サラとつながっているように感じられて。毎日付けているよ」

「ま、毎日!? そんな大層なものではなかったんだけど……。ありがとう」


 恐縮しながらも、お礼を伝える。マティアス様に似合うものを考えながら買ったものなので、気に入って付けてくれていることは、素直に嬉しく思った。









 マティアス様とアルフレッド様、エリアーヌ、私の四人で城の中を軽く説明してもらいながらゆっくりと歩を進めていると、進む先の道から壮年の男性と、その娘だろうか、私たちと同い年くらいの女性が歩いてくる。


 彼らはアルフレッド様に気付くと端によけ、軽く頭を下げる。

 アルフレッド様も彼らに気付いたようで、笑顔で話しかける。


「シャルダン卿ではないか。今日は仕事で?」


 話しかけられた男性は、頭を上げて返事をする。


「さようでございます。仕事の打ち合わせで一週間ほどこちらに滞在させていただくことになるかと思いますので、よろしくお願いいたします」


 それと……、と自分の後ろにいる女性に視線を送ってから説明する。


「今回は私の娘も同行したいということで、連れてまいりました。滞在中は城下の街を散策するなどして過ごさせていただきます」


 シャルダン卿の娘は、自分のことが紹介されると、改めて静かに頭を下げる。

 アルフレッド様たちとは顔見知りのようで、アルフレッド様が声を掛ける。


「レティシアも久しぶりだな。滞在中はゆっくりと過ごすといい」

「ありがとうございます、アルフレッド様。お言葉に甘えてゆっくり過ごさせていただきます」


 うわぁ、天使みたいに可愛い人。

 彼女の姿を一目見て、そう思ってしまった。桃色の髪は艶があり、綺麗に波打って流れている。空色の少し垂れ気味の大きな瞳は、じっと見ていると吸い込まれそうな透明感がある。肌は陶器のように白く、シミひとつない。鼻筋もきれいに通っていて、小さく笑みのかたちを作っている唇はぷっくりとしていて八重桜のような色合いだ。


 レティシア様の言葉にアルフレッド様が頷くと、私たちのことを彼らに紹介してくれた。


「実は、今日から私とマティアスの番もヴィオスティから来ていてね。同じく城に滞在する予定になっている」

「エリアーヌ・カスタネールと申します。どうぞよろしくお願いいたします」

「サラ・ノアイユと申します。よろしくお願いいたします」


 番という言葉を聞いて、シャルダン卿とレティシア様は目を丸くしている。


「おお、お二人に番が見つかられたという話は聞いておりましたが、そうですか、彼女たちが。おめでとうございます」

 シャルダン卿は祝福の言葉を掛けると、私たちに優しい眼差しを向けてくれる。

 正直、私は番という立場を受け入れているわけではないので、胸が痛んでしまう。


「私の娘と年も近いかと思います。滞在中、良ければお茶でもしていただければ」

「レティシア・シャルダンと申します。お会いできて光栄です。どうぞよろしくお願いいたします」


 空色の瞳をより垂れ下げて笑みをつくり、洗練された動作で挨拶をもらう。


 それでは、とシャルダン卿たちとはその場で別れた。

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