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魔王にも悲しき過去ありけり……

作者: 雉白書屋

「僧侶……なあ僧侶……」


「う、ううん……あ、ゆ、勇者。あはっ、ごめんね……起きて待ってようと思ったのに、あたしったら、ホントごめん……」


「いいんだよ。ははは、そんなに謝るな……」


「ごめん……あ、また謝っちゃった……でもごめんね。いよいよって時に……私だけ……」


「いいんだって。モンスターの毒じゃ、しょうがないさ。代わりも来たわけだしな」


「うん、あの子には感謝しないとね……と、それよりも、無事に帰ってきたってことは魔王を倒したのよね! 勝ったのよね! 

ほんと、あたし心配で……でも、全て終わったのよね……よかった……」


「いや。さあ、お前はもう少し眠れ。これまで頑張ってきたんだから」


「うん……うん?」


「ん?」


「え?」


「え?」


「ん? 今『ああ』じゃなくて『いや』って言った?」


「ん? いや、ああ」


「ちょっと紛らわしいんだけど、え? 魔王、倒したのよね?」


「いや」


「お、おおう……え、あ、それじゃあ、みんなは? まさか、一緒にいないのは……」


「ああ、故郷に帰ったよ」


「え、それは、その……死んだという意味? 魂が帰ったとか骨を送ったとか」


「ははははっ! 何言ってんだよ僧侶! ははははははっ! そいつはケッサクだなぁ! あははははは!」


「ちょっと笑いどころがわからなくて怖いんだけど……え、じゃあ生きてるの?」


「そうだよ。普通に帰った。パーティは解散だ。俺たちの長い旅も終わりを迎えたわけだ……」


「いや、そんな遠い目をされても、今あんたが向いている先には魔王城があるのよね? 魔王、健在なのよね?」


「ああ。ピンピンしてるよあいつ、へへっ」


「いや、そんな呑んで仲良くなった人みたいな……え、じゃあなんで?

あ、その見た目。全然汚れてないってことは戦ってもいないのね? 

……あ! まさか本当に仲良くなったとか!? 説得したとか!?」


「いや、滅ぼすってよ人類。滅ぼしまくりだ」


「ええ……じゃあ、もうわからないわ……なんで? なんでなの?」


「……あいつさぁ、結構、可哀想なやつなんよ……」


「なんよって……いや、あなた、何言ってるの? 可哀想なのは旅の途中で出会った女の子や老人とかでしょう!?

家族を殺され、村を焼かれた人たちでしょう!?」


「あいつも家族を殺されてんだ。人間にな」


「え……」


「八人家族だそうだ。それで自分以外、全員な」


「大家族……」


「友達や親友も殺された。と、言うか皆殺しの、町丸ごと大焼きだ。おまけに毒を流され土地そのものが死んだ。復興は不可能。故郷も失ったわけだ」


「容赦ない……」


「それで、一人で生きていくために弟子入りしたが、間もなくしてその師匠も殺された。兄弟子や弟弟子もな」


「教わる前に……」


「で、人間に捕まったあいつは毎日、苛められ……いやそんな生ぬるいものじゃない拷問だな。その内容を聞いた戦士の奴が吐いてたぜ」


「あの筋肉と能天気を誇る戦士が……」


「同じく捕まった他の魔族と協力し何とか脱走して、あ、その協力者は殺されたから。

で、その先で出会い、助けてくれた人間の女性に恋をしたけども、その子も人間に殺されて、捕まって拷問を受けてまた逃げて、一人震えていた時に出会った犬も殺されて、花をくれた優しい少女も殺されて……」


「行く先々で……」


「と、まあそんな感じで話聞いてたら他のメンバーも吐いちゃってさぁ、はははははは!」


「ははははって、いやでも、どうするの? 魔王は人類を滅ぼすんでしょ? 説得できないの? お前の気持ちはわかるとか言ってさ」


「相手の気持ちがわかるとかそんなの傲慢だよ。俺なんて目の前で父親を殺されただけだ。あいつほどつらい目に遭ってないよ」


「いや、結構なものだと思うけど……だってそれも魔王のせいでしょ? 憎くないの?」


「いや、確かに魔王の手下だったが、ただの雑魚だ。負けた親父が弱かっただけのことだ。

それに幼い俺を抱えて逃げるという選択肢もあったはずだ。

カッコつけて危険が大きい方を選んだ。それで失敗した。ただそれだけのことさ。賭けに負けたんだ。魔王を責めるのはお門違いってものさ」


「すごい反論してくる……私だって師匠を殺されたのよ」


「いや、あいつも師匠殺されてるわけだから、それじゃ弱い弱い! はははははは! それに僧侶の師匠って結構なお爺さんだったんだろ? あいつの師匠の方が寿命が長かったろうさ! まあ魔族だからっていうのもあるがな!」


「いや、釣り合わないみたいに言われても……。ねえ、魔王を倒さなきゃ世界は終わってしまうのよ? いいの?」


「『倒す』じゃなく『殺す』だろう? 言葉を柔らかくして罪悪感を薄めようとするなよ。

それに終わるのは『世界』じゃなく『人類』だ。主語を大きくして正当化しようとするなよ。

自然や動物たちにとってはむしろ良い。お前、俺を煽り、自分の手は汚さず気に入らない相手を殺させようとするなんて最低だぞ」


「わ、私はそんなつもりじゃ……」


「ふっー、まったく」


「……ん? それ、なに? 本?」


「ああ、あいつが書いたんだ」


「あいつって魔王が?」


「そう、自分の半生とかこれからのこととか、そう、人類を滅ぼした後、魔物たちがどう生きるかとかな。

結構、考えてるんだなぁ……ほんと、ここにも書かれてるんだけど人間ってやつは醜いよ……」


「いや、啓蒙されてるんじゃないわよ!」


「お前の分も貰ってきてやったからさ」


「布教するんじゃないわよ!」


「第四章……隣人の話に耳を傾けなさい」


「うるさいわよ!」


「まあ、そういうわけで俺は代表取締役になったから、困ったことがあったら頼ってくれよな! 支部長!」


「だから人を勝手にしぶちょ……え、代表取締役? よくわかんないけど、それ、偉いのよね? え? まさか懐柔された? 世界の半分やるとか言われて……。

あ、その顔。そう……いや、誘惑に負けた自分を正当化したいからって、相手の話を鵜呑みにしてんじゃないわよ!

ほら、さっさと仲間を呼び戻しなさい! 魔王をぶっ殺しに行くわよ! うおおおおおお!」

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